第423話 爆弾メモならぬ発言再び

「――嘆かわしい」


 俺は現在、ソードマスターとかいう称号持ちのおっさんの面接中。


「――弱い」


 面接中っていうか、広場で模擬戦してるのの見学中で、面接はその後なんだけど。


 俺がいるのは広場から居館の入り口に続く階段の上。雨が少ないのに入り口が2階、こういう時のためのお立ち台なのかな、この階段。上にバルコニー的なものもあるんだけど、それもどうやらお立ち台。


 俺の左右にはソレイユとパウロルおじいちゃん。ソレイユの斜め前にキール、俺の斜め前にアウロ。ソレイユの斜め後ろにファラミア、おじいちゃんの斜め後ろにオルランドくんという布陣。


 あと俺たちのいる階段の下には衛兵さん。そして広場には観客というか野次馬の皆さん。


「――精霊だよりの凡人」


 間をおかず次々に剣を構えて突っ込んでゆく、普段衛兵さんか警備さんの面々。


 ソードマスターの剣技が見られるってことで、城に勤める結構な人数が取り囲んでいる。純粋に目を輝かしている人、不穏な感じに動きを目で追う人。


 なんというか、真顔と貼り付けた笑顔のチェンジリングさん組は、暗殺の方法を探ってる気配がしてやばい。


「実際、ああ突っ込まれたらこう対処して。ナイフも一、二本――ふむ、ふむ」

マールゥがうなずいている。


 興味がないことには無関心で、スルー気味なチェンジリングたちが顔を並べてるからおかしいと思ったんだよ!


「どうかしら。バルトローネ様の名は有名だし、私は剣には詳しくないけれど、強いわよね?」

「次々倒してるし、強いんだろうな」

隣のソレイユに答える俺。


 なお、俺は有名人を知らない。冒険者とか、商人とかの間での有名人なら、こっちに来て耳にする機会が多かったんで、わかるようになって来たんだけどね。


 出入り先の問題だな、夜の酒場とかに通ってればそこそこ噂が集まるのかもしれないけど。


 このバルトローネは、シュルムから南で割と有名人らしい。中原での小競り合いにはあまり顔を出さない感じ。すでにそこそこ名が売れているんで、特に混乱混沌としている場所に赴かなくても、さらに名をあげるチャンスは多いんだろう。


 国に招かれて、その国の腕自慢と試合とかね。ある程度名前が売れている騎士や剣士に負けても面目が潰れるってことはなくって、優れた人材を呼べたってことで名誉になるようだ。無名相手だとそうはいかない。


 バルトローネの剣は、早いし技術はあると思う。ただ俺は目がいいし、身体能力があれなもんだから全部見える。正直、ディノッソとカーンの方が強いので微妙に感じてしまっている。


 あの二人ならソードマスターとやらのスピードについてゆくだろうし、多少技術が上の相手と切り結んでもそのまま力で押し切ってしまえるだろう。ちょっと身内補正がかかってるかもしれないけど、二人の方がはるかに強いと思う。


「この動きならば十分でしょう。その辺りの騎士に引けは取らない。まあ、ソードマスターの名前だけあればいいのですが」

アウロ、辛辣。


 バルトローネが強く招かれたわけでもない島に来たのは、精霊を失って今までのような動きができなくなり、いい加減ひと所に落ち着くために、場所を選んでいるのだろうって。


「バルトローネ殿は、変わった精霊剣を愛刀にされてると聞いていましたが……」

反対側からパウロルおじいちゃん。


「シュルムで勇者に負けて巻き上げられたとさ」

キール。


 ちょっとキール、毎回採用判定中に爆弾メモとか爆弾発言やめてくれないか?


「――弱い、どうしようもないほど弱い」


 あれです、バルトローネ若干鬱陶しい。さっきから一人倒すごとにぶつぶつと。大声ではないのだけど、踏み込む時にちょっと話すものだから、力がこもるのか、俺のところまで聞こえる。


 挑戦者の全員が剣を交え終えた後、遠巻きにな人に囲まれ、俺たちの前に立つバルトローネ。


「弱い、弱い、弱い!」

右手に抜き身の剣を下げたまま、顔を赤く染めて叫ぶ。なんで怒ってるのこのおっさん。


「殺せ、殺せ! ここは暗殺島だろう! かかってこい!」

吠えるように叫ぶ。


「なんだこのおっさん、戦闘狂?」

正直な疑問を漏らす俺。


「ソレイユ、様。下がって」

キールが一応公なのを気にしてか、ソレイユに様をつけた。


 半歩動いてソレイユを庇うようにバルトローネに半身を晒すキール。いつの間にか前にでているファラミア。おじいちゃんも場所を空けるように下がり、アウロが微笑を浮かべる。


「どうも勇者に負けて壊れたらしいな」

「お買い得かと思ったけれど、失敗だったかしら?」

キールとソレイユ。


「愛刀を失い、精霊を奪われ、殺されることを望んで来たというところでしょうか? 迷惑ですね」

アウロが言う。


「来ぬならこちらから――」

ぎろりと周囲を見回し、正面――俺の方に一歩。


 衛兵さんが前に出る。だけど、さっきの手合わせを見てた限り、島の衛兵さんとか警備さんでは勝てない感じ。


「面倒臭いな」

あと、チェンジリングと戦わせるのも嫌。


「我が君……」

少し困惑した声のアウロを背に、階段を降りる。

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