第445話 先にお知らせ

 嫌がらせどころではない。


 爆発とかしないって言ってなかった? 黒くなるだけだって。いや、待って、領主の館? ギルドじゃないから――あの領主の娘さん分か、爆発した契約書!!!


 あ、でも他のものが爆発した可能性ワンチャン!


『お約束が破られると自由なのね! 嫌なお約束は自由になったらぷんぷんしちゃうの』

『嫌がってるお約束は私たちも嫌なの!』

『だからちょっと嫌な紙に悪戯するのよ』

『ぼんっ! ってしたり、めらめらさせたり』

『ねー!』

『ねー!』


 きゃっきゃと楽しそうな精霊たち。契約者同士が双方納得していないお約束……じゃない、契約は精霊も嫌なのか。確かに契約内容を守りたくない相手に守らせるためには、精霊の力をたくさん消費しそうだし嫌か。


 って、契約書が爆発したのが確定しました。怒られ案件!


 あああああ。


 やらかした。城塞都市の神殿に【転移】したとき、思い切り怒っていたので無防備だった。というか積極的に精霊に頼んでいた。俺の心を読んで、動くの知ってたのに!


 普段は頼んだ時だけ融通してくれる感じなんだけど、きっと俺の感情が大きかったせいだ。しかも驚くとか一瞬の怒りとか、突発的で短く終わる感情ではなく、持続したもの。


 でも今回のことについて、怒らないって無理だ。これはあれだ、強めの精霊を連れ歩いて、外部で制御してもらう方向で……。


 これが解決してみんなが戻ってきたら、本格的にドラゴン型探しに行こう、ドラゴン型。


『ありがとう。これ以上はいらないので、俺の欲求に縛りつけられないで自由に』


 忖度というより、俺の感情に精霊たちが巻き込まれてるみたいにも感じる。特に小さな精霊には影響が顕著、黒く染まらないまでも在りようを変えてしまいそうで少し怖い。


 普段漏れてる【解放】程度の力じゃダメなくらいの暗い感情。どう考えてもいい影響はない。


 当初の予定とは反対に、精霊に解散をお願いして『家』に戻る。自首して、やらかしましたって自白するには娘さんがいるしな。


 そう言うわけで、ハウロンの精霊からの連絡を待ちつつ、やることをやる。ドラゴンのいる大陸、進む予定ができたし、今のうちに片付けよう。


 森の家で使った羽毛布団は山の中の『家』で、水路に突っ込んで洗浄中。血が滲みちゃったところは除いたけど、一応。乾かしたら新しい布に詰め直す予定。古い布は古布屋に売り払う。白くて大きな布なので高めに売れるはず。


 山の中を点検を兼ねてリシュと散歩。混みすぎた枝を落として、絡み付いたツルをひっぺがす。冬枯れのこの時期、やっておきたい作業。ツタは後で籠でも編もう。


 地面に陽が当たるようにしてるから、春にはノビルとか黄緑色の柔らかい草が生える。きれいな山の森になったんじゃないかな? 


 鼻面を穴に突っ込んだのか、土をつけているリシュの鼻の頭を拭う。物理世界に干渉ばっちりしているので、少なくとももう存在が危ういってことはないと思う。


 ぷしゅっと鼻を鳴らしてぷるぷるっとするリシュ、うちの子可愛い。


 家に流れ込む小川沿いにお散歩、ここは水仙をせっせと植えた場所なので咲いている今の時期、いい香りがする。夏は紫陽花を植えた場所が主な散歩コース、春は何も手を加えていないタンポポやオオイヌノフグリが生えているコース。


 秋用に何か植えようかな? でも秋は散歩しつつ栗を拾ったり、きのこを探したり忙しいんだよね。


 うん。現実逃避です。


「バレる前に自首しにきました」

「何の? まあ、とりあえずカーンと話を聞こうか」

ディノッソの家に告白しに行ったら、とりあえずストップが。カーンを巻き込む自然な流れ、さすが金ランク。


 ディノッソの後について、借家に移動。


「何だ?」

冬の間は暖炉の前にだいたいいるカーン。俺の作ったマントも愛用してもらっている。本日はベイリスが背中にいるオプション付き。


「やらかしの告白です」

先に言うスタイル。


「……俺にコレは止められんぞ?」

眉間の皺を深くして一度目を瞑ったカーンが、不本意そうにディノッソに向かって言う。


 肩から顔を出してくすくす笑うベイリス。なお、ディノッソには見えていないようなので、姿は消している――というか、砂漠から離れているので弱体化しているのだろう。


 砂漠では見えることがデフォで、カヌムでは見えないことがデフォ。カヌムでも人の前に現れたりできるけど、力を使う。


「一人で聞く勇気がねぇの!」

片目を瞑って、笑顔で片手拝みに言うディノッソ。


「とりあえず酒とつまみ用意する」

「酒で誤魔化されると思ってるな?」

「気のせいです」


 ディノッソに答えながらテーブルに赤ワインを小さな樽でどん! 余ったらカーンが飲むだろう。


 まず野菜、ラタトゥイユ、キャロットラペ、ピクルス、生ハムサラダ、ポテトサラダ。肉はローストビーフ、鴨のロースト、骨つきのローストポーク。魚介はタラモサラダ、キスのエスカベッシュ、スモークしたオリーブオイル漬けの牡蠣。チーズその他。


「ささ、食べて」

「……」

俺を見たまま、ゆっくりローストポークに手を伸ばすディノッソ。疑惑の眼差しやめてください。


 俺は薄切りのバゲットにタラモサラダというか、ディップをつけて食べる。じゃがいもは裏漉しして、マヨネーズとバターに同化している。クリーミーだけど、明太子使用なので少しだけピリッと。


「ああ、くそ。美味いな」

ディノッソが言う。美味しいことはいいことだと思います。


「ワインも美味い」

カーン。


 ベイリスがエスカベッシュをつついている。正体はキスを一度揚げて酢漬けにしたものだ。南蛮漬けのようなもので、レモンとスライスした玉ねぎも付けてある。


「よし、だいたい覚悟が決まってきたぞ」

ディノッソが言って、ワインを飲み干したグラスをテーブルに置く。


 そろそろ告白してもいい頃合いですか?

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