第419話 図る物差し

「で? これ、食ったらどうなるんだ?」

ウサりんごの一つを手に取って、レッツェが聞いてくる。


「周囲の精霊たちが力を貸してくれる、それと精霊の差し出してくる力を取り込みやすくなるようです」

「相性がよくなって、人が精霊から力を受け取る時のロスが少なくなるのかしら?」

ハウロンが納得する。


「そんな感じです」

「丁寧語になるのやめて? お前のそれ不穏だから」

ディノッソが口を挟んでくる。


「効果的にはそんな感じです」

「言い直した!?」

ディノッソは細かすぎだと思います。


「食った人に興味を示して、腹をつつきにくるって。食ったりんごは消化されるけど、効果は腹に留まるっぽい。魔法使わない時も勝手に精霊の力を分けてくれるから、腹になんか貯まる」

仕方がないので詳しく説明する。


「腹になんか貯まる……」

「贅肉かよ」

俺の言葉の最後を繰り返すディノッソに、的確なツッコミを入れるレッツェ。


「腹部のあたりには魔力を練る丹田たんでんというものが……」

「そうそう、丹田に精霊の力を貯めておけるって」

【鑑定】の結果にあった、腹のあたりの〜から始まる長い説明が、丹田に変わったんだけど。


 ハウロンの説明と【言語】さんの機能で、俺にわかりやすく『丹田』って翻訳されたんだなこれ。


「ジーン、わかっているなら、もう少し、もう少し勿体をつけて……」

ハウロンが鎮痛な面持ち。カーンは無言だけど、眉間の皺の深さが変わる。


 ごめんね? 難しい言葉も知ってるし、固い小論文もかけるんだけど、理解するには簡略化というか、わかりやすい言葉で考えてるんだよね……。


 おかげで【鑑定】結果が大混乱してる気がするけど。一般的に知れ渡ってることは、簡潔な感じで結果出るんだけどな。


「丸ごとでも、切っても効果はかわんねぇの?」

「変わらないけど、量では変わるよ。精霊がそこにあるって気づく範囲が広いか狭いかだけど」

レッツェの質問に答える。


「なるほど。持った感じは、金属みたいに固いってんでもなさそうだな」

観察しているレッツェ。


「うん、剥いた時も詰まった感じはしたけど、りんごの範疇かな? というか、最初の一太刀で諦めてりんごになった? 傷がついてない時は、見た目と一緒で金属みたいだったよ」

精霊剣並みの包丁でもダメだったので、『斬全剣』でスパッと行きました。


「……」

微妙な笑顔を浮かべたままの執事。


「……」

額に手を当てるディノッソ。


「諦めた金のりんごっていったい……」

遠い目のハウロン。


「……」

わずかに首を振るカーン。


「もっと持ってくるって言ってたが、大量なのか?」

「いや、金色のりんごはこの2個だけ。果物の容姿を逸脱するのはいけませんって、お説教したから自然にできることはないだろうけど、頼めば面白がって作ってくれると思う」


「そこは中身も逸脱するの止めよう?」

「そこはぬかりなく、りんごはりんごの味で美味しくなるように頼んどいた」

学習済みです。


「ジーンの場合、追加効果がな……。見た目も味もりんごで、黄金のりんごの効果は笑えねぇ。まあ、この黄金のりんごは、精霊の気まぐれでできて、一応以降は止めたんだな?」

「うん」

黄金より赤の方が美味しそうだし。


「金色のりんごは、ってことは他もあるんだな?」

「銀と銅があるけど、金の劣化版だった。銀は呼びよせる精霊の属性が偏ってて、銅は呼びよせる力が弱い感じかな」

あと、杏とかありますが黙っておきますね。


「……」

「……!」


 無言でほっぺたを引っ張るのはやめてください。伸びる。


「視線を合わせねぇってことは、何かまだ変なもんがあるんだろうが――まあ、銀と銅と同じく、他人が持ち出せねぇとこにあるなら突っ込まねぇよ」

手を離してため息をつかれる。


「全部紹介すると朝になる」

ちょっとずつ、目につかない場所で色々行われてたんだよ! 擬態してるのもあったし!


「……なんで黄金のりんごだけ持って来たの?」

自分のこめかみをぐりぐりしながらハウロンが言う。


 ハウロンおじいちゃん、梅干しをお酒でのばしたの、こめかみに貼る? 梅肉に含まれる成分、 鎮痛効果あるってよ? しかも鎮痛剤のアスピリンと同じ程度の。貼って効くかは謎だけど。


「一応、こんなのできたってお披露目。俺だけじゃ、社会的にどういう位置付けのものなのかはっきり分からないんだもん」

一応、図書館で知識を仕入れたりしてるんだけど、この世界は場所によって、文化の進み具合にムラがあるしね。


「お前……」

「アンタ……」

「ジーン様……?」


 あちこち知ってる、ディノッソのうげって顔と、ハウロンの悲鳴、執事の困惑はいいバロメーター。


「自分で確認は俺も必ずするけどな……」

「もう少し方法を何とかしろ」

呆れたようなレッツェとカーンの声。


「だって分かりやすいんだもん」

「泣くわよ!?」

「だもんじゃねぇ、だもんじゃ!」

「故意犯、でございましたか……」

 

 俺の言葉に三人が被せて叫ぶ。


 最初は違ったんだぞ? でも今はお世話になってます。

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