第416話 街の外

 畑は緑が鮮やか。そこにオレンジがかったトマトの赤、ナスの紫と白――ナスは真っ白いのと薄い紫で、ちょっと丸いの。島では日本のナスより育ちがいい。イタリアンパセリは芽が出始めている。インゲンのツルも元気そう。


 せっせとトマトや唐辛子の収穫をする人、収穫を終えた野菜の根っこを引き抜いて、次の準備をしている人。3~4人が作業をしている。


 唐辛子は、辛みに旨味がでるように品種改良されたものと交配したやつ。こっちにある唐辛子はぴりぴりと辛いことは辛いが、旨味が少ないというか、軽い毒。それでも味に変化をつけるために、いや、少しでも長く食品を保存するために出回っている。


 そんなに広いわけではないので、畑の専従者は多くない。ちょっと前のトマトが一度にたくさんなってた時とか、一斉に何かするときは他から手伝いが入る感じ。


 次に植えるのは、キャベツとかかな。島の野菜は基本、じゃがいもとかの保存がそこそこ利いて、輸送が楽なものを優先しつつ、キャベツとか唐辛子とか、こっちにもあるけど味がアレな野菜の改良版を作っている。


 馴染みのある野菜で信頼を勝ち得て、じゃがいもとかの馴染みのない野菜にも手を出してもらう方向。早く色々な野菜が広まって、どこでも美味しいものが食えるようになって欲しい。でもその前に、多くの人がまずちゃんと食えるようにするのが先っぽい。


 ジャガイモ疫病だっけ? アイルランドの歴史にある飢饉の原因。一つの作物に依存していると、病気が入ったり、気候がおかしかったりするとひどい目に遭う。


 小麦・ライ麦・大麦・えん麦・オート麦。とりあえずこの辺の『食料庫』との交配種は外せないのだが、島は暑いので作るのに向いてない種類もあって、どうしようか迷っている。


 寒いところの農家さんに頼み込んで作ってもらうか、俺がちまちま作るか。農家さんは大抵、領主に搾取されとるというか、チェックを受けてるので難しい。かといって領主に話を持っていくのも躊躇われる。困ったね!


 それはそれとして、俺の『家』でも夏に植える野菜植えなきゃ。蕪と大根とブロッコリーと――。


 そんなことを思いながら、ふと足元に目をやると、そこかしこに地面が強く踏まれた跡がある。野菜を器用に避けているけど、どうみても農作業の跡じゃないね!


 種を取るための畑なので、食べるには時期を過ぎているものもある。旬の時期に半分は収穫、半分は残すみたいな感じで、収穫した方の野菜は広場にある宿屋とレストラン、城のまかないに回される。


 そこでおとなしく食えばいいのに、と思いつつ何かの跡を眺める。アウロとキールからの報告では、野菜を狙う奴らが食うのはほんのひと欠けだという。虫程度の被害。


 野菜を大きく損なって、アウトな時は精霊がうんと苦くするし、そうすると美味しくないのもあるんだろうけど、俺が注意するか迷う範囲で食っている感じ。


 野菜を狙うメンツと、菓子を狙うメンツと微妙にメンバーを変えながら、夜中に争っているらしい。昼間の業務中はご法度だそうです。キール、昼間も菓子菓子騒いでる気がするが。


 仕事に影響が出ない範囲で、野菜をちょっとかじるか、自分たちの分配の中で菓子を争っているので、俺が介入しづらい。プライベートには口出ししたくないし、常識の範囲内で――って、これは非常識だな……。


 アウロとキール、ファラミアはいい訓練だと物騒なことを言ってるし。いったいこの島はどっち方向に向かっているのか謎だ。


 畑の見学を終えて、島の中をそぞろ歩く。5頭の羊が山羊1頭を中心に草を食んでいる。草刈りに大活躍中のようだ。除草能力が凄すぎて、雑草の繁殖が間に合うか心配になるくらい。


 黒い土を持ち込んだおかげで、大地が富んだ。富んだのはいいけど、野菜だけじゃなくって雑草もよく育ってるんだけどね。島がまるハゲになるのも、羊たちがお腹いっぱい食えないのも避けたいところ。


 プラムを子供たちと母親っぽい人が収穫している。


 果樹は基本、オレンジとレモンなのだが、オレンジ系の収穫は冬から春にかけて、レモンは四季なりだけど、夏のレモンは熟さず青いまま。どっちも旬は冬。


 そういうわけで、なんとなく夏場の果物として、プラムと杏を少し植えてある。熟した杏の匂いって結構好きだ。これは売り物ではないので、一人で取りすぎないようにと条件をつけて、島民に解放してある。


 プラムを手に子供たちが笑っている。うん、果物とか野菜ってこんな感じの雰囲気で関わることをお願いしたい。

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