第412話 容疑者増加

「パウロル様は何人かに魔法陣を教えてくれているの。ニイ様以外には内緒っていうお約束をお手紙でして、私も習ってます。お手紙は『けいやくしょ』って言うの」

「へえ」

契約書をお手紙って言っているような子供と契約して、取り消しされたりしないのだろうか。未成年者取消って、この世界あるの?


 女の子は俺の日本の感覚で言うと子供、こっちの感覚で言うと、大人とは言えないけれど働き出すのに十分な年。しっかりしているけれど、幼さが顔を出す。


 特に理解しきれていない単語を使う時は、自分なりの言葉に置き換えて伝えてくるせいか、とても幼く感じる。


 言葉遣いも丁寧な言葉を話すよう勉強している最中かな? 混ざってる混ざってる。


「お手本を写すのは得意なんですよ? でも、それだけじゃ魔法陣は動かないの」

たぶん契約で縛られ、話す相手がいなかったのかな? 俺相手に楽しそうに話す。


 魔法陣は描けるだけじゃダメで、描くときに魔力を乗せて、描き終えた時に魔力がこもっていなくてはならない。


 ペンを走らせる時に魔力が途切れないように流すのには集中力がいる。省エネで少ししか流さないと、描き終えた時に魔法陣に魔力が足らない。魔力量が多いって余裕かましてどばっと行くと、今度は隣の線同士が魔力でくっついてしまったりで、やっぱりうまく発動しない。


「ルーンはね、模様を描くのは苦手なの。でも模様を彫るのが好きだし上手なの!」

「ルーン?」

突然の第三者。


「姉さんで妹なんです。私と同じ顔をしているのよ」

「ふーん? そう言えば名前を教えてくれる?」

双子かな? 子供達の中に同じ顔混じってたっけ? 


「私はミール。よろしくお願いします」

わざわざ立ち止まって、おすまししてお辞儀。


「ルーンはね、私が手を添えると私が描いた模様をあっという間に石に彫ってくれるの。すごいのよ!」

くるっと半回転して再び歩き出し、喋り出す。


「へえ?」

『精霊の枝』の中庭は、見えていた土に草がい、少しアンバランスだった空間に枝が伸びて、とても自然で、とても綺麗。人が整えたことをあまり感じさせない。


 桟橋から街まで、レモンやオレンジの深緑色の厚い葉の木々が続くんだけど、この中庭は葉が薄く、柔らかなものが多い。色も明るめで中庭は繊細な感じ。


 広場との境の格子近くにはぐるりとバラが配置され、守られた庭って感じだ。チャールズすごいな、貴族のお嬢様と庭師のベタな恋とかやってるだけの男じゃないんだ!


「それにもっとすごいの!」

「もっと?」

庭を眺めつつ、会話に適当な合いの手を入れる。


「ルーンが私の模様を彫るとね、ちゃんと動く魔法陣になるのよ!」

誇らしげに、嬉しそうに胸を張るミール。


「……」

って、さては貴様か!!!! おじいちゃんじゃなくって、貴様があふんか!!!!!


 いや、魔法陣を教えたのがおじいちゃんなら、おじいちゃんがあふんを広めているのか? 戦犯はどっち!?


「ここがパウロル様のお部屋よ」

枝の納められた部屋の近く、一つの扉の前でミールが立ち止まる。


「案内ありがとう」

若干心の中が嵐のまま、おじいちゃんの部屋に到着。


「うん! 私はお仕事に戻るね!」

元気よく頷いて、ぱたぱたと戻ってゆくミール。


「こんにちは」

ノックして声を掛けると、すぐに扉が開いた。


「これはニイ様、いらっしゃいませ」

開けて顔を出したのは苦労人のオルランド君。


 なんだか扱いが丁寧だぞ? どうしたの?


「島の生活はどうかと思って」

「おかげさまで快適に――眠れない日もありますが、快適です」

そう言いながら招き入れてくれる。


「眠れない日? 悩み事か」

「時々夜中から明け方にかけて、突然何かが鳴り響いたり、奇声が上がったり……。楽器が入ってからは、音楽に変わって多少マシになりましたが」

何か諦めて解脱したような笑顔で語るオルランド君。


 ハニワか! ハニワなのか!?


「えーと。うるさいようなら箱に入れとくとか、夜の間は閉じ込めておいたらどうだ?」

「枝様相手になんということをおっしゃるのですか!」

提案したら、目を剥いて抗議の声をあげられる。


「枝とは言ってないだろう枝とは! でもやっぱり原因は枝か!」

「……っ! 他の精霊の類です、きっと! 騒がしいけれど、動いているところはまだ見たことがないんです!」

 早口で叫ぶオルランド君。


 動いてるところって、十分疑ってるじゃないか。


「オルランド? おお、これはニイ様」

奥からおじいちゃんが出てきた。


 おじいちゃんがあふんか? あふんなのか?


「どうぞこちらへ」

おじいちゃんに案内がかわると、オルランド君は一礼して部屋を出てゆく。


 案内と言っても入った同じ部屋で、椅子に案内されただけだけどね。簡素に見えるが、置いてある調度は品がいい。壁にはこの島の紋章が白く染め抜かれた青い布。


「この島の生活には慣れた?」

「はい。まだ日々何かに驚いていますが、快適に過ごさせていただいています。やりがいもありますしな」

穏やかに微笑むおじいちゃん。


「それはよかった」

何かに驚くって、動くハニワとかに驚いてるんじゃないだろうな? ちょっと疑う俺を許せ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る