第401話 集合

 『家』に【転移】して、リシュにふんふんと嗅がれる。リシュ、心なしかお口がへの字。心配かけないように魔力を回復してから戻ったのに、微妙な反応。


「変な匂いするか?」

松脂まつやにの匂いだろうか。


 不審そうな顔をして嗅いでいたが、一応リシュのチェックには合格したらしく前足をぐっと伸ばして上半身だけ伏せて、しっぽをふりふり。一転笑顔の遊べのお誘い。犬って表情豊かだよな。


 しばらく葡萄棚を挟んでリシュと追いかけっこ。たったったとちょっと距離を取っては、止まって俺を見る。それを合図に俺がわーっと走っていくと、ぴょんと飛び退いて、またたったったとちょっと距離を置く。これの繰り返し。


 リシュが満足したっぽいところで、捕まえてわしわしと揉むように撫でる。指を突っ込むと少しヒヤッとするが、毛は子犬の柔らかさでほわほわしている。不思議な感じ。


 さて本日はカードゲームのお誘いという名の、執事への愚痴大会らしい。議題がエスでの俺みたいなので嫌な予感しかしない。でもカードゲームは楽しいので悩ましい。


 リシュに夕飯を用意したら、カヌムの家に転移。とりあえずカードゲーム部屋の奥にある部屋を覗く。


 いた。ベッドの上に大福と座布団。座布団の上に大福が丸まって――いや、腹を出して伸びている。肉球とお鼻がピンク。


 俺に気づいた座布団が、角を振ってくる。こっちを見ないけど、髭がピクピクしているので大福もきっと俺がいるのには気づいている。


 そっとベッドの端に腰掛けて、指の先で座布団の角と握手(?)して、そのまま大福の鼻の前に手をかざす。――こねさせていただいても?


 どうやらOKらしく、俺の方にごろんと半転。喉から頬のあたりを指先でちょいちょい撫でていると、もっと撫でろと頭を擦り付けてくる。


 わんこはどこを撫でても大抵ご機嫌だけど、猫はダメなところあるよね。でも大福はしばらく撫でてると、どこを触ってもOKになる。気が向かないと最初の撫でるをさせてくれないんだけどね。今日は思う存分こねた!


 座布団は大福を載せたまま不動。


 最近はおれがあちこち歩き回るのがわかったのか、座布団は島でおじいちゃんの側にいることが多い。ただ、暑いとカヌムこっちに時々逃げてくることがある。


 何か載せてるのが好きみたいで、大体カヌムではこの部屋で大福を載せている。本体だったのか、姿を写しただけなのかは謎だけど、元が『精霊の枝』を載せるためのクッションだったようなんで、そのせいか?


 ◇ ◆ ◇


「おう。邪魔をする」

「いらっしゃい」

裏口からディノッソを迎え入れて、階段を上がる。


「俺が最後か?」

ゲーム部屋の方に視線をやって聞いてくるディノッソ。


 もうレッツェとカーンたちは部屋にいる。物音ひとつしないが、ディノッソは気配を感じとれるんだろう。


「ノートがまだ来てない」

「逃げたんじゃねぇだろうな……」

眉間に立て皺をつくるディノッソ。


「ノートはカード強いじゃん」

金をかけていたら、巻き上げられるのは俺とディノッソだと思う。本気というか、もっと大切なものがかかっている時はディノッソが一番強い気はするけどね。


「ゲームのことじゃねぇよ。っと、来たみてぇだな」

足を止めて下に視線を向けるディノッソ。


 俺も釣られて視線を向けたところで、玄関からおとないを告げる執事の声。


「よし!」

ずかずかといつもより乱暴に階段を下り、執事を迎えにゆくディノッソ。


 なんだ? 微妙に怒っているような、嬉しがってるような不思議な感じ。


 二人で行ってもしょうがないので俺はそのまま階段を上がり、ゲーム部屋に。ディノッソが素早かったので、出遅れたとも言う。


「ノートも来たぞ」

「ああ。揃ったな」

そう答えるレッツェの膝の上には大福。大福の存在を感知できないレッツェは、膝を開き気味に座っているので、正しくは膝の上というか、足の上から股の間にてろんと流れ込んでいる。


 カーンを下から持ち上げようとしていた座布団が、俺に気づいて飛んできて、角でつついてくる。


「ちょっと待ってな。料理仕上げる」

ゲームの前に飯だ。


 俺がそう言うと、一つうなずいて――一回真ん中で30度くらい折れて――またカーンを持ち上げる作業に戻っていった。なんで持ち上げようとしてるんだろうな?


 座布団も光の玉に見えてるはずなんだよな? 隣でハウロンが微妙な顔をしているけど、カーンがスルーならスルーしないと、レッツェにバレるぞ。


「お前、精霊に話してるんだろうって分かるぞそれ。外でうっかりださねぇようにしろよ?」

レッツェに注意される。


「はい、はい。酒はワイン?」

「おう、頼む」

「うむ」

「ええ」

返事をもらって、ワインの瓶を取り出す。


 部屋の真ん中にはゲーム用のテーブルがある。それを囲む椅子は、四つだったのが今は六つ。ゲーム用のテーブルには料理はおかず、椅子の間にサイドテーブルを置いて、そこにツマミやら酒を用意している。


 時々、端にある三人がけのソファで一人伸びていることもある。棚にはあちこちで集めてきたゲーム盤、俺が気に入って買ってきた雑貨と酒、酒杯――友達と遊ぶ秘密基地みたいな、なかなか居心地のいい部屋になったと思う。


 ちゃんとそこに友達呼べてるしね! 

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