第449話 オススメ

 ドラゴン探索二日目。


 山脈の東側のきわ、雪解け水が流れている。ほとんど止まってるみたいな、ゆるい流れだけど。少し白っちゃけた色をした草がたくさん生えている。


 ここにはヴェロキラプトルが大きな鱗で覆われたような、馬くらいの大きさのドラゴンがいた。


 平均5、6頭の群れで生活してるみたい。多くて15頭くらいかな? 集団で狩りをしてるのを結構見かける。飛ばない。


 【鑑定】にはドラゴンってでるけど、恐竜っぽいよ! 恐竜もかっこいいけど違う、違うんだ。なお、ヴェロキラプトル(仮)型の地の精霊はいた。かっこいいけどコレじゃない。


 冷えるんで、精霊に空気の層を体の周りに作ってもらおうとしたんだけれど、複雑な依頼ができなくってですね……。なんか透明なぽよんぽよんしたもので覆われている俺です。


 目的は達成して暖かいしいいんだけど、歩くと地面に触れる前にぽよんとする。あと風で飛ばされ易くなったので、重くしてもらった。このぽよん装備では、エクス棒がうまく使えないのが残念。


 南北に横たわる峻険な山に登る。岩山で、上は雪と氷で白く見え、岩肌が見えるところはブルーグレイ、中腹あたりからくすんだ緑で覆われている。寒くて風が強いせいか、木々は地を這うように生えていて、遠くから見るとぱっと見草。


 上に伸びず横に伸びて、松みたいな細長い葉がびっしり、絨毯みたいに山肌を覆っている。高さは俺のすねもないくらいだし、なんか不思議。思わず枝をめくってみたら、白い鳥と目があった。


 ごめんなさい。


 そっと枝を戻す。一拍置いてガサガサとすごい音を立てて、枝の下を逃げていった。悪気はなかったんです、ごめんなさい。


 他にはイタチみたいなのとか、耳の短いウサギみたいなのとか。時々大怪鳥が旋回。地鳴りみたいな音がしたかと思ったら、氷みたいな雪が一山崩れてどどどっと下へ。


 あそこって山じゃなかったんだ。すごい迫力だなと思って見ていたら、ドラゴンと目が合った。って、これ合っちゃいけないやつ!!!


 倒すのは簡単……かもしれないけど、俺がお邪魔してる身だから! いや、魔の森とかあちこちで、魔物はこっちからお邪魔して倒してるけど!


 急いで逃げる。俺の探してた翼のあるドラゴンさんなんですけど、ここまで側でお会いするのは想定外です。【探索】すると色々丸わかりで楽しくないから、使ってないのがまずかった。


 自分で蹴った転げ落ちる雪のかけらを追い越して、ダッシュ。幸い俺の方が速いし、小回りがきくので岩の割れ目に逃げ込んでセーフ。ドラゴンが覗き込んでる気配がするけど、【転移】でずるして、ドラゴンから少し離れた全体が見やすい場所へ移動。


 ぽよんぽよんする何かのおかげで、俺は無臭だし、気配も消している。音を立てず、目視されなければ平気なはず。尖った岩の影に身を隠しながら、亀裂に張り付いてるドラゴンを観察。


 絵に描いたようなドラゴン。雪山に似合わないオレンジ色っぽい硬そうな鱗、長い首、尻尾、鋭い爪、大きな翼。


 あの巨体、あの翼でなんで飛べるのかと不思議だったんだけど、風の精霊が憑いている。周囲の風の精霊も助けてるみたい?


 人間を人間の領域で襲わないってこと以外にも、ドラゴンと風の精霊の間でお約束があるのか、もともとそういう種族なのか。


 というか、精霊が憑いてたら他の精霊が遠慮するんじゃないか? 周囲の精霊がドラゴン型とるのは、もしや稀……? いやでも、うちのメモ帳ノートも執事の姿をとってるし、頑張ればいける?


 考えてたら、眺めていたドラゴンが動きを止め、顔を動かす。そして一声低く吠えたかと思うと、山裾に向かって滑るように飛んでゆく。翼は動かさず、凄い速さ。


 飛んで行く方向には最初に見つけた翼のないドラゴン――の魔物。怪獣大決戦みたいなのが始まった。ドラゴンも魔物化するんだ? 冷静に考えて、クマだって人間だってするんだからするよな。


 で、魔物化した同胞は倒すのか。いや、魔物になってなくてももしかして餌とかそういう……?


 ドラゴンの生態が謎だ。ちょっと図書館で下調べしてから来ればよかったか。でも元々はドラゴン型の精霊探しだしな。


 ドラゴン同士の戦いは、衝撃の相討ち。お互い喉笛に噛み付いたまま、巨体を横たえている。魔物の方のドラゴンから黒い『細かいの』がもやもやと散り、翼のあるオレンジっぽいドラゴンからは風の精霊が離れてゆく。


 そしていそいそと【収納】する俺。だって、【鑑定】さんがステーキがオススメって、勧めて来るんですよ!


 素材何にできるんだろう? って、【鑑定】したらまさかの表記。ドラゴンステーキってファンタジーじゃなかったんだ。いや、精霊のいる世界は十分ファンタジーだな。うん。


 安全なところで解体して食べ比べる所存。

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