第400話 遮光器土偶再び

 黒山ちゃんと大岩のおじさんの話を聞いた後、お土産に真っ黒い松をもらってしまった。違う、俺が欲しいのは黒檀だ。


 土偶の住む湖まで【転移】で戻り、とりあえず遅い昼飯。黒檀をもらえたら、午後からは材木にする作業をしようと思ってたんだけど、どうやら今日は無理そう。


 籠タイプのお弁当箱をぱかっと開けると、おにぎりが三つとおかず。シャケ、葉唐辛子、焼きたらこ。卵焼きにソーセージ、唐揚げ、柴漬け。


 すじことか天むすも作ってあるんだけど、外で食うおにぎりってなんか昔からありそうな具材を選んでるな、俺。


 少々冷えているんで味噌汁を飲もう。豚汁と粕汁どっちがいいかな? お椀に盛ったそのままを【収納】できるんですよ! 便利便利。おかげで器の類が慢性不足気味。


 結局粕汁を選択して、ゴクっと。にんじん、だいこん、こんにゃく……具材は豚が鮭になっただけで豚汁とそう変わらない。アラで作ってもいいけど、今回はアラは出汁として頑張ってもらって、ちゃんと鮭の身を入れているので食べでもある。


 あ、おにぎりと鮭被ったな。まあ、焼いたのと粕汁に入ったふわっとした身ではずいぶん違うからいいとする。


 胸のあたりと手足がぽかぽかしてきたところで、おむすびを食べる。パリッと割れた海苔がいい香り。ご飯が美味しい。


 こういう時のウィンナーってやたら赤いやつが欲しくなるんだけど、生憎お高いウィンナーを選択していて、赤いのは『食料庫』にない。まあ、染めればいいんだろうけど。


 昼を食い終えて、当初の予定を果たすべく鈍色の湖の中へ。荒涼とした北の大地から、冷たく暗い水をくぐり抜けると、びっくりするほど明るい世界。


 ある一定の深さまで潜ると、見上げる水までが濃い青に変わる。鮮やかな緑、黄緑、赤みを帯びた葉。陸よりも繊細な葉を伸ばした美しい水草たち。


 俺が移動することでできた水流で、同じ方向にゆらゆらと揺れ、抱えていた気泡を水中に放つ。光合成もばっちりなようだけど、この深い場所の光源ってなんだろう? 


 水と水草自体が薄く輝いている気もする。とても不思議な場所だ。小魚がだーーっと一斉に動き、群舞を見せる。よく見ると精霊たちも交じっている。


 水の精霊たちに名前をつけつつ、木々の生い茂る場所に出たところで、土偶の姿を探す。


 あ、いた。


「えーと。またお邪魔してます」

巨木の影に体半分隠れていた土偶が、ささっと木の影に体を隠そうとして動く。そして反対側からはみ出た。土偶はでかいのである。


「本日はお願いがあって来ました。ここの黒檀と、この土を取り替えてくれると嬉しいです」

【収納】から麻袋を出す。中身はパルの力が宿った黒土だ。


 本日は5袋。水流が起きて、次々と土偶の目に吸い込まれてゆく。土偶の中身が食ってるんだろうけど、どうなってるんだろうな?


 そして前回と同じく、目から中身のなくなった麻袋がふよふよと出て来て俺に返却された。


そしておもむろに五、六本の木がズボッと抜ける。配置を考えているのか、それぞれ離れた場所の巨木だ。


「あ、いや。あんまり抜くとなくなっちゃうし、黒檀だけで。――あ、もう抜いちゃったからいい? ありがとう」

って、初めて土偶と話した!!!


 と、思ったらすごい勢いで泡を立てながらすっ飛んでいった。風船の空気抜いた時みたい。ちょっと呆然とする俺。


「ありがとう」

もう一回、消えていった方に向かってお礼を言う。


 って、さっきと同じような距離にある巨木の影にいるんですけど! いつの間に戻って来た!? でかいのにやたら素早いし行動が謎すぎる。


「ありがとう、今度は木とは関係なく土持ってくるから。あ、黒山の松もらったんだけど、一本いる?」


 土偶のいる方に向かって声を掛ける。挙動不審な土偶。


「こんなやつだけど」

黒山ちゃんからもらった、大きな真っ黒な松を一本取り出して見せる。ここの巨木の幹周りには負けるけど、代わりにどこまでも真っ直ぐ。


 また水流が起きて、先程の巨木の一本が抜けたあたりに運ばれ、黒い松が据えられる。


 そしてどっと削られる俺の魔力。土偶、お前、前置きをくれ! 今日は精霊に移動系でたくさん頼みごとしたから魔力を渡しててですね!


 さっき黒山ちゃんにごっそり持ってかれ、大岩おじさんとも契約したし、松の巨木の精霊とも、小さいのとも大分……というか、黒山ちゃん並なの!?


 色々言いたいことはあったけど、当の土偶はまた水を巻きながらどこかに消えてるし、俺は俺で自分を包む大気の精霊たちが心配して上に持ち上げてくれている。


 ざぶんと湖から出て、そのまま陸に運ばれる俺。


「ありがとう」

サービスしてもらったけど、余分に魔力を渡す余裕はない。代わりに懐から魔石を取り出して割る。


 魔石が内包していた魔力があたりに漂うと、大気の精霊がそれを取り込む。


 魔石は魔物に憑いた黒精霊の力が凝ったものだ。神殿で浄化しないまま、繰り返し同じ場所で使うと黒精霊の影響があるらしいけど、この程度なら自然に浄化されてしまう。


 大の字になって転がり、しばし魔力の回復。

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