第453話 食べるのは
「ドラゴンを食うってどこから思いついて――ちょっと、あなたの【鑑定】おかしくない?」
どこから思いついたのか聞こうとしたハウロンが、俺の【鑑定】が原因だと定めた様子。
でも残念、【鑑定】がなくとも日本人ならドラゴンステーキは夢にみると思う。
「ドラゴンの心臓の血を浴びると、鎧いらずの体になる
クリスがいつもより目をキラキラさせて言う。
俺もそれ聞いたことある。葉っぱが張り付いてて、血を浴びなかったとこが弱点なんでしょ? ジークフリートさんっていうんですけど。
「……ドラゴンを食う習慣は、俺が人として過ごした時代でもすでに伝承の中にしか存在せん」
カーンが言うと重々しいな?
「一応食ったやつはいたのか……」
スライスされた鴨のローストを、フォークで食べやすいよう折りたたみながらレッツェ。視線は鴨だけど、何か別のことを考えている気配。
「ドラゴンの聖獣が存在していた期間が長い、人間側にも遠慮が出る。俺がいた火の時代はその後だが、ドラゴンたちの守護精霊たる風の精霊が力を増し始めていた。力量差も広がったであろうし、何より飛行する種が増えて厄介になった」
カーンは炭酸が苦手なようなので赤ワインに切り替え。
「昔のドラゴンは見たことがないけれど。――飛ぶ種は特に風の精霊の助力が大きいわ。空と地、飛べない人間が不利なだけじゃなくって、多くが純粋に強いのよ」
ハウロンが眉をひそめる。
何かドラゴンに嫌な思い出がありそうだな、ハウロン。
「ドラゴンを奉じる民の地に、今でも聖獣が眠ると言う伝承があったが……」
遠い目をするカーン。カーンの言う「今」って、人だった頃の話なんだろうな。
「主たる精霊の交代によって大地は大分様変わりを。ドラゴンを奉じる民自体、だいぶ数を減らしその姿を見つけることは難しくなりました」
ハウロン、カーンに向けて話す時だけオネェはお休み。
「ドラゴンの聖獣がどこかに眠ってるのかもしれないなんて、ロマンだね……」
うっとりした顔でグラスを傾けるクリス。
ほろ酔いし始めると、顎精霊が顎の割れ目をぐりぐりぐいぐいするんだよね。何でかと思ってたら、ディーンの匂いフェチ精霊に対抗してだった。いや、真似かな? 匂いフェチの方は、お酒飲んで温まると汗ばむからだよね。
「今と昔じゃ、だいぶ違うんだ? で、天気が良ければ明日解体しようと思うんだけど」
食べていいですか?
「……」
「……」
「……」
「害がなけりゃいいだろ。すでに獲られて食えるなら鴨だろうがドラゴンだろうが肉は肉だ」
鴨を食べながらレッツェ。
「ちょっと思い切りが良すぎない!?」
「よし! ドラゴンステーキ!」
ハウロンが悲鳴を上げる横でガッツポーズをする俺。
「私には思い及ばなかったけど、ジーンがそんなに食べたがるってことは美味しいんだろうね……。嬉しそうなのがこっちにも移って食べたくなるよ!」
ドラゴンに違う憧れを持っていたクリスが食べる方に改宗!
「ええ……っ」
狼狽えるハウロン。
「数の暴力多数決! 無事解体できたら、明日はドラゴンステーキです!」
肉だし、リシュも喜ぶかな?
「もしや食うメンツに全員入っているのか……?」
カーンがどこか茫然と言葉をもらす。
「部位の希望も聞けます」
ロースですか、ヒレですか? 部位によってどんな味の差があるか不明だし、脂があるのがロースだって限らないけど。
「……」
眉間を抑えて黙りこむカーン。
「いや、お前。それ普通の人間が食って平気なのか? 風の精霊の影響がバカ強い肉ってことなんだろ?」
レッツェが口に持っていきかけたグラスを止めて聞いてくる。
「え?」
あれ?
「え、じゃねぇ。食っていいとは言ったが、自分が食うとは言ってねぇ。ジーンの【鑑定】が美味いってんなら美味いんだろうが、どう考えても普通の人間には過ぎたもんだろう。ディノッソの旦那か、そこの二人くらいでないとダメなんじゃねぇの?」
「えー?」
みんなで食べたいのに。
「ちょっと! そういうことならレッツェこそぜひ食べて、強くなってジーンについてて!」
「ドラゴンの心臓の血を浴びるのだよ!」
ハウロンとクリス。
クリスは食べるより、やっぱり血溜まりロマン派なのか。ぎゃあぎゃあと捲し立てるハウロンとクリスをちょっと面倒そうにいなすレッツェ。
「ただいまさん! 騒がしいと思ったら、宴会か。まざっていい?」
そこにディーンが帰ってきた。
「おかえり〜」
混ざっていいかの返事の代わりに、空いた席の前にディーンの分のジョッキを出す。ワインでもなんでもジョッキの男、ディーン。
「明日、天気が良ければ夜はドラゴン肉だけど、食う?」
「食う!」
駆けつけ一杯、ディーンがぐっとやったところに聞いたら、いい返事。
「ん? ――ドラゴン?」
ジョッキを傾けて口につけたままディーン。
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