第389話 守護

「待って。今、精霊が生まれなかった?」

ハウロンがどこか呆然と。


「ノートにそっくりなのが急に出てきたが、あれが精霊が生まれたってことなのか?」

レッツェが言う。


「普通は、もう少し小さく生まれるんだけど、結構すでにデカかったな」

エス用のメモ帳、数冊は溜まったけど、まだ本の形に装丁してないんだけど。


 やはり古き神の名前って重いのかな? ステカー改名しちゃったけど。――エスはノーカンでお願いします。


「……これも日常なのね……」

がっくりうつむくハウロン。


「……俺はお前の王の枝だ」

地の底から這い上がるようなカーンの声。


「うん?」

カーンは、ずっと暗がりで考え込む悪の親玉みたいなポーズをしていたのだが、どうやら光の世界に出てくる気になった様子。


「お前の許可があれば、お前の契約精霊を俺が使役することができる」

「そうなんだ?」


「そうなんだではないわ! アサスだけならばともかく、エスやそれに連なる神まで……っ。あんなものたちと契約していったい何をするつもりだ!?」


「許可だしとくな」

国土の造営、協力があったら楽そうだな。


「やめろ! 後が怖いわ!」

カーンが珍しく激昂している。


「容赦ねぇな」

ディノッソが力無く呟く。


「お前、少し手加減してやれ――きょとんとするな。名の知られた古い精霊の神ほど、その地に住む人間に影響を与えるって言われてる。俺は精霊を感じる能力がほとんどねぇけど、見えるヤツほど畏怖の念が強いんだよ」

レッツェが言う。


「大昔、今よりもっと人が精霊に近かった頃。精霊の強い影響のある土地に暮らす者たちは、その精霊の眷属とも言われていたわ。今でも、精霊を感じ取る力が強いほど、それは顕著よ。その精霊から生まれた一番細かい精霊を口にしているためね。そして、この土地では口に入る物全てがエスの影響を受けていると言っても過言ではないの」

ハウロンの解説がつく。


「なるほど? 見えたり、精霊の力を借りられる人ほど影響が大きいのか」

畏怖するのは自分の眷属の親玉だから、か。もちろん土地に与える恵みとかで、普通に信心してる面もあるのだろうけれど。


「そうよ。アタシは幼い頃からあちこち移動してたから、ティルドナイ王ほどには女神エスに畏怖の念を感じないけれど。それでも幾人かの神に頭を上げられないわ」

「へえ〜」

人間が一方的に使役する精霊を捕まえるだけかと思ってたけど、逆にもの心つく前に精霊に支配されてることもあるんだな。


「そう言うお前はどうなのだ? 守護なぞは眷属化の最たるものであろうが」

「え?」

カーンに聞き返す。何だって?


「今代の勇者は『光の使徒』『光の女神ナミナの眷属』『ナミナの勇者』なんて呼ばれているわね。話を聞いているとアナタを守護する神は一人ではないようだし――でも火も水も、光も恐れる気配も惹かれている気配もない。どうやって自身への影響を無くしているのかわからないわ」


 あ。あれか、精霊の影響を受けまくると、その精霊の特質もでちゃうのか!


「火の精霊がついてるディノッソも寒がりだもんな。カーンが寒がりなのもそのせい?」

ディノッソはあまり顔にださないけど、竜型精霊に魔力送ってぽかぽかしてる時がある。


「寒いのを好かんだけだ。極寒でも動ける」

「砂漠は寒暖の差が大きいのよ」

ハウロンが付け加える。


 ただの寒がりだった。しかもよく考えたら、エスより直接憑いてるベイリスの影響の方が大きい。


「俺は、もしかしたら神々同士の力が打ち消しあってる? 最初に多数の守護をもらうと、相性の良くない属性同士消し合うってそういえば言ってた」

うろ覚えだけど、確かそんなことを言っていた。


 そう言えば、神々の力をダイレクトに使ったことなかったな。いや、喚びだしたわけじゃないけど、畑や生産って使ったことになるのかな? 


 まあ、俺はあの中の誰か一人の力に、傾くことはないと思う。


「なるほど……」

一声漏らし、あとは考え込むハウロン。


「貴様、このわんわんを差し置き、他の神の守護を受けておるのはどういう了見だ! 一体何柱に守護を受けている?」

骨をかじっていたわんわんが顔を上げる。


「うん。この世界に来たとき、8人から受けた」

「8……っ!?」

ディノッソが吹き出す。ハウロンはむせている。


「それは……。よくもまあ潰れぬな、さすがのわんわんも驚いたぞ!」

目を丸くしているわんわん。


「潰れるって?」

「知らぬのか? 契約と違い、守護は常時神々の力が流れ込む。強い影響を受ければ、人の体は耐えられず壊れるぞ! 壊れた後は死ぬか、精霊になるかだ!」

わんわんが何故か得意げに言う。


「えー……。それ嫌だな」

聞いてないです。


「そう言えば、勇者が最終的に精霊になる話もあるな。ただそりゃ、本人が選んだはずだ」

「そう言えばそんな話もあるわね」

レッツェにハウロンが答える。


「選べるのか?」

「話の元をちっと調べとくよ。――とりあえず飯食っちまおうか」

全員がそれぞれの考えに落ちてゆく前、レッツェが声をかける。


「ひと所に留まると、魔物はともかくアブやらハエやら寄ってくるぞ」

「それはヤダ」

料理にかぶりつく俺。

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