第454話 解体計画
「ドラゴン肉か〜。さすがに食ったことねぇな」
事情を一通り聞いた後、ディーンが言う。
「どこの部位がいい?」
「やっぱ肩より少し下がった背かな? いや、飛ぶタイプなら腿?」
「ロースかモモか」
ディーンは食うことに前向きなようで、希望部位も答えが返ってきた。
「ディーンが言うとドラゴンの部位だけれど、ジーンが言うと肉の部位に聞こえるね! すごいよ!」
クリスが感嘆した顔で俺たち二人を見ている。
「受け入れる柔軟性……これが若さなのかしら……」
ハウロンが微妙に諦めたような、情けないような声を絞り出す。
「いや、俺はディーンと同じ年のはずなんだがな……」
レッツェがハウロンを見ないまま小声でツッこむ。
こっちの世界は、俺の知ってる日本人の外見年齢から5歳くらい老けて見えるんだけど、精霊が憑いていると大抵若く見える。だから俺にはディーンが年相応に見えるんだけどね。
精霊が憑いていると健康状態が良くなるからじゃないかなって思ってる。――まあ、憑いた精霊の種類によっては、急に赤ん坊が大人になるなんてこともあるから、そのパターンが多いってだけだけど。
「はぁーー。食うなら、神殿で少なくとも黒精霊の方は抜いてもらえよ。自分でできるならそれでもいいが」
レッツェが深いため息をついて言う。
そういえば、冒険者も住人も定期的に神殿に行くし、食材を含む素材も、強い魔物から手に入れたものは黒精霊を落とすために神殿に持ってゆく。
「強い魔物は黒精霊も強いし、同化が進んでいると体が死んだ後も黒精霊が抜けづらいわ。ドラゴンは強い、乗っ取った黒精霊も強い。精霊が憑いてる者たちならば、多少は黒精霊を弾くでしょうけれど」
ハウロンが説明してくれる。
「なるほど! じゃあ、普通の精霊の方も抜いたら、食べ比べがみんなでできる?」
「……」
ハウロンが両手で顔を覆って上体を斜めに倒れ、隣に座るレッツェの肩で止まった。
「なんで? なんでそんなにドラゴンを食べたいの? それに食べさせたいの?」
ううう、と、わざとらしく泣く声。
「珍しいものはみんなで食べたいじゃないか?」
感想言い合いたいよね?
「その珍しいものは、食べる前に色々選択肢があるんだが……。大賢者様はちょっと落ち着け」
レッツェがハウロンを縦にする。
「ディーンが乗るのなら、私も乗るよ! 美味しいという話だしね!」
片手を胸に当て、片手を伸ばしてきらきらとクリス。
「おう! 美味い肉は大勢で食わなきゃな!」
景気のいいディーン。
「大魔道士ハウロンも知らねぇドラゴンの肉だ、食ったら自慢になるぜ! 人にゃ言えねぇだろうが、自分の中でな!」
ジョッキで飲んでいるディーンは、後から来て一番先に酔っ払っている。
飲んでいる量も多いけど、元々すぐに陽気になってその状態が長い。酔い潰れるまでかかるので、酒に弱いとも言えない。
「……っ! 食べるわよ! そうよ、これは未知のものを知る喜びよ……っ!」
両手で顔を覆ったまま叫ぶハウロン。もしかして、本当に泣いている?
ハウロンが叫びを上げたせいか、口を出さずに飲んでいたカーンの手が止まり、片眉が上がる。
「本気か?」
杯に阻まれた、カーンのくぐもった小さな声が漏れた。
「おい、やけを起こすなよ」
「レッツェも解体には立ち会うだろ?」
あーああ、みたいな顔をしてハウロンを見るレッツェに聞く。
「――解体の方は興味があるな。ただ、俺は黒精霊の影響が出るだろうから、どう考えても邪魔になるんで遠慮する」
なるほど、それで最初から線引きしてたんだ?
「黒精霊抜く、抜いてから呼ぶ。ドラゴンの解体の仕方、何種類か写して来たんだけど、どれがいいと思う?」
レッツェの前に解体図を出す。
食材としてのドラゴンの本から、武器や防具になる素材の本から、薬になる素材の本から、それぞれ解体図を写してきた。
「へぇ、やっぱりドラゴンといっても飛ぶのと飛ばねぇのがいるんだな。飛ばねぇのはワームみたいなやつだと思ってたんだが、この図の中じゃ色々いるな」
ワインの杯と料理を自分の前から避けて、図を見始めるレッツェ。
「今回のは形はこれとこれが近いかな?」
「ああ、二体だったな」
「うん。魔物の方が飛べない方で、こっち」
「図じゃ良くわかんねぇが、骨格が近いなら内臓の位置も大体一緒かもな。内臓を潰したり、血抜きを失敗したりすると食えなくなる。代わりに薬にするためにワザと肉に血を残す方法もあるみたいだな」
図を次々に見ながらレッツェが言う。
「食うための肉の確保を優先するんだろ? 次の優先順位はなんだ?」
「武器防具は装備するには目立つから、いざというときのために薬? ディーンたちがドラゴン装備欲しいならそっち優先でもいいけど」
そう伝えると、レッツェが図の中から何枚か抜き出す。
「伝説のドラゴン装備……」
「過去、勇者が使った装備だね。残ってるのは幾つあるんだい?」
ディーンとクリスが言い合う。
「レッツェ……。アナタもそっち側なのね……」
ハウロンが切なそうに呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます