第448話 最南端

 俺の周りに風がびょうびょうと吹いている。


 ――そう言うわけで、ドラゴンの大陸です。あの、おっかないジャングルを超えたんで、ちょっと気が軽くなって、草原をどんどん進んで、今は赤茶色と白っぽい層の見える、上が平な岩山が連なる風景の中にいる。


 すごい風が吹いてるから吹き飛ばされそうだけど、絶景。どうもここは風の精霊が溜まる土地らしい。南下するごとに吠える風の精霊、狂う風の精霊、そして絶叫する風精霊と、なかなかのラインナップ。それぞれの数も多い。


 そしてドラゴン。そういえばドラゴンは風の精霊と人を積極的には襲わない契約だかなんだかしたんだったか。風の精霊とは縁が強くて、それで風が強いのかな? 


 縄張りに入り込んだ俺は、その人を襲わない契約の範囲には入らない感じがひしひしとするので、見つからないように潜伏中だ。


 ドラゴンでっかい! ここには大怪鳥みたいな鳥も、小型トラック並のサイの大きいのみたいなのもいるんだけれど、ドラゴンは飛び抜けて大きい。その巨体で、大怪鳥やサイを捕まえて貪り食っている。


 お食事どうしてるのかと思ってたんだけど、普通に肉食ですね。いや、種類によっては草食もいるのかもだけど。なんというか、家くらいある肉食獣の食事は、間近で見ると迫力。ちょっとヒヤリとした気分になる。


 ここ、飛ぶタイプのドラゴンが少ない。周囲の岩の色と似たゴツゴツした外殻の、翼のないドラゴンが幅を利かせている。


『〜♪』

手伝ってくれている精霊が、気を引いてくる。


 ここの精霊は言葉を話さない。なんか、木琴の高音域を何個か同時に打ち鳴らしたような声。


 ドラゴンのお食事シーンから目を離して精霊を見ると、平たい石みたいな姿の精霊がくるくると回りながら、少し進んでは戻り、少し進んでは戻り。そっちの方を岩陰から覗いてみたら、別なドラゴンが闊歩かっぽしていた。


 こっちはお食事中のドラゴンと違って、黒に見える茶色。


 ここにいる精霊たちは、街に近い場所にいる精霊たちと少し在りようが違う。大地の精霊たちはそのまま大地の形をしている。大地の形っていうのは変だけど、なんか平たいの。苔の精霊は苔の形、岩の精霊は岩の形。なんというか、風景に溶け込む形をしてる。


 司る物の姿をそのままとってる感じ? 属性が混じっている精霊が少ない気もする。もしかしたらこのあたりの精霊は、古い精霊の姿を留めているのかもしれない。


 人間の言葉は通じないけれど、隠れたいとか、体力を回復したい、みたいなシンプルな願いは聞いてくれる。だからそっと隠れながらドラゴンの観察中。感想はでかい! ついで、生き物なんだなーって。


 島から見た、空を飛ぶドラゴンもどこかにいるはずなんで、ゆっくり探す予定。でも、俺の予測に反してドラゴン型の精霊を見かけない。


 とりあえず大雑把な地形の確認して今日は帰るか。地図には長細い大陸の南の端が浮かび上がっている。西の海岸沿いに山脈があるみたい。東の海岸の方が近いので移動――砂漠だった。


 気温が低い赤っぽい乾いた大地。さらさらした感じじゃないんだけど、さっきの岩山の色と同じ色の荒い土塊に覆われて、カラカラに乾いている。そしてここも轟々と風が吹く。土埃が服の中に入り込んでくるし、退散!


 で、西側。こっちはフィヨルドですね! 絶壁の複雑な海岸線みたいなあれ。凹んだ所々に氷が張り付いている。


 剣みたいな高い尾根が続く山を挟んで、片や氷雪! 片や砂漠! なんというか最果てって感じ。地形が激しいよ!


 最南端は、ペンギンっぽいのがいた。俺よりでっかいのがどーんと並んでる感じなんだけど、こっちに気づいて胸を反らせて一斉に威嚇してきた。攻撃される危機感を持つべきなんだろうけど、なかなか可愛い。


 ◇ ◆ ◇


「と、今日はこんな感じでした」

「いや、お前、ツッコミどころしかないからな?」

レッツェが半眼で言う。


 夕食時、借家にお邪魔してギルドとレッツェたちの話がどう進んでいるか聞き、俺は俺が今日体験したことを話した。


 事件は一応決着はついたとはいえ、まだ細かいツメとかあるようでみんな昼間は忙しそう。だから会えるのは朝か夜。


 結構問題のある依頼も、大抵は報酬を受け取ったらすっぱり終了ってことが多いらしいんだけど、今回はギルドそのものが絡んで、かつ申し訳なく思ってるらしく、逆にバタバタしているらしい。


 娘さん二人の方は、「精霊の愛子」「領主の血脈」ってことで、適当な貴族と結婚して領主の奥さんとして――とか要望が出てるらしいけど、本人たちは街に戻りたいらしい。


 火事での惨事があったから、こっちも無理強いしたら精霊がまた怒るかも? ってことで最終的には本人たちの決定が優先されるだろうって。


 悪い方向には行きようがなさそうなんで、胸をなでおろしたところ。ちなみに朝はアッシュのところに顔を出して、朝食を一緒に食べた。安否確認じゃないけど、なんとなく顔が見たい。


 貸家に来たのも事件の細かいところが気になったというより、顔を見に来た感じ。


「そんな今日は肉屋に肉を買いに行きました、みたいな口調で話されても普通じゃねぇからな?」

「俺はなんかだんだん慣れて来た。それがジーンの日常だよな」

レッツェが続けると、俺の差し入れの肉を食いながらディーンが言う。


「ああ、まあ。俺も大概慣れては来たが、コイツがほかの奴らの前でほいほい話題に出しそうなくらい軽いのがどうも」

「過保護だねぇ」

どこかバツが悪そうなレッツェにディーン。


「ドラゴンはロマンだね!」

笑顔のクリス。


「お願い慣れないで? 慣れる方がおかしいのよ?」

ハウロンが何か言ってる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る