第459話 素材ほぼ丸投げ

「肉はどこに出せばいい? けっこう大きいから通路ここで出すと詰まりそうなんだ。モリクたちの方にも分けて欲しい」

ガムリに頼む。グリドやモリクたちの谷も見せてもらってるんだけど、行くと宴会になるからね。さすがに3箇所全部で宴会するのはきつい。


 ドラゴンのもも肉、どーんと一本。いや二本、三つの集落で食うには一本では足らない。地の民は宴会ではよく食べる。


 ちょっと俺としては固めな部位なんだが、ドワーフは固めな肉が好きなのでちょうどいい。スネはシチューとか、煮込みにしてみようかと思っている。


「おお、肉か! ではこっちへ」

「こっちへ」

「こっちだ」


 地の民の後をついてゆく。地の民がドラゴンを食うことに忌避がないことはリサーチ済み。リサーチというか、リシュの綱を貰った時に、ドラゴン素材のものもいくつか有ったんだけど、その中のでかい骨の彫刻を前に、「食べでがありそうだ」と笑っていた。


 穴蔵のような地下の住処で、一番広い――作業場や、地下宮殿みたいな場所は除く――部屋に案内された。


「誰か敷物を! 俺は物をどかす」

「誰か敷物を! 一人ではどけられまい」

「誰か敷物を! 二人でも無理だ」


「敷物は俺が! 誰か包丁を持ってこい」

「包丁は俺が! 誰か火を熾せ!」

「火は俺が! 誰か酒を持ってこい!」


 全員俺と言っているが、女性も混じっている。髭も生えているし、地の民の男女の見分けは難しい!


 地の民の共同作業は連携がよくて、そして楽しそう。ちょっとうるさいのにも暑苦しいのにも慣れてきた。


 解体作業が始まり、酒樽が据えられ、切り分けて焼いて、ジョッキが傾けられ、笑い声と歌があふれる。


「うまいぞ、この肉!」

「うまいぞ、食べたことのない肉だ!」

「うまいぞ、何という肉だ?」


 評判も上々。口を挟む暇もなく流れ作業であっという間に宴会になだれ込んでた。食い物に関して地の民は、出どころも気にせず、美味い不味い以外にこだわりはない。


「ドラゴンの魔物肉」


 ピタッと止まるざわめき。


「ドラゴン……」

「ドラゴン……」

「ドラゴン……」


 完全に止まった手元、肉を凝視する目。え? こだわりないし、じゃないの? ダメだったのか? ハウロンとかソレイユが見たら宝物庫な倉庫で、食ってみたいみたいなこと言ってたのに。


「素材……」

「触ったことのない素材……」

「ドラゴンの素材!」


 そっちか!


「骨とか外殻とかあるから、食い終わったら見せるよ」

俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、すごい勢いで消費される肉と酒。まって、まって。ドラゴン肉は味わわないと肉好きディーンが泣くぞ!?


 ちょっと雑な宴会が終わり、地下の生産所へ。上の方にもあるけどね、本気の生産はあのドラゴン型の炉のある付近だ。


 で、どーんと骨と外殻の大部分を出す。なるべく元のドラゴンの形がわかるように。ハウロンにも渡しているので欠けた部分はあるけど、十分に元の姿の想像がつく。


「おお、ドラゴン」

「ドラゴン」

「ドラゴン」

「ドラゴン」

「ドラ……」

「ド……」


 ざわざわとドラゴンという単語が広がってゆく。仄かな灯りの中、ドラゴンの外殻に映る地の民たちの影が小さく動く。


 あれです。地の民って精霊の末裔なんじゃないかって思ったけど、その中でも増えるタイプの精霊な気がしてきた。


「手にとっても構わぬか? 島のソレイユよ」

「いいぞ」


「おお!」

「おお! ガムリよ羨ましいぞ」

「おお! 羨ましいぞガムリ」

 

 いや、全員触ってもいいんだけど。まあ、集落内の序列とかあるかもしれないんで、このタイミングで口にはしないけど。


「預けてくから。何か作りたいなら作って返してくれてもいいぞ」

素材を吟味し始めると、地の民は長いのだ。


「いいのか!?」

「いいのか? これを?」

「これを使っていいのか?」


 悲鳴のようなざわめき。


「うん。グリドとかモリクとか他の集落の人にも回してくれ」

「おう、もちろんだとも」

俺に答えるガムリの目は、ドラゴン素材に釘付け。


赤銀しゃくぎんの谷は何を作る?」

「硫黄谷は何を作る?」

「黒鉄の竪穴は何をつくる?」


「剣か」

「鎧か」

「盾か」


「これだけあれば美しき像も!」

「これだけあれば使い易き家具も!」

「これだけあれば作り放題!」


 大盛り上がりの地の民たち。家具はどうかな? すごい厨二病なデザインしか浮かばないんだけど。夜中に勝手にガタガタいいそうだし。


「頼んでおいた犬小屋を先に頼む」

ドラゴンの素材のことしか見ていないし、たぶん頭の中もそれでいっぱいな地の民たちに、一応声をかけて【転移】。


 転移先は島。


 コレクションの棚に囲まれた俺の塔の作業部屋。棚の正方形の空間の一つに、形のいいドラゴンの外殻を一つ置く。その黒い外殻の前にやっぱり黒い金属のような牙を二つ、魔石を一つ。


 魔石は球体。丸ければ丸いほど力を留めやすく、精霊が宿りやすい。見る限りこれはまん丸、宝珠って呼んでも文句の出ない大きさ。ハウロンが絶賛してた、国宝級。


 使い道は国の気候安定とか結界とか、規模が大きく様々。――俺の場合は飾っておくだけなんだけどね!

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