第421話 分配。

「味、はりんごの範疇ね……」


 ハウロン、丸呑みでわかるの!? 


「……」

カーンも黙ってもぐもぐ。


「これもらってっていいか?」

レッツェが一つつまんで言う。


「いいけど?」

「俺が精霊に力を貸してもらっても、使いこなせる未来は見えねぇからな。ツタの植木鉢にすり下ろして土と混ぜとく」

レッツェが手拭きにウサりんごを包んでしまう。すりおろされてしまうのか、ウサ……っ。


「うう……。植木鉢に精霊剣……っ。日向……っ」

ハウロンが別のダメージを受けている。


「シヴァ……。――子供たちには過ぎた力だな。それに、特定の精霊からならともかく、小さいうちの不特定多数の精霊の影響はどう転ぶかわからねぇ」

ディノッソも一つしまう。


 執事が一つ皿に確保。皿はどこから――いや、袖口ですね。そして、もう一つ、ディーンに差し出す。


「おう。クリスにやっとくわ」

皿を受け取り、机の端に置く。


「余りますな」

ディノッソと執事の持ってきた二つの籠を見ながら、執事が思案顔で言う。


「エクス棒、残り食う?」

「食う、食う!」

話しかけると、ぽこんと開いて元気な返事。


 そして残りを次々丸呑み。なんだ? 丸呑みが正しい作法なの?


「そして持ち歩かれる王の枝……」

ハウロンおじいちゃんは意識が怪しい。


「食うなら、もっちっとパンチが欲しいな」

エクス棒が言う。黄金のりんごは精霊の雫と同じカテゴリっぽいな。食い物というより、エクス棒が力を増す的アイテム。


「ああ、じゃあガーリックライスで肉でも食うか?」

「食う!」

「食う!」

被り気味で返事をしたエクス棒とディーン。


「夕飯食い損ねたしな。ちっと戻って奥さんのスープ運んでくるわ。鍋貸せ、鍋」

ディノッソ。


「どのくらいのサイズがいい?」

シヴァのスープだ、スープ。


 ディノッソに鍋を渡して、他は2階に移動。とりあえずワインとチーズを出しておく。


 ご飯は鳥出汁と油を入れて硬めに炊いたのが、【収納】にあるので時短はバッチリ。パラパラになるのでチャーハン用だったりするけど。


 ニンニクは緑色の芽を除いて微塵切り、とらないとそこから焦げるからね! 豚バラブロックを細かく切った脂、バター、しつこかったら米油半々。じっくり丁寧に炒めた方が美味しいっていう人もいるけど、豪快に。だって、音が美味しそう。


 火蜥蜴くんが素早く身をくねらせ、米粒を一つ二つパクッとやる。ぶわっと煽ると、空気を含ませて米を一粒ずつにしてくれる精霊が数人。お手伝いありがとう。


「匂い、匂い!」

エクス棒は精霊なので文字通り匂いも美味しいらしく、うきうきとご機嫌。そういえばハラルファの花粉吸いも似たような感じだな。


「おう、持ってきた」

鍋を机の上にどんっと置くディノッソ。机は日本のように何かでコートされてるわけじゃないし、特に鍋敷なし。移し替えたやつだから、鍋の底も汚れてないしね。


 優しい匂い。覗き込むと、どうやらキャベツのスープらしい。蕪も見える。


「よそいましょう」

執事がそう言うと、レッツェが棚からスープ用の深皿を出してくる。


 俺もガーリックライスの上に肉を盛って、別に揚げたガーリックスライスをぱらぱら。シヴァのスープが野菜だからサラダは省略。


ウサりんごデザート、先に食っちゃったけど」

「別腹、別腹」

いや、ディーン、それ逆じゃ? 普通デザートが別腹なんじゃ――って別腹なことにはかわらないか。


 一応調理場への精霊の行き来は解禁しているので、カーンも味はするはず。まあでも、ガーリックライスは小盛りでワインが主食だけど。みんな揃っていただきます。


「これよこれ、ガツンとニンニク! バターの甘さ! 肉と一緒の手軽さ!」

エクス棒はなんでそんなにジャンクっぽいものというか、手軽に食えるものが好きなのか。


 やっぱり一口で大部分をばくっといくから、個別に盛ってあるのはいまいちなのかな? それに、白いご飯より混ぜご飯系の方が人気あるしなあ。


「王の枝への供物とは……」

ハウロンは帰ってこないけど、スプーンで飯は口に運んでいるのでいいとする。


「気さくな王の枝でらっしゃる……」

とか思ってたら、ハウロンだけじゃなく執事の焦点も合ってない。


 美味しそうに大口を開けて、豪快に食べるエクス棒にカーンも微妙な顔。シャヒラと比べちゃいけないと思います。


「肉はかみごたえあって分厚いやつ派だけど、この米? これと一緒に食うならいい具合だな! こないだの豚丼も美味かった!」

ディーンはご機嫌。


「あー奥さんのスープ優しい味で美味しい」

蕪が形を保ってるけど、スプーンで抵抗なく半分にできる絶妙の柔らかさ。


「今のシヴァの料理は飽きがこねぇし美味いだろ!」

褒めたらディノッソがご機嫌。今のってことは過去はあれだったのだろうか……?


 まあでも、今が絶品なら問題なし! キャベツは俺が渡した日本の黄緑色のキャベツ、これも柔らかで甘い。俺もご機嫌。

 

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