第458話 リシュにお土産

 お腹いっぱいになって『家』に帰ると、リシュが駆け寄ってきてくんくんと。


「リシュ、ドラゴンの肉だぞ〜?」

リシュに薄い肉をあ〜ん。


 こっちに来てから肉を薄く均一に切るのって難しいことを知った。シヴァはとても上手。


「こっちは尻尾のほうかな? あ〜ん」

おすわりしたリシュのお尻が浮き気味。片手だけ上がった前足、肉に釘付けでお口をあけるリシュが可愛い。


「こっちは肩肉の火を通したの」

少しづつたくさんのハウロン、レッツェ方式。


「なるほど、首周りのお肉とバラのあたりが好きなんだな」

たくさんあるから肉好きな地の民にわけるつもりでいるけど、一番リシュが喜んだ部位はまるまる取っておく予定。


 ディノッソ家族をはじめ、それぞれに分けたけどまだまだある。ハウロン以外は【収納】がないから少しだし。


 ――執事の【収納】はあれです、中で時間経過があるというか、ハンカチとかフォークとか短剣とか毒とか執事の嗜み用だそうです。具体的な例の後半が執事じゃない気がしたけど、気にしてはいけない。


 さて、俺は着替えてもう一度風呂。焼いている最中はとても良い匂いだけど、焼肉臭が全身についている。


 体と髪を洗って、風呂に浸かる。割と重労働だったし、やったことない作業だったから、ちょっと体がぎしぎししてる。疲れたけど充実感!


「リシュ、ほら骨」

でっかいドラゴンの骨。


 風呂に入る前に、大鍋に突っ込んで煮沸消毒してある。武器防具、薬の素材にもなるけど、骨といったらリシュだろう。後でわんわんにもあげようと思ってるけど、わんわんは肉片ついてた方が好みだって言っていたので、ちょっと干すなりなんなりして加工予定。


 綱を親の仇のように噛んでいたリシュが寄ってくる。自分より長い骨の真ん中をかぷっと咥えて、お気に入りの場所に運んでガジガジ。


 とても嬉しそうで何より。地の民からもらった綱は暇さえあれば噛んでいるんだけど、なんかどこか修行みたい。骨のほうは噛んでる姿が笑顔に見える。

 

 リシュと遊んで、今日は早寝。夜はまだ冷えて、潜り込んだベッドはシーツがちょっとヒヤッとするけど、すぐ体温で温まる。


 ぬくぬくしながらリシュにおやすみを言って、本日は終了!


 あっという間に朝。特に目覚ましもかけてないし、昼まで寝ててもいいんだけどね。リシュが散歩を楽しみにしてるっぽいので、起き出す。


 山の中をリシュと散歩。リシュは何か見つけては走ってゆき、クンクン匂いを嗅ぎ、時には前足で引っ掻く。そして俺が進んでいることに気づいて、走り戻ってくる。


 散歩の後はちょっとだけ畑の手入れと収穫。収穫した野菜の外側の葉や太くなった茎など、食べられないことはないけど、というところを多めに取ってしまう。取ったこれの行き先は家畜小屋、大人気なんですぐなくなる。


 鶏たちは普段畑の草をついばんでくれるけど、野菜はつつかない。でもこうして小屋に持ってゆくと食べるのだから、嫌いなわけじゃないだろう。ヤギくんたちは水路そばとか、小道とか、草が短いと嬉しいところを優先的にもぐもぐしてくれるし、元ディノッソ家の家畜たちは優秀だ。


 卵を三つ四つもらって、朝ごはんは、炊き立てのごはんに卵を落として醤油をたらっと。出来立て・・・・の醤油の香りって、すごくいい。


 うん、卵かけご飯は炊き立てがいいな。あつあつだから、卵にいい具合に火……じゃない熱が入る。


 間に漬物をぽりぽりして歯応えを楽しみ、お代わり。二杯目は、卵一個と、卵黄一個。醤油、胡麻をかけたところを海苔で巻いて食べる。卵黄追加で絡んで濃厚、まとまりやすいので包みやすい。パリッとした海苔のいい香り。


 お茶を飲んでご馳走様。余った卵白はあとでマカロンか、ラングドシャでも焼こう。シンプルにメレンゲクッキーでもいいか。


 ファンタジー肉の後は、日本人満喫なかんじで。『食糧庫』を選んだ俺、えらい。いくら強くなったって手に入らないものもあるのだ。


 朝食の後は、また畑の手入れ。春になったら苺を流行らそうかと、お手入れ中。寒さで枯れた下葉や赤く変色した葉をせっせと付け根から取り除く。苺の病気の原因になるからね。


 昼はドラゴン肉を焼いて、ご飯に乗せてネギタレをかけてドラゴン肉丼。八朔はっさくとアスパラガス、ブロッコリー、生ハムのサラダ。


 脂とネギだれが混じって、ご飯を包んで食べると最高。サラダは八朔の酸味が爽やか。


 リシュと遊んだ後に少し昼寝をし、地の民の住処黒鉄の竪穴へ。


「お邪魔します。ガムリいるかな?」

俺に気づいて通路に顔をのぞかせた住人に声を掛ける。


 毎回何か依頼や、素材を持ち込むせいで、地の民の中では、俺のことは知れ渡っているっぽい。声を聞きつけたのか、他の地の民も通路に出てきた。


「水と石の島のソレイユ、ガムリはここだ」

「ガムリはここだ」

「ガムリはここだ」

住人たちをかき分け、奥からガムリが出てくる。


 かき分けられた住人が、ガムリの後半の言葉を繰り返しながら後ろに下がり、通路を開ける。


 黒鉄の竪穴の住人は、黒髪と黒髭ばかりでガムリ以外の見分けが怪しい俺です。


「珍しい肉を持ってきたから、差し入れ。犬小屋ってどんな感じ? あと、もらった綱も喜んでもらえた」

地の民にはわんわんの犬小屋を依頼中。


「おう。そろそろ完成するぞ! だが、完成してから見せたい」

「完成させてから見せたい」

「見せたい」


 髭でよくわからないけれど、笑顔のガムリ。自信作かな?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る