第422話 働いてるけどのんびり

 数日、せっせと『家』の山と畑と果樹園の手入れ。


 暗い山にしないために、育ちの悪い木を伐採して、地面に光が当たるところをつくったり、枝の方向を少し変えて風の通りをよくしたり。


 ――豚くん? そんな必死になって、きのこの場所を教えなくてもいいんだよ? 


 リシュも対抗して穴掘りしなくていいから。必死な豚くんが泥だらけだから! いや、泥まみれになるの豚くんは好きなんだろうけど。


 俺が枝に縄をかけて引っ張ってる近くで、リシュがばっ!ばっ!と音がしそうな感じで穴を掘っている。そしてその掻き出された土を浴びながら、鼻面で地面を掘り起こしている豚くん。


 光を浴びてトリュフの上で伸びをした精霊が、豚くんの鼻にふごふごされて慌てて逃げていった。朽ち葉の精霊かな?


 そして俺を見上げてくる潤んだ瞳。いや、うん。もう食う気は失せてるから、必死で役立つところ見せてくれなくても大丈夫だから!


 果樹園や畑は、常駐している精霊に野菜らしくないものはNGと伝え、新しく来る精霊に教育的指導をしてもらうことにした。果物か野菜か怪しくなってしまったものは、エクス棒のおやつに決定。


 どうしようかと思ってたけど、レッツェもツタちゃんに食べさせるみたいだし、エクス棒も喜んでたし。


 水路を見てまわり、枯葉や塵芥の掃除。清廉な流れの精霊とかいるから、綺麗なんだけどね。


 それでも大風の次の日とか、水車小屋に水を引く水路とかには溜まることがあるので時々掃除。


 水門の前に浮かせた板の前に浮いているゴミを掬って、肥料作りのために枯葉や刈り取った草が重ねてある場所に移動。【収納】からぬかを取り出して撒いて、その上に掬い取ったゴミを重ねる。


 ゴミと言っても、日本みたいにプラスチックとかがあるわけじゃないからね。小枝とも言えない折れた枝の破片や、千切れた葉っぱとかそんなのだ。


 かぼちゃがそろそろだけど、どうだろう? 交配はしてるけど、前回はみずっぽくって味もさらっとしてるというか、薄かった。今年はほくほく甘いと嬉しい。


 大きくなってきたかぼちゃを藁の上でくるっと回して、下だった方に日が当たるようにする。


『十日〜』

『こっちは十四日〜』

『十三日〜』


 かぼちゃの実に乗った精霊が教えてくれる。受粉の日から四五日が収穫日の目安らしいけど、見かけでわからない完熟判定は精霊頼りです! かぼちゃにくっついたツルがコルク状に白くなるとか、一応わかるけどね。


 かぼちゃの脇芽を摘んで、ツルを誘引。他の野菜も葉を間引いたり、藁を敷いたり、受粉させたり、サボっていた分頑張った。


 摘んだ野菜の葉とかは、鶏くんと豚くんのおやつ。結構人気。


 無花果いちじく柘榴ざくろを収穫し、もっと暑い時期から次々に実をつけるトマトをもぐ。


 なり始めのトマトはぱつんとみずみずしいので生で、この時期のトマトは水分が少なく味が濃いのでピューレや水煮にして保存。【収納】あるけどね、せっせとトマトの瓶詰めを作って、シヴァと執事にお裾分けした。


 ところでこっちの人、柘榴はタネまで食うのな。ばりばりぼりぼりしててちょっとびっくりした。でもタネの方が、色々いい成分あったはずなんで、真似……しようと思ったんだけど、どうも慣れない。


 仕事をした後は、森の『聖域の家』で一日のんびりする。まだ夏の熱の残る『家』や、年がら年中強い日差しの島と違って、ここは涼しい。


 夏でもちょっと涼しすぎるくらいなんだけど、暖炉で火を使うとちょうどいい。しゅんしゅんと湯気を上げる鉄の大きな薬缶、淹れたコーヒーのいい匂い。


 暖炉の前に陣取った俺の影で、リシュはエクス棒をがじがじ。リシュは寒いくらいの方が好きだから、暖炉の熱を俺と俺の座る椅子で遮っている。時々外に扉を透過して走ってゆく。たぶん涼んでいるんだろう。


 精霊図書館から借りてきた本を開く。精霊図書館の読書室も穴蔵みたいでいいけど、時々外の風景を目の端に捉えながらここで読書をする。


 なんかね、薔薇の精、若葉の精、黒苺の精、花びらの精、葉音の精――庭は春から初夏のような風景なんだなこれが。涼しいどころか、雪が積もっても花は咲いてるみたいな。


 もともとここだけ木漏れ日が当たっていて、下草が綺麗でぽかぽかと柔らかい日差しで、でも周囲の森は涼しいを通り越して寒くて――まあたぶん、俺の最初のイメージに引きづられてこうなったんだろうな〜とは思う。


 ここは精霊に好きにさせてるけど、森の奥には騒がしい精霊が少なかったのが幸いしたのか、いい感じ。手入れもしないのに美しい状態を保っている。


 それも整えられた堅い感じじゃなくって、自由に枝葉を伸ばして、「もう少し伸びたら手を入れた方がいいかな?」みたいなラインで。


 少し雨降りの休日。かたわらにいるリシュと遊んだり、本を読みつつ時々撫でたり。一日のんびり過ごした。


 翌日、島に行ったら自称騎士だかソードマスターだかが来てて、煩かったんだけどね! 


 騒がしいって意味でのうるさいのは慣れたというか、『家』にいると精霊としか交流ないから、「ああ、人間の世界だな〜」ってへんな感慨があっていいんだけど、煩わしい方はいただけない。


 有名人らしくて、周囲に興味の薄いチェンジリングたち以外は島ごとわいてたけど。まあ、うん、娯楽少ないし偶にはいい……のか?

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