第398話 混ざるな
さて、わんわんの小屋の黒檀どうしよう? 黒檀って暑いとこのやつだった気がするから、北の湖に行ってもないかな? あ、でも花梨も紫檀もあったんだからあるか。
あの辺ももしかして昔は暑かったのかな? 火の時代とかあったし、そうかもしれない。あの湖は土偶の管理するあらゆる木々をしまって保存する箱なのかも。
土偶に土を用意して北の大地に【転移】。いきなり涼しい。
――黒檀は真っ黒なのと縞模様があった気がする。きっと真っ黒な方だよな? わんわん、真っ黒だし。俺的にはピアノの鍵盤やら、チェスの駒、仏壇の印象なんだけど。
そう思いながら近くの精霊に名付ける。湖に潜るために空気の層を作ってもらわないと。名付けていると、以前名付けた精霊も寄ってきた。魔力を少し分けつつ、この辺りの様子を聞く。
小さな精霊たちがわいわいと話し、その中から意味がありそうな言葉を拾っていく。しゃべれないのもいるしね、でも精霊同士は意思疎通して、話してたりする。
『夕方が長くなった〜』
『おひさまがずっといる日がいっぱい』
『お日様沈んでも明るいの』
『光の精霊増えたー』
光の精霊はともかく、他は
『一日中夜な日もあるのか?』
『しらなーい』
『みたことなーい』
『大岩のおじさんが、昔は暗かったって言ってた〜』
おっと。どうやら昔は闇の精霊が優勢な時代もあったっぽい。
『今度、大岩のおじさんのところに連れてって』
どうやら大岩のおじさんとやらは古い精霊のようなので、色々聞きたい。
『はーい』
『おじさんに会う〜』
『いく〜』
宙返りしたり、滑空したりと動きはさまざまだけど、小さな精霊たちが一斉に同じ方向に向かって移動し始める。
『って、今じゃない、今じゃない!』
慌てた俺だけど、時すでに遅し。まあ、湖は後でもいいか。
精霊の後を追って走る。
いやだめ、無理。俺の能力は結構高いはずなんだけど、奴ら早い! 冷風の精霊、突風の精霊の二人組が他の精霊を風に乗せて運んでいる。
『あれと同じ早さで移動お願いします』
湖に潜るためにまとっていた空気の層、大気の精霊と風の精霊に頼んで同じく運んでもらう。
いや、ちょっと! 海に出たんだが! 黒山!? 大岩のおじさんって黒山にいるの?
物理、物理効かない敵がいるって聞きます!
『ごめん、防御もお願い』
ついてきていた精霊にも願い、まとう精霊を増やす。
運んでもらっているのをいいことに、大急ぎで周囲の精霊に名付ける。名付けてない精霊もついてきてるからね、寄ってきた精霊ならこっちに興味があるから話が早い。契約がスムーズ。
黒山はその名の通り黒い威容を持つ。剣のように尖った霧霞む頂きが、いくつも集まって、尖った山が空を切り裂こうとしている。
北の大地から見える黒山は人を寄せ付けず、なにか別なものを飼っているみたいな、そんな雰囲気。今は海を超え、麓に来てしまったので近すぎて見えないんだけど。
海岸にうろついていた魔物は、俺がまとう風が寄せ付けず、陽光の精霊や、瞬く光の精霊が消滅させた。光の精霊多いからね、俺にも結構な数の契約精霊がいる。
北の大地に大きな木々はほとんどなかったけど、こっちには黒い幹を持つ、杉のような木々が生えている。木の植生の北限とかじゃなかったのか、それともこの真っ黒な杉が特別なのか。
――近くでみたら松だったけど。うん、【鑑定】の結果も松だった。『黒墨の精霊の愛し子と言われる』とか出るんですが。どんな何なんだ? 精霊の愛し子が人間だけって誰が決めた? とは思うが、植物もなの?
その松の森につっこみながら、精霊に名付けて行く。松ぼっくりの精霊、葉擦れの精霊、松風の精霊、落ち葉の精霊、小石の精霊――同じ精霊もたくさんいる。
俺の目にはちょっと異様な場所に見えるけど、精霊たちの様子からすると豊かな土地らしい。人間は暮らしにくそうだけどね。
黒精霊がわんさかいるイメージだったけど、今のところはそんなことないみたい。
『……』
うん? なんかごっそり……
『って、お前はダメじゃないか!? ダメだろう!? そんな簡単に契約できたらまずいんじゃないの!?』
しれっと混じっていた黒山の精霊。
待って待って、本体、本体きたんですけど!! というか、なんで小さいんだ!? あ、黒山そのものが本体なんですね? うん。そのちっさいのは森の様子を見て回る時、一番多い精霊の大きさに合わせた、と。
思いのほかフレンドリーなんだが、いいのかこれ? あの、北の民に聞いた話だと、黒山って生きて帰れない風じゃなかったっけ? おかしくない?
『ついたー』
『大岩んおじさんー』
『ここだよ〜』
大岩のおじさんこと『マキヴィ』。地面から突き出た、丸みを帯びた岩にゆらゆらと揺れながら載っている見上げるような大岩。
黒山と両方から話を聞けばいいのかな、俺?
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