第457話 実食
「この辺?」
「そう、くぼみに沿って切れ」
「骨だけじゃなく筋も硬てぇ!」
「おいおい、なんだこれ」
「それ、破くと苦くなるわよ。気をつけて、そっとね」
レッツェの指示で俺とディーンとクリスが、ハウロンの指示でディノッソとカーンが作業中。
わいわいがやがや解体中、でかいので建築現場かなんかの力仕事状態。アッシュと執事には、部位に分けたものを運んでもらったり、道具に加工する素材を綺麗にしてもらったりしている。
「大きいと大変ねぇ……」
ハウロンがスケッチしながら言う。
大賢者は資料作りを始めたらしく、せっせと詳細な絵を描いては何やら書き込んでいる。けっこう上手で羊皮紙にインクで描かれる絵は、絵葉書かなんかにしてもいい気がする。そう思うのは俺から見るとアンティークっぽいせいかもしれないけど。
インクはこちらでは普通だし、羊皮紙を使うのは紙より精霊の影響が少ないせいだろうし。ハウロン的には解剖図?
解体工程でちょっと滲んでくるドリップは、精霊たちが球体にして浮かしてくれている。臭いも逃さないようにしてくれてるのがありがたい。肉は無臭なんだけど、溢れてくる汁が臭うみたい?
量も多いし、一般的な肉のドリップとは違うのかな。血のほかにも何か流れてるかんじ?
「こんな大量に血と別なもんが出るってのは見てないな」
「俺が読んだ範囲にもなかったけど、ドラゴンの本まだたくさんあったし」
「どこにって……聞きたいような聞きたくないような」
レッツェと会話をしているとハウロンが微妙な顔。
「ジーン、精霊に血抜き頼んだろ? 普通は血に混じって分かんねぇのかもな」
「これは【収納】するべきなんだろうか? 海に捨ててもらう?」
すこし黄色っぽい水玉が結構な数浮いていて、ファンタジーなのかグロいのかよくわからない。
「【鑑定】とやらは?」
作業中のディノッソから声がかかる。
「あ。――不凍の血、このドラゴン種は体をめぐる二種類の血を持ち、その体液の多さから火に強く、寒さにも強い。だ、そうです」
ずんぐりむっくり固有とか書いてあったけど、たぶんこの黒いヤツの種類の【言語】さん翻訳だと思うので黙っておく。
時々あるよね、直訳するとへんなの。それに食べるものではないらしく、説明が短い。最初に回収した赤い方はソースにするとか色々あったんだけど。
「あら。2種類血があるの? いらないならくれるかしら? 研究したいわ」
ハウロンの希望で回収決定。
「アッシュ、ハウロンの方に集めてくれるか?」
「承知した」
球体は突くと丸いまま移動する感じ。邪魔にならないようドラゴンからそっと手で押しやり離していたのだが、ハウロンの方に集めることにする。
ハウロンが球体背負ってなんか悪の魔道士みたいになってるけど、気にしてはいけない。いやでもうっすら黄色い球体に、北の大地の弱い光が乱反射して神々しく見えないこともないな?
シヴァは切り取った部位を食べやすい大きさに切り分けていく係。すぱっと手早く美しく。
「こちらは殻を外したぞ」
カーンはローブを脱いでバリバリと殻を剥がしている。王様、一番力持ちです。
全員精霊剣使用なんだけど、なかなか大変。これで精霊憑きのままのドラゴンはもっと頑健だろう。苦労するのは、倒すんじゃなくって解体だから勝手がわからないのもあるんだろうけど。
解体を終えて素材になるものは全部【収納】、そんなこんなで肉!
――の前に風呂!
で、肉!
再び北の大地に戻って、豪快に肉だ。
「夢の漫画肉!」
「漫画肉?」
聞き返してくるハウロン。
関節部分じゃないけど、骨にどっしりと肉がついている。理想的な形と大きさ、でも焼いても中が生問題。
だがしかしここは日本じゃない。炭火でじっくり、ついでに火の精霊に頼んで中まで火を通す。ちろちろと火の精霊が肉の表面と中を行ったり来たり。外側こんがり、中はミディアムでお願いします。
でかい肉を焼いている間に、普通サイズのステーキがじゅーっと。
「やべぇ、旨え」
分厚い肉を頬張るディーン。
「最初に噛んだ時は弾力があるのに、固くはないのよねえ」
頬を押さえながらシヴァ。
がぶっとやると、分厚い肉が口の中いっぱいの存在感。もぐっとすると、肉汁が広がって肉は簡単に噛み切れる。ロースっぽい部位の肉は、ステーキ最高!
むね肉はさっぱりして、噛むとホタテの貝柱みたいに繊維状にほどける。腹側の肉は脂だらけだけど、良く焼くと脂が焦げて香ばしくて美味しい。少し焦げ気味でもいいくらい。きゅっと縮んでぷるんともちっとの中間みたいな食感。
「他の動物と部位の特徴は重なることがあるが、味は突き抜けてるな」
レッツェとハウロンはいろんな部位を少しずつ。なんか料理研究家が肉の味を吟味してるみたいになってる。
「脂が甘いし、口に残らない。
「アッシュ様、私も初めて知りました……」
アッシュと執事は同じもの。分厚いステーキを上品に一口サイズに切り分けて食べている。
「おおお、酒と合う。分厚いのはビール、こっちはワイン」
ディノッソは種類の違うステーキ2枚。
「……」
カーンはワインで肉を食べてる感じ。焼く時もハウロンやディノッソの精霊を始め、たくさんの精霊にお手伝いしてもらっているし、お肉もばっちり味がするはず。
――ディーンの火トカゲくんに焼くのを手伝ってもらった肉は、ディーンの皿にあります。
今日ばかりは野菜を食えとは言わない。口の味をリセットするために、出してはあるけど、みんな酒で流している。
こんがり焼けたあの肉にかぶりつく。部位的にはリブロースなのかなこれ? だいぶお腹いっぱいだけど、食うよ!
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