第415話 ヘタレと言う勿れ

「わははは、あのフォルム! あの色! オレの枝は唯一無二!」

「さようでございますな、私もあのように気配を感じ取れる枝様は初めてです」

おじいちゃんとエクス棒が、かみ合っているのかどうか微妙な会話をしている。


「『王の枝』……。ヘインズ様にもツッコめない……」

オルランド君が頭を抱えているが、我慢せずツッコんでいいと思うよ?


「ところで、オルランド君」

「何でしょうか?」

「階段と城塞の方で見かけた石畳の魔法陣、音は同じなの?」

遠まわしに聞いてみるテスト。


「生憎私は城の魔法陣は踏んだことがございませんので」

おい。


「そこは踏もうよ!」

ちゃんと機能するか確かめようよ!


「機能テストは精霊と無縁な方と、キール様、ヘインズ様を交えてされております。立ち合いはしませんでしたが、窓から警邏けいらの方が勢いよく駆けてゆかれるのを見ましたので、効果のほどは保証できます」

オルランド君、俺が知りたいのは効果じゃない……っ!


「……悪意ある人が踏まないとダメなんじゃないの?」

あふんでも駆けつけるの?


「質の悪い商人を見学に入れたようですよ。自分は詳しくありませんが、他の何人かを呼ぶのならば、街の見学くらい許さないと角が……という方らしいです」 

同じ魔法陣を、桟橋近くの集落の入り口と出口、城塞に近い街の入り口と町の広場への出口に設置済みだそうです。


 「あふんって聞こえますか?」って聞くの、なかなかハードルが高い。クリスの顎精霊とか、ディーンの臭ってる精霊、あれも大多数の人が見えているのは光の玉だったしな。多分音でも似たようなことが起こっているんじゃないかと、そこはかとなく。


 例えばオルランド君に、鈴の音のように聞こえていて、「お前はあふんって聞こえるのか?」って聞き返されたら困る。ハニワのシャウトはそのまま聞こえてそうなオルランド君だけど、オルランド君が特別というより、あのハニワがおかしいというのが正しい気がして。


 そういうわけで聞けないまま終了。話題に出たことだし、様子を見に畑に行くことにする。


『賑やかになったな!』

『うん。まだ路地の方は人が入ってないけど、大通りはあらかた埋まったみたい』

エクス棒と歩く。


 広場には結構人が多い。市場に走りこむ人、石材を運ぶ職人、観光なのかきょろきょろと落ち着かない人。暑いんで立ち止まってる人はめったにいないけど、前回より人が増えた。

 

 『精霊の枝』のある広場から出た、大通りとの境に件の魔法陣があった。もちろん踏まない方向。けっこう幅広で踏まないためには不自然な歩幅になるんだけどね。


 ここも大分賑わってきたな~と思いつつ通りを歩く。途中、路地に入り込んで海の見える場所へ。狭い路地を抜けて、広い海原が急に見えるのっていいよね。


 転落防止の腰高な石塀に登って、昼。ここはレモンの木の木陰もあって、いい感じ。


『ほいよ、昼』

『おう! これこれ』

昼はエクス棒の好きなハンバーガー。


 バンズ、パテというかハンバーグ、玉ねぎの輪切り、レタス、トマト、ピクルス、目玉焼き。結構な嵩があるのに、上から下まで半円に近いきれいな口型。本当に紙にパンチで穴をあけたみたいなかんじに切り取られている。エクス棒、八重歯あるのに。ばくっとやってるけど、絶対歯形じゃない何かだ。

 

 気にしたらまけだと思うので、俺もハンバーガーにかじりつく。ケチャップとピクルスの二つの酸味、肉汁、しょっぱさ、甘味がレタスで少し緩和、残る旨味。


 フライドポテトをつまんで、アイスコーヒーを飲む。コーヒーはエクス棒に不評なんで、エクス棒は水。紅茶やレモネードとかに、興味を持つ精霊もいるけど、基本水なんだよね。特にエクス棒は一応植物系なんで、飲み物は水が至高らしい。


 満足したエクス棒が昼寝に入ったところで、畑に向かう。


 ――おい。しばらく見ない間に塀がやたら高くなってない? 塀の上にえぐい突起物が見えるのだが、あれはいったい……。いや、何のためについたか分かるんだけどね? 俺は絶賛見ないふりをするよ。


「様子見に来たんだけど、野菜の調子はどう?」

門の鉄格子もさきっちょ尖っちゃってまあ……。


 おかしいな、平和な畑はどこに行った? 畑の争いはVS動物程度で留めて欲しいんだけど。動物は家畜くらいしかいないけどな! そう思いながら、門から入ってすぐの休憩所兼農機具を入れる小屋に声をかける。


 出て来たのが、憲兵さんみたいな人なんですけど。


「ここは気軽に来られても困る。見たいなら、城で許可とって来い。つーか、よくこの物々しいトコ入ろうと思ったな?」

呆れてる憲兵さん。いやもう憲兵さんだろ、これ?


「許可はある」

というか、俺が許可出す人な気がするけど、実際はソレイユをはじめ、事務してくれる人だ。


 そして俺は対面で話したことのある人しか、認識されない人。狭い島だけど、俺のことを領主だって認識してない住人は多い。


「おう! 案内人なしの出入り制限なしか! すげぇな!」

でも顔を覚えていられない人に対応するため、どこでも出入りOKな鑑札というか、紐が結ばれたカードは持ってるのだ。


 案内人って柔らかく言ってるけど、変なことしないか監視する人のことだ。俺は一人でどこでも入っていいヤツ。


 それはともかくとして、島の畑はどの方向に向かってるの? 

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