第450話 ナルスのハーブ
解体場所の候補は北の大地なんだけれども、その前に寄り道。
テルミストの図書館で、ドラゴンのことについて調べる予定だ。どこにいるとか、時々姿を見せるドラゴンのこととか、ドラゴンを探すための本は漁ったんだけど、素材としてのドラゴンは調べていない。
【全料理】があるので、料理のための解体は楽なはずだけど、それで料理以外に使う素材が無事かは自信がない。
図書館内で食べるって訳にもいかないから、先にごはん。テルミストでは食べたことがあるので、今回は別の島。
あんまり小さな島は、船で行く手順を踏まないと怪しすぎるので、割と大きめの島。たくさんの島の中で、遠目に緑が多そうなところを選んだ。
俺の島を始め、タリア半島付近の島は頑張って岩盤を打ち抜けば真水が出るのだが、この辺の島は塩味の水なんだよね。ドラゴンの住処から戻って来た俺にとってはそうでもないけど、風も強め。
そのせいか、オリーブとかオリーブみたいに表面に白い毛が生えたような感じの緑が普通で、目に鮮やかな緑が珍しい感じ。白い毛みたいなので、朝露とかを吸収してるっぽい。
他の村を見学して、こっちの村の様子を見に来ました、を装う。ちょっと離れたところに【転移】して、歩いて村に入る。
島の小さな村の一つ、黄色味の強い黄土色の土と石でできた家が並ぶ。大きさの揃わない石を土で固めたような家なんだけど、扉はオレンジっぽい茶色で、俺から見るとなかなか趣のある感じ。
俺の胸くらいまでの塀が長く続く。村の家の壁より塀の方が断然面積があるくらい。風避けのためかな? いや、石だらけの島みたいだし、石をどけるついでに積み重ねて塀ができた感じかな。
俺の島も植物が植えられる地面の確保に苦労したしな。――【収納】を利用した力技で解決しちゃったけど、崩れないように村人が石積みを作ってくれている。そのおかげで俺が土を入れたところ以外も、平な土の土地が増えた。
この島の緑の正体は葡萄だった。栽培されてるっていうより、あちこちにわさわさと自然に生えて増えました! みたいな感じ。目の前の葡萄も塀に絡んで、わさわさしているところはトンネルみたいになってる。
そして問題発生、飯屋がない気配。
「すみません、この村にご飯を食べさせてくれるところありますか?」
暇そうな爺さんに、銅貨一枚を取り出して見せながら聞く。
「なんだあんたは? 何しに来た?」
俺の存在に気づいた爺さん。
すぐ側に近づけばいることは認識されるんだけどね。じゃないと踏まれたり潰されたり不具合が。離れるとすぐ忘れられるけど。
あれ、これ他の村からやって来た風を装うの無意味?
「俺はあちこちの食べ物を食べ歩いて勉強してるんだ。この島でよく食べる料理が食べられると嬉しいんだけど」
銅貨を握らせながらにこやかに。
「おう。物好きだな」
笑顔ではないけれど、爺さんの眉間の皺は消えた。
「この村で料理上手の方を紹介してくれると嬉しいんですが」
「料理上手っていやあ、鍛冶屋んとこのハンナだな」
そう言って立ち上がると、さっさと歩き始める。
小さな村なんですぐそこ。
「おう、ダン! 奥さんいるかぁ?」
開いてる扉にそのまま入ってゆく爺さん。いいのかなと思いつつ、続く俺。
中は土間というか、地面そのままで、農機具っぽいものを直している男性がいた。あんまり鍛冶屋っぽくない。
「ハンナなら裏にいるぞ」
作業を続けたまま、爺さんの存在をスルー。俺のこともスルー。狭いので、俺がいることがわかるくらいには側にいるんだけど。
で、恰幅のいいよく笑う奥さんにこの島の料理をご馳走になった。マグロを山羊のチーズとハーブで焼いたやつ。料理の名前は特になく、マグロ以外でも作るそうだ。
山ほどかかっているハーブは、フェティという。なんかトロピカルな味と、臭いの中間みたいな味でこう……。山羊チーズにはだいぶ慣れたんだが、きついです奥さん。
どう見ても野菜不足な感じの島だし、山盛りかけるのは栄養を補うためだとは思うんだけど。食べ慣れたら癖になる……かも、しれない。
うん。笑顔を保つのが大変でした!
お礼に小銀貨を渡して終りょ……。葡萄の葉っぱに、さっきの料理を二、三人分包んでくれました。
手に持ったまま精霊図書館の入り口、寺院へ。【収納】にしまったが最後、絶対出さない気がする。
「いらしたか。――ここでは金貨より水がありがたい」
水瓶を出すと老人がゆっくりと頭を下げ、礼を言ってくる。
お互い秘密を持つ身だし、面倒なので【収納】は早々にばらした。水を一人で運んでくるのはかさばって大変で。真水はルーディルに捧げる他、多くの精霊たちが好むものでもある。
「コレも良かったら」
そして押し付ける郷土料理。
「なんですかな?」
「ハーブで包まれた焼き魚?」
老人が包みを開くと、なんとも言えない香ばしい匂い。それを追ってなんともいえない微かな臭いが混ざる。
「おお、ナルスの……。久しぶりにいただきます」
嬉しそうに笑うお爺さん。
まさかの好評!
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