第391話 時の流れはそれぞれ
「今はやめろ。一度、回復したいし、覚悟を決めたい」
カーンが片手で目頭を押さえ、目をつぶったままもう片手をこちらに突き出す。
「そうだな。地面にめり込みそうなヤツもいるしな」
レッツェがハウロンとディノッソをちらっと見る。
くずおれそうというか、くずおれているハウロンとその腕をつかんでかろうじてとどめているディノッソ。
「何でそう冷静なんだ?」
レッツェにどこか不満そうな視線を向けるディノッソ。
「何度も言うが、俺にゃ見えねぇし、気配の大きさってのもよく分からねぇんだよ。分かんねぇそれよりゃ、ジーンの行動範囲を正確に把握しときたいってのがある。どうも、急にジーンを訪ねて
レッツェが軽く肩をすくめて見せる。
「よし、分かった。レッツェだけ聞いといて」
ディノッソが言う。
「精霊の対処は俺じゃできねぇだろうが」
「できてる、できてる」
「できねぇよ! 見えねぇんだから」
「いっそこうなったら、見える大物専門でいいだろ」
「よかねぇ!」
仲良しだな。言い合う二人を見ながらチャイを飲む俺。
紅茶を煮出して、砂糖、ミルク、ジンジャー、カルダモン、クローブ、ブラックペッパー……。口に甘く、のどにスパイスが来る。小さなカップで、濃いやつを。後がスッとするカルダモンのおかげで、濃い割りに飲み口はスッキリ。
「カーンとハウロンは、なんか疲れてるみたいだし、とりあえず帰って夕方に備えて昼寝するか」
今日はエス最終日、夕方はエス川で涼みながらみんなで船に乗る予定がある。
「誰のせいなの、誰の!」
ハウロンが叫ぶ。
「寄ってきたエスのせいだろう」
俺は呼んでない。
「もう少しこう、
「ない」
にじり寄ってくるハウロンに答える俺。
「もう少し考えてやれ」
レッツェがため息をついて俺を見る。
「――ない」
ちょっと考えて答える俺。
「考える時間、短かッ!」
ディノッソ。
「だって俺、負い目を感じたり、空気呼んで自重するのは辞めてる。やりたいことはやって、やりたくないことはしないぞ。何か目的があって我慢するのは別だけど」
大体それで姉に絡め取られて身動き取れなくなってたからな。
「ああ。初めて会った時からお前はそうだったな。……少しは体裁を整えろ」
そう言うカーンはやたら劇的だと思います。似合ってるけど。
枝持ってるやつ連れてこい、話はそれからだ! みたいなことをされて、奥に引っ込もうとするカーンとベイリスに、スルーしてついていったのはまだ記憶に新しい。
「そういえばアサスはどするんだ?」
「これから地下に据えにゆく。――精霊たちの時は人のそれとは違う。悠久の流れを持つエスなれば、時の流れもゆるりとしたものだと思い込んでおったが、どうやら違う。時間をかけ、整えてからと考えていたが、あの様子では
いささか準備不足ではあるが、と不本意そうなカーン。
「台座みたいなのやろうか? 元はエクス棒からもらった『精霊の枝』を載せる用だけど」
あるぞ、埴輪を載せるにはちょっと荘厳すぎた台座が。
「ああ、頼む」
そういえばカーンも台座に乗ってもいいのか。『王の枝』だもんな。――台座に乗ったら、筋肉とあいまって彫刻みたいだ。
なんで俺、筋肉つかないんだろう? やっぱり作られた体は、普通に成長したり体型が変わったりしないんだろうか。髪はじりじりと伸びてきたんだが、伸びるまですごく時間がかかっている気がする。
その辺、守護の影響と合わせて聞いてみよう。あの時、全員の守護を受け切れたのは、俺の寿命がたくさんあったからってことにしても、その後どうなのか。この体自体が特別性なんだろうか。
「まあ、じゃあ戻ろうか。わんわんはどうする?」
ついてくるんだろうか?
「わんわんは帰る。愚兄が据えられたならば、間抜け面を見にゆくゆえ、寝床を用意しておくがいい!」
実質ついてくる宣言じゃないか、これ?
「わかったけど、寝床の好みは?」
ハウロンが半眼になっているのを横目で見ながら、わんわんに聞く。
「うむ、黒檀がよい!」
「ああ」
黒檀の寝床か……。板敷くだけじゃダメかな?
「よし、ホテルに帰るか」
「ああ」
レッツェが答え、他のみんなも当然の如く了承。
「早、ありがとう」
そして気づけば一とところに片付けられている食器。
これはディノッソお父さんとレッツェの仕業だ。マメさか、マメさが求められているのか!
まとめられたものを【収納】して、わんわんと別れてホテルへ。わんわんとはすぐ会うけどね!
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