第395話 国土計画?

「アサスがいるから植物が生えるのもすぐかな?」

「ああ、本格的に豊かになるのはエス川の氾濫を経てからであろうが――おそらく、すでに黒い土が川底に。豊穣の神アサスの力を最大限に発揮する女神エスの恵だ」

首を傾げる俺に、カーンが答える。


「街の中の私の守護は弱まるけれど、川は女神エス、砂と川との間の土地は豊穣の神アサスの支配する土地。以前、私は水を渡ってきた敵を防げなかったけれど、今回は大丈夫ね」

カーンに後ろから抱きついたベイリスが、カーンに顔を寄せて嬉しそうに言う。


 その図がまた似合う二人。くそう、モテ男が……っ!


 そういえばベイリスって水が苦手って言ってたな。乾いた砂がない場所では力が振るえないんだから当然か。砂埃を飛ばして一時的に影響を及ぼす範囲を広げたとしても、水の中は無理だ。


 でも今回、その水は女神エスなわけで。うん、お願いしとけば地形的防衛はバッチリだな。


「後は、わんわんの小屋を設置すれば完璧か。でも場所どうしよう? あの広間の入り口だと、エスとアサスが会う場所って考えたら微妙?」

どうしたら?


 答えを求めてみんなを見ると、レッツェは俺に聞くなと言うふうに視線を逸らし、カーンとベイリスは変わらぬ状態キープで無言。ディノッソはため息。


「お願い、もうちょっと感慨かんがいふけらせて」

最後に視線を向けたハウロンはちょっとげんなりしている。


 都市防衛って大切なことじゃないの? 少なくとも島のアウロとキールはこだわりまくってるぞ?


「もう少し言葉を選んでやれ。俺みたいな庶民には、わかりやすくていいがな」

レッツェが言う。


 俺もわかりやすい方がいいんですけど。


「私は嵐と戦の神と相性がいいわ。性質上、彼の神は地上におられた方が力を発揮できるのではないかしら?」

ベイリスが面白そうに言う。


 嵐と砂漠の精霊の力が合わさったら確かに凄そうだ。砂嵐とか竜巻とかこう……なかなか酷そう。


「この場所に地上の神殿を建て、囲むように王宮を。豊穣の神アサスにはいずれ地上の神殿においでいただくとして、『精霊の枝』も便宜上、そこに置く。地下は女神エスの神殿とし、嵐と戦の神にも地上の神殿においでいただこう」

カーンがゆっくりと周囲を見回して言う。


「便宜上……。精霊の枝も置いとくんだ?」

置いといても置いとかなくても効果が変わらない気がする。本体カーンがいるんだし。


「俺が王の枝を名乗っても信じぬ者もいるだろうよ。その度、証明してやる面倒をする気はない。それに貴様を見習い、あちこち見て歩くつもりでもおるしな。戦う国もなく、ハウロンの【転移】があるのならばそれも可能だろう」


 なんともいえない顔でカーンが笑う。嫌そうではないけど、なんか複雑。


 あ、そういえば、俺がシャヒラに国に縛りつけられたカーンの解放も願ってるんだった。決して国を嫌うとか捨てるとかは願ってないんで、国への愛はそのままにふらふらする王様が出来上がったのか、もしかして?


「わかっておらんようだが、この街はお前の物なのだぞ? 俺を含めて、な」

「えっ」


「そこで意外そうな顔をするのがアナタよね」

「しかも微妙に迷惑そうね」

ハウロンとベイリスが言う。


「我が主人は、俺の持ち主の自覚が薄い」

ニヤリと笑うカーン。


「まあ、普通は『王の枝』の持ち主が王だわな」

あーあ、みたいな顔をしてディノッソが言う。


「そう、我が王の王なのよね……。王の王って訳がわからないけれど」

ハウロンが鎮痛な顔をして緩く首を振る。


 王の王! 至高の上王ハイ・キング! ……お散歩ハイキングみたいだな。今ならリシュとわんわんの二頭いけるのか。


「いや、国なんて面倒なものいらないぞ? 責任もてないし」

ズレた思考を戻して答える。島だけで間に合ってます。


「客観的に見たポジションは、建国に力を貸した賢者、ってことになるのかしら。アタシも中原のいくつかの国からそう呼ばれてるけど……」

ものすごく微妙な顔でハウロンが言う。


「建国の大賢者」

ディノッソが上体を引いて、胡散臭そうな顔して俺を見る。


「余計なことを省いて見ると、やっていることはそうなのよ……。アタシよりすごいわよ。自慢じゃないけど、かなりの有名人のはずなのよ? アタシ。本当にもうどうしていいかわからないわよ」

ハウロンがまたため息を吐く。


「経緯や本人の言動を抜いて結果だけ伝えると、やべぇ伝説になりそうだな」

レッツェが言う。


「似合わねぇな、おい」

ディノッソが言う。


「面倒臭いからハウロンのせいってことで」

「ちょっと、無茶振りしないでよ! アタシだって出来ないわよ!」

ハウロンが目をむく。


「大丈夫、大丈夫。半分はディノッソに押し付ければ」

「ちょっ! 飛び火した!?」

げっ! みたいな顔のディノッソ。


「さすが伝説の金ランク二人!」

押し付けていいって言質は前に取ってるし!


「どこをどうしたらそうなるんだよ!」

「無茶振りしないで! 無理よ!」

悲鳴を上げる二人。


「よし、帰ろうか。船に乗らなきゃ、船」

夕方のエス川クルーズ!


「ああ、そういえば手配してたっけな……。なんかもう、遠い記憶になってたぞ。これでお前の1日に満たないのか」

レッツェが呟く。

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