第427話 確認事項
「……順調です」
目を逸らして水を飲む。鍋焼きうどんは熱いね!
「うわぁ、丁寧語」
ディノッソが嫌そうな顔をしながら横を向く。
「ナルアディードで、新しい商品が色々出てるらしいですな?」
「うっ」
執事の笑顔が俺の胸に刺さる!
「基本、苗を販売して配布と販路拡大は他の商会に任せている感じです」
じゃがいもとか、収穫量が多い小麦とか。
「精霊灯なるものを国が取り合っている、と」
「ぐふっ!」
そっちか!
「聞こえてくるのは、ナルアディードの商業ギルド、海運ギルドの両ギルド長、若き商会長――兼領主。我々は扱う商品で類推できますが、上手く目を逸らしてらっしゃる」
ごめん、その領主俺。
ソレイユと取り違えられてるだけだからなあ。執事が名をあげるってことは、もう少しなんとかした方がいいかな。
「……双子の扱いにお困りになるようでしたら、お呼びください」
執事がそう言って微笑む。
呼んだらどうなるんですか?
「いや、よく働いてくれてるし」
商売の方じゃないけど。
「あんま危ない橋は渡るなよ?」
「商売は、いざとなったら全部捨てて逃げる宣言してるから」
ディノッソに「はい」と答えられない俺。
心配してくれるみんなには悪いけれど、危ない橋を渡らないとは約束できない。というか、広めたいものが勇者ほいほいにもなる「危ないもの」なんです。
ある程度広がるか、シュルムが輸入しやすくなれば平気な気もするけど。姉は出向くよりも、呼びつける方が好きだし。
宝石とか服とかは普通にナルアディードに商館を持っている、シュルム近隣の商人に作らせたりしてるっぽいしな。海運ギルドでアホみたいな高い値段でシュルム直行便とか作ってもらえればこう……。
姉が手に入れた途端、値段下げて希少価値なくしてやろうかとか、色々どうしようもない考えが脳裏をめぐる。
トマトはタリア半島の先っぽのほうにある領地から。ジャガイモや、今作ってるキャベツとかはナルアディードから。ナルアディードは色々なものが集まるから、そこから広がるのはおかしくない。
でもちょっと、離れた場所にも売りつけよう。広がらないと困るから、北の地の交易してるとこに持ち込むのがいいのかな?
「結局見捨てられなくなったら、いっそ全員連れて逃げろ。上のやつは危ねぇが、下っ端までどうこうってこたぁないだろ」
レッツェがうどんを食い終えて、かちんと箸を置く。
箸置きも作りました。箸置き一号は大福型、リシュ型も作りたいけどちょうどいい色がでない。
「なるほど。ジーン様に協力者を見捨てることができるか心配しておりましたが、お持ちの【転移】は規格外でございますしな」
「カーンの国なら領民募集中だしな」
執事の言葉に付け加えるディノッソ。
「だからって油断するなよ? お前の偽物が来たら、周囲の精霊の助けは借りられなくなるかも知れねぇ」
姉のことしか考えてなかったけど、アレもいるのか。レッツェの話でドキッとした。
人のことしか考えてなかったけど、精霊も逃がす算段しておかないと! 特に青トカゲ君とか、物に憑いてるのはどうしたらいいんだろう?
「全部助けようとしねぇで、【転移】ができるうちに逃げろよ?」
ん?
「何だ?」
レッツェが多分妙な顔をしているだろう俺を見返す。
「いや、【転移】に周りの精霊の助けはいらないから」
「は?」
俺の言葉に、レッツェではなく執事から声が漏れる。
「ん? 俺の偽物が周りの精霊を喰らって、【転移】の手伝いできないってレッツェが思ってる? って思ったんだけど」
レッツェは俺が精霊の手助けで何かをしても、精霊が見えない。【転移】や【収納】を使っても、精霊が手伝っていると思っているのだろう。
「いや待って。勇者の能力って姿を見せないけど、守護くれた神々が、眷属通して手伝ってるんだろ?」
「そうなの?」
そんな気配はないけど。
「そうなのって、お前なぁ」
「では眷属ではなく、神が作った勇者の体自体を媒介にしておられるのでしょうか……?」
「そうなの?」
執事の話にディノッソに返した同じ言葉を返す。
最初にもらった能力を使う時、あんまり神々の気配ないんだけど。でも【縁切】の説明で、あの光の玉が力をつければ【縁切】の効果も高くなるって説明だったし、気配に慣れちゃってわからないだけかな?
「自分の体なんだから、もうちょっと考えよう!?」
ディノッソが半泣き。
「いやだって、なんか深く考えると怖い結論に行きそうじゃん?」
「それで放置ってどうなの!?」
何かを掴むように両手の指を開いて曲げて上向き。
「確かに体作り替えられたってのは気持ち良くないわな。だが、自分がどんな状況で何ができて、何ができないかくらいは把握しとけよ」
鍋焼きうどんで暑くなったのか、上着の前を開けながらレッツェ。
「確認しときます」
神々がどうにかなったら、俺の方にも影響あるんだろうか? 特にあの光の玉っ!
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