第417話 チェック漏れ

 島でプラムの収穫を見たので、今日は朝っぱらから自分ちの山でプラムを収穫。場所的には島の方が暑いんだけどね、水路のおかげで山の一番暑いとこと大体同じくらい。


 精霊のおかげか、住み始めた時より、山の上と下で気温がだいぶ違う気がする。おかげで育てられる野菜や果物が広がった。明らかにおかしいけど、どうせ俺以外入って来られないし、よしとする。


 精霊たちが広げる布に、枝を揺らしてプラムを落とす。プラム同士が強くぶつからないよう、布の外に飛び出さないように、小さな精霊たちがプラムを受け止めたり、ふわっと上に乗ったりで手伝ってくれる。


 すごく助かるし、見た目にも可愛らしくて癒される光景だ。それに、精霊が手伝ってくれた収穫物は味が濃く、美味しくなるので嬉しい。――大量にジャムにして島の連中に差し入れようか。


 畑の外れに杏もあったっけ。あっちも収穫して、ジャムと干し杏にしよう。砂糖漬けもいいかな? 杏も今の季節だ。ついでにトマトも収穫してしまおう。


 油断した。あちこち行っていたせいで、『家』の畑と果樹がおろそかになっていた。いや、旅行中とかも見回ってたし、帰ってから手入れもしたんだけど、見落としというか、死角があった。


一応、リシュとの朝の散歩の時に一通りのチェックはしてたんだけど、早歩きで見て回って、様子がおかしいとこの手入れを簡単にして終了してたからなぁ……。


 かつてないほど荒れてる。


 枯れてるとか、草がぼうぼうとかじゃなくって、荒れてる。具体的に言うと、精霊を野放しにした結果、大豊作というか、俺の目が届かなかった範囲がおかしいです。


 いつも目に入る支柱に支えられたトマトが並ぶその反対側。まずトマトが鈴なりというか、葡萄みたいなことになってる。色が赤とオレンジと黄色。色はこれ、ミニトマトのだろう?


 地面をわさわさと覆う葉の影、一つ二つスイカが四角い。うん、型にはめて四角いスイカが~ってパルと話してたことあるね! でもスイカは丸い方が好きだよ!


 ちょっと前に種を蒔いた野菜がもう収穫できる。一度落ちたはずのジャスミンの花が花盛り。


 果樹は枝をしならせ、たわわに実をつける木が多数。これはよくあるし、ありがたいことなので気にしない。そのたくさんの実に混じって、黄金の実がなってるんだが――パリスの審判でもさせる気ですか? 


 多分光の精霊と、何かの鉱物の精霊の合作なんだろうなこれ。金・銀・銅の林檎がしれっと混ざっていた。黄金の林檎を手に取って、収穫。食えるのか謎――ああ、食えないね! 


 【鑑定】結果は『黄金の林檎』、精霊の気まぐれでごくごく稀に見つかる財宝、一応食べられる、だって。稀なのがなんか2、3個あるけどな。


『まあ、手抜きになってたのは俺のせいだからね……』


 水晶のように透明な杏子をもいで、独り言を漏らす。元の実の色なのか、少しこちらも黄金こがねを帯びたきれいなものだ。きれいだけどね?


 どうしたの? みたいな顔で、隣に座ったリシュが見上げてくる。


『リシュは可愛いな〜』

座り込んで、顔をわしわしと撫でると、こてんと腹を見せる。俺の癒し!


 リシュのお腹をもふもふわしわしすると、仰向けのまま身をくねらせかふかふと噛む素振りをするリシュ、噛まないけどね。撫でられたいと遊びたいのとで、ほんのちょっと撫でられたいが勝ってるかんじ。


 その後は収穫したトマトをとりあえず外で大鍋で煮て、瓶詰めを作った。最初の薄い煮汁は思いきって捨てて、潰して濾して濃いトマトソースを作る。


 まだまだあるけど、【収納】があるので鍋いっぱい分だけ。あ、でもドライトマトは日差しが強い季節のうちに作らなきゃ。塩トマトも作ろう。


 お気楽な保存食作りをして、夕方はカヌムへ。


「お届けでーす」

トマトソースの瓶詰めを配る俺。


 届け先は執事とシヴァ。美味しい料理になって帰ってくるはず……。トマト自体の存在が怪しかったんで、料理に使ったことのない食材だろうけど、この二人なら何か美味しくしてくれるに違いない……。


「これはジーン様、いらっしゃいませ。――なんですかな?」

「俺がよく使うトマトソース。あとパウンドケーキと果物少し」

執事に埃除けの布をかけた籠を渡す。


「じゃ、ディノッソのとこ回ってくる」

「ありがとうございます。いってらしゃいませ」

執事が優雅に頭を下げるのを横目で見つつ、自分の家に向かう。通り抜けて、勝手口から出て、お隣のディノッソ家へ。


「お邪魔しまーす。配達でーす」

「あらあら。ジーン、いらっしゃい」

扉を開けてくれたのはシヴァ。


「いらっしゃい、ジーン!」

「ちょうどご飯だよ〜」

「ご飯できたところ!」

ティナとエンバクの二人が、ぱたぱたと急足で来てシヴァの後ろから顔を覗かせる。


「おう」

子供達の後ろからディノッソが現れ、俺に向かって笑う。


「ちょっと早め? ごめん、食事時に」

食事の時間を外して来たと思ったのに、ドンピシャだった。


「お昼食べ損ねてるのよ。今日はスープでたっぷりあるから、よければジーンも食べて行って?」

「おお! いただきます」

シヴァのお誘いにここぞとばかりに乗る。


「あ、これ。トマトソースとパウンドケーキとかね」

「いつもありがとう」

「酒は?」

シヴァに籠を渡すと、ディノッソが埃除けをめくる。


「……」

そして固まる。


 つい、本当に食えるのか気になって、うさぎ林檎を作って来ました。一緒に食おうぜ?

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