第428話 ショック療法?
「そういや、俺はしばらく仕事で留守にするわ。ディーンとクリスもな」
レッツェがカードを配りながら言う。
「アッシュ様もでございます」
アッシュもってことは、執事もか。
「どこか行くの?」
「あ。俺が断った依頼、そっちに回ったか」
俺が聞くのとディノッソが言ったのが同時。
「内容は言えねぇけど、旦那に話がいったのとたぶん同じ依頼だろうな。ギルド経由でとある高貴な方から、半強制依頼」
ため息をつきそうなレッツェ。
「王狼バルモアに断られて、こちらにお鉢が回って来たようですな」
変わらない声音だけど、執事も若干面倒そう。
「家族の側から離れるような依頼は受けるつもりはねぇし、カヌムの冒険者ギルドには俺に対して強制力ねぇからな」
「うぇええ。城塞都市のアメデオんとこ行けばいいのに」
ディノッソに断られて、金ランクと銀ランクの中で腕がいい冒険者に声をかけた感じっぽい。
「城塞都市は目立つからな、避けたんだろ。半強制ってとこは気に入らねぇが、依頼の報酬自体は悪くねぇ。それに無事依頼完了した後は、金ランクに上がったばかりのディーンとクリスの箔が付く」
肩をすくめてレッツェが言うけど、不穏不穏。
レッツェと執事に持ってゆく保存食を頼まれた。他の人もいるからと、干し肉とか干しきのことか一般的なものだ。
出来上がったものを渡す時、冒険のために買い込んだ魔法陣を見せてくれた。暖をとるための魔法陣とか、飲水を出す魔法陣――魔石も買い込んだようだ。
今まで持って行かなかった魔法陣を用意するってことは――レッツェはいざと言う時のために普段から持ってそうだけど――、長くかかるか、道中で調達が難しいところに行くんだろう。もしくは、途中で狩なんかする余裕がないほど急ぐか。
安全第一で行って欲しいな。どこに行くか分かれば、前みたいに先に下見して精霊たちに頼むのに。
ツタちゃんを持っていくみたいだし、アッシュには腕輪があるし……。
神々ともすれ違って会えていない。俺の体やら【転移】やらの仕組みを聞くために、会いたいって思ってるんだけど。
会いたいと思った途端なかなか会えない。冬が近くなると雨が降る日が増えて、畑に行く時間が不規則になる。神々が訪れてる気配はあるけど、ものの見事にすれ違い。
「まあ、そのうち会うだろ」
リシュを足の間に抱いて、もふっと堪能。
暖炉の前で火を眺めながらリシュを撫でる。さっきまで綱引きや取ってこいで室内遊びをしていたので休憩。
たまにはこんな日もあるけど、リシュが可愛いから癒される。
さて、『家』とカヌムは雨だし、みんな忙しそうだし島に行く。燦々と照る日差しは強く、みんな日陰を歩く。カヌムでは晴れるとわざわざ日光浴をするために外に出るって言ったら、ソレイユに変な顔をされたのも記憶に新しい。
「おお……っ!」
のこのこ島の路地を散策してたら、なんか正面に衝撃を受けました! みたいな顔をした警備さん。
……警備さん?
「是非、私めをニイ様の
ばっと片膝ついて頭を下げてきた。
なんか勢いが別人のようだけど、このおっさんはあれだ、カスタードコロネ――じゃないバルトローネ。なんでいるの? きかって麾下?
「ソレイユ殿にご許可頂き、ただいま仮で警備に所属、手伝いをしております!」
ソレイユ、なんでこの面倒くさそうなおっさんを……!
「このバルトローネ、ニイ様の技量に感服いたしました! チェンジリングの者たちへの詫びもいたし、許しをいただきました。剣術指南の地位など望みませぬ。このまま警備の一員からやり直しを是非、是非に!」
さらに一段頭を下げるバルトローネ。
ソレイユ、追い出せなかったの? それとも、ソードマスターの名の利用価値に追い出さなかったの? どっち?
「……」
ソレイユの心算がわからず、思わず無言。
チェンジリングのファラミアを大事に思っているソレイユが良しとしたなら、面倒そうなおっさんだけど就職させてもいいかな、とも思う。俺は島にあんまりいないし。
「我が君、お帰りなさいませ」
そして現れるアウロ。
ああ、ハウロンに魔力の隠し方教えてもらおうと思ってたんだった。
「バルトローネ殿にはこの数日、兵士を鍛えて頂き、島の者との関係も良好です」
そして欲しい情報を耳打ちしてくる。
「……アウロたちが良いって言うなら。あんまりギスギスするようなら追い出すけど」
「はっ! ありがとうございます! ――アウロ殿にも礼を」
顔を上げたバルトローネがアウロに笑顔を向ける。なんかぶつぶつ暗い印象だったのに、吹っ切れた顔してる。こっちが本来の性格?
ジメジメしてるよりはいいけど、おっさんのキラキラ期待に満ちた顔ってどうなんだこれ。
島になんか変な人が増えました。
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