第409話 商売上手
ちょうど空いていると言うので、ソレイユの執務室で報告を受ける。この後、商談だってさ。島の政務はアウロにキール、カインとアベルも行っているので結構余裕らしいのだが、商談のほうで忙しい毎日のようだ。
「染め物の方は順調。今は客を選んで出す数を抑えているけれど、鮮やかな青が大陸で流行り出すのも時間の問題ね。藍玉に気づいて真似をし出すところもあるでしょうけれど、もう青染はうちが一番の評は揺らがないわ」
ソレイユの説明によれば、売る数を抑えて王や王妃、高位の神官などにしか売らず、『特別感』を演出中だって。
で、現在はどうしてもと言う注文がバンバン入っているようだ。糸もすでに年単位で予約待ちになりそうだって。織物に至っては怖いことになってるそう。ものすごくお高い値がついているそうです。
「晒す水のせいでしょう。青を始め、この島より鮮やかに染めることはできないと思います」
笑顔のアウロ。
精霊もびしばし手伝ってくれてそうだな。
俺の拾ってきた貝からとった染料で、紫に染められた毛織物が、どこかの王様の戴冠式とかに使うマントになったらしい。
「あの美しさったらないわ」
「代々継ぐんだろうさ。色落ちしないのはいいが、商売的には2年くらいで色が消えて欲しいところだ」
うっとりするソレイユとしょうもないことを言うキール。
ファラミアが無言でお茶のお代わりを淹れてくれる。ソレイユの座る執務机の前に、ソファとローテーブルのセットが置いてあるのだが、資料をひっぱりだしたりする都合で、面倒なので執務机を囲んで立ったまま。
ローテーブルとソファって、書類仕事に向いてないよね、あれ。乗り出して見るの腰に悪そう。
俺の側にいつの間にかサイドテーブルが置かれ、そこにお茶を載せた盆が置かれた。執務机はでかいけど、書類広げるからね。バシャっとやらないよう事故防止かな?
青もだが、この世界の色はぼやけた色、濁った色、
目立ってなんぼの冒険者は、結構鮮やかな色の装備を揃える人もいるんだけど、あれもすぐダメになること前提だって。たまに憑いている精霊が、自分の色に染めてることもあるらしいけど。
だからなのか、こっちでは瞳や髪の色で美醜が左右されることもあるみたい。その二つは精霊のおかげでいろんな色があるからね。くすんだ色の中で、緑とか青、真っ赤とか、金とか銀とか。
「海運ギルドのギルド長に、精霊灯の販売で少し華を持たせたら、藍玉は優先的に回してくれるそうよ」
悪い笑いを浮かべるソレイユ。
青い布の販売ではナルアディードの商業ギルド、精霊灯の販売では海運ギルドを少し関わらせ、ソレイユが両ギルド長をそっと競わせている気配がする。
「飛び地のトマトもすごいわ、これは商売を抜きに。
「うん。それでいい」
雨が少なくって収穫がままならず、領主が手放した土地なので、旱害に強めのトマトを選んだ。カボチャ、トマト、さつまいもなんかが強いんだけど、ちょうどトマトを推してる時だったんで。
周辺の人のことを考えると、カボチャとかさつまいもの方がお腹に溜まるから良かったかもしれない。
そろそろ普通に雨が降るだろうと思いつつも、心配だったので、精霊にお願いして苗によく育つおまじないをしてもらったのは内緒だ。
パルに聞いて、普通より深く耕し、有機物をつっこみ、苗の周辺には敷き藁をして保水力をあげてみたりもした。俺じゃなくって、そこの住民が労働したんだけどね。
結局その後も雨が降ってもぱらぱら程度で、すぐ地面は乾いてしまったらしい。もともと雨は少ないみたいだけど、極端だって。後でちょっと様子を見に行ってみよう。
「今回は赤字だけれど、次からは黒字よ。効果絶大な広告をうったようなものだわ。島の苗にも注文が入ってるわ」
ソレイユさんが生き生きしている。
住民の心配をしてあげてください、いや、した上で救済対策しつつ金儲けの算段にしているのか。器用だ。
「順調に野菜が広がるっぽくって何より」
広げるだけじゃなく、儲けがでそうな勢いだけど。
「ああ、そうだ。これお土産」
「だめぇえええええええ!!」
ソレイユの机の上に木箱を置こうとしたら叫ばれた。
「傷、傷が付いたら死ぬわ! いっそ私の上に」
机に覆い被さって泣くソレイユ。
「いや、人に荷物を載せる趣味はないんだけど……」
ああ、そういえば地の民から机の納品されたんだな。
通りで立派な机だと思った。――嘘です、ちょっと前に黒鉄の竪穴で作品見まくってたので馴染んでて気づきませんでした。人間見慣れるね!
「いっそ天板にガラスを敷いたらどうだ?」
「ううう。地の民の作は造形もすばらしいけれど、手触りも最高なのよ……」
泣きながら頬ずりするのやめてください。
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