第426話 質問

 建前的カードゲームをしつつ、話は続く。


「まあ、エンのことを知ってる国はシュルムとは敵対国側だし、すぐにどうこうはねぇよ」

カードを一枚引きながら言うディノッソ。あまりよくなかったのか、顔をしかめる。


「どこ?」

「教えるわけがない」

「ひどい」

聞いても教えてくれないディノッソ。


「安全でございますね」

「まあ、順当だな」

執事、レッツェとカードを引き、手札から目を離さないまま短く言う。


 レッツェの膝にいる大福の耳がぴこぴこと。大福はレッツェ、アッシュの順で膝の上に行く確率が高い。


 レッツェの手にするカードの前で、邪魔をするように尻尾が動くが、レッツェは気にしない。見えてないんだから当たり前だけど。


「あの国も後継争いで、今はそれどころではございますまい」

俺が捨てるカードに少し迷っている間、ワインを注ぎながら執事。


 カードを一枚抜いて場に捨てる俺。話も大福も気になる。


「ありゃ結局、何人の不審死が出たんだ?」

ディノッソがため息混じりに言いながら執事を見る。


「さて?」

話題は不穏なのに穏やかな笑顔の執事。


「中原のあの状況じゃ、王族全滅もあるんじゃねぇか?」

半眼で執事を見るディノッソ。


 あ。これ執事がなんかやってるやつ。なんかやってるでしょう? なにやったの?


「上がり」

レッツェが宣言。


「あ、早い!」

「余計なことに気を回して、注意力散漫なんだよ。足元すくわれるぞ」

レッツェが俺のほっぺたをむにっと。


「【収納】だろう? 【転移】だろう? 勇者の同郷だろう? 精霊がホイホイだろう?」

ディノッソが指をおりながら言う。


「ジーン様の方が狙われる要素が幾重にも」

執事が軽く頭を下げる。


「こいつが責任持って後始末中だし、エンのそばにいる時に気をつけてくれてる程度でいいよ。親の役目ってのもあるしな」

ディノッソが揃わなかった手札を指で弾いて、テーブルの中央にあるカードの山に放る。


 責任……。もしかして、あれか、前に「売った」って言ってたあれって、隠れ家の暴露も?


「大人って……」

俺の周りが殺伐としてる件について。


「そろそろ小腹減ったんだが、今日は何を食わせてくれるんだ?」

絶対レッツェもどの国か特定してるだろう!? そして、あからさまに話題を変えたな!? 


「鍋焼きうどん。ちょっと3人でやってて、仕上げる」

テーブルから離れて、クッキングストーブへ。


 小腹が空いたってレッツェは言ったけど、つまみもたくさん食ってたので、本当に腹が減ってるわけじゃないはず。


 かき揚げ半分にして、ほうれん草増やそう。それでも海老天も載せるし、ボリュームあるけど。


 作ってもらった一人用の土鍋は、俺が覚えている日本の土鍋よりもちょっとどこか西洋風。そこに出汁やら味醂やらを入れて、もっちもちのうどんを投入。既に下拵えした具材各種を載せて、蓋をして待つこと少し。


 俺のだけ真ん中をお箸で少し避けて、卵をそっと投入。適当に卵を落として、白身がべーって広がって、つゆと混ざりまくるのあんまり好きじゃない。


「どうぞ。熱いから気をつけて」

って、思わず言ったけど、こっちに来てから皿ごと窯に突っ込むような料理が多いから、鍋焼きうどんが熱いわけでもないんだけど。つい。


 各自のサイドテーブルに置いて、蓋をとるともわっと湯気が。天ぷらの薄い黄色、ニンジンのオレンジ、星形に切れ込みを入れた椎茸の茶色、ほうれん草の緑。同化して隠れているくたっとしたネギ。


「おー。うまそうだな」

土鍋を食べやすい位置に寄せるディノッソ。素手は熱そうなんだけど、ドラゴン型の精霊が何かしてるのか、本人は平気な顔。


 相変わらずそっぽを向きつつ、腕に尻尾は絡んでいるという照れドラゴン。


「相変わらず手間がかかっておられますな。花形でございますか」

執事は飾り切りしたニンジンが気になる様子。片眼鏡が曇らない方法を知りたい俺がいる。


「器用だし、マメだな。いただきます」

そう言って箸をつけるレッツェ。麺類なんで割り箸もどきにしましたよ!


 器用なのもマメなのもレッツェの方だと思う。


「いいな、これ。うまい」

最近お箸に慣れてきたディノッソ。金ランクも器用じゃないとやっていけないんだろうか? いや、ディーンはフォーク派だ。


「このキノコ、よくこれだけ味がする」

レッツェが一口齧ったシイタケをマジマジと見ている。


 水で戻した干し椎茸さんは味もよく沁みるけど、出汁も出る。失敗すると味の主張が激しすぎるくらい。


 俺は半熟卵の黄身をお箸の先でつついて割って、さましながらうどんを一口。くたっとしたネギ美味しいよ、ネギ。


「ジーン様、そういえばご商売は順調ですかな」

「ぶっふっ」


 油断してたら、執事がいつもと変わらない普通の声で聞いてきた!

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