第451話 調べ物と確認
相変わらず圧倒される本の量。静まり返った空間に、時々微かな弦の音。膨大な紙が音を吸ってしまうってこともあるけど、ここの精霊は音を持たない精霊が多いんだ。
もしくはさっきみたいにとても微かな音だけ。弦だったり鈴だったり、虫の音だったりするけど。
ちなみにおしゃべりな本は別の区画に収められている。そっちはわいわいがちゃがちゃと煩い。それだけでなく膨らんでみたり細ってみたり、ものによっては火を吹いたりと落ち着きがない。
「ドラゴンに関する文献の中で、人に崇められたり恐れられたりする対象が書かれたものを。あと、素材としてのドラゴンをお願いします」
「……」
図書館の精霊に頼むと、無言でカンテラを掲げ先導を始める。最初に会った少年姿の精霊と一緒だけど一緒じゃない。
俺の
ついていった先、書架にあるドラゴンに関する本は膨大。ロマンか? ロマンなんだな? 太古から存在するせいもあるだろうけど。
素材を調べると欲しくなっちゃいそうだし、先にドラゴンと人間の関わりが書かれてそうな本をば。なんかカーンがドラゴンに仕える一族だか、信奉する民族だかなんだかがいるって言ってたのを思い出して念のため。
ドラゴンかっこいいぜ! ドラゴン、ドラゴン! みたいな一族だろうか? 楽しそうだけど、ドラゴン食べたなお前!!! みたいに襲い掛かられたら困る。襲い掛かられるのもあれだけど、泣かれたらもっとやだし。
10冊ほど個室に持ち込んで読書。学術書っぽい構成のものもあるけど、書いてあるのがドラゴンだと面白い。
4冊目で発見。
……大昔、ドラゴンの聖獣がいたようだ。いや、今でもいるのかな? 特に風の精霊の時代、四匹もいたっぽいぞ? ちょっとベタに年一で生贄捧げる一族もいるってどうなの?
ここに来てファンタジーの気配が押し寄せて来ている。まあ、精霊だけでも十分ファンタジーだけれども。
聖獣は精霊が動物とかに憑いたもの。魔物は黒精霊が動物とかに憑いたもの。人間を積極的に襲うかどうかの違いくらいしかない。普通の精霊が人間に親切かというと違うけどね。
魔物を倒して『黒い細かいの』を浴びると、浴びた人間も影響を受けて凶暴化したり人を恨んだり。精霊が憑いてる人間は強くなることが多いけど、『細かいの』はじわりとしみて同化する。
――聖獣を倒して、『細かいの』を浴びることで勇気を示す集団も一定数いるらしいぞ? ドラゴンスレイヤーさん、ドラゴンスレイヤーさんですね?
普通に神として信仰してる一族もいるし、肉を食うことで同化を望む一族もいる。と、いうことで色々なタイプがいずぎて、ドラゴン食べていいのか謎すぎる。
カーンが交易する予定の人たち付近はどうだろ? 広く浅くな知識は入れたから、ご当地限定な知識を探そう。
部屋を出て、新しい本を持ってくる。読み終えた本は、机の上に置いておけばいつの間にか消えて、棚に戻っているんだけど、持ち出したのは俺なんでちゃんと自分で戻す。
その方がどこにどんな本があるか場所を覚えられるし、読んだ本の周辺には当然ながら関連する本がある。題名に惹かれて手に取った本が当たりだったりする。それもまた楽しい。
コーヒーを淹れて、本のページをめくる。
――いろんなタイプがいると言ったな? あれは嘘だ。ドラゴンの大陸、気候が変わり過ぎて人の住める場所が極端に減ってました。いろんな民族が大陸中に散って暮らしていた頃は緑豊かだったみたいだ。
風の精霊の時代は、竜が繁栄しまくったようだけど、人は中原の方に移動したらしい。ドラゴンの大陸では魔物化した竜と、聖獣の竜との戦いもあったみたいで、今残っている一族は根性があった一握り。
今は眠りについてるっていう伝説の聖獣――当然ドラゴン――を守りつつ、普通のドラゴンには敬意を払いつつも、素材として色々利用するようだ。
よし、食べるのも素材加工もセーフっぽい! あ、ダメ押しでカーンに聞いとこうか。
◇ ◆ ◇
「そういう訳で、どうです?」
食べていい?
「……」
無言のカーン。膝に肘を乗せ、組んだ指に額を乗せている。
「……」
ハウロンは机につっぷしている!
カヌムの借家、一階の居間にいる2人。ハウロンの【転移】で移動しているのだろう2人は、大体一緒にいる。
レッツェたちはまだお仕事中。そもそも酒で済ますカーンと違い、屋台での外食が多いんだよね。
「事前に確認に来たのは、評価する……」
顔を上げないまま言うカーン。
「捕まえる前に確認……。いえ、ドラゴンを見に行くとは言っていたわね……」
なんかうめいているハウロン。
本気にしてなかったわけじゃないのよ……、でも。とか聞こえて来る。
で、食べていいの?
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