第388話 普通。

 エスがちくっとしただけなのは俺からの距離のせいか、それとも強いからなのか。両方かな。


「さて、馳走ちそうになった。早うアサスを据えよ、く我が守護を与えに行こうぞ」


「ああ。早めに整える」

「我はサドではない、一度認めた者には優しい故な」

そう言ってエスが消えたかと思うと、背後の滝壺から突然水柱が上がる。びっくりさせるのやめてください。


 そしてSの意味が伝わっている疑惑! 【言語】さんか! 【言語】さんが仕事をしてしまったのか……っ! 


 ――追求するのはやめておこう。


「我もエスが向かう先に、豊穣を与えよう」

スコスが言う。


「スコスも豊穣の神なんだっけ? アサスと一緒なんだ?」

確かそんなようなことをハウロンが言っていたのを思い出した。


「我はあくまでもエスの眷属。かの女神に沿った場所に濃い豊穣をもたらす。だいぶ力を失っているが、アサスはあれでエスと同等、エスがおらずとも豊穣をもたらす。エスがそこに惹かれて流れることさえある。そしてわんわんもまた、エスと対等な神ぞ」

スコスが相変わらずの低音で言う。


「当たり前だ! このわんわんの強さは、アサスなど目ではない! エスの隣に並ぶものぞ!」

胸をはるわんわん。


 エスはアサスに夢中っぽいんだが。報われる時はくるのか、わんわん。がんばれわんわん。


 それにしてもアサスは単独ですごいのか。そういえば居るだけで、周囲に草々、木々が芽吹き豊穣をもたらすとか言ってたもんな。


「ネネトもがんばるわ〜。私は人間にとっての幸運と富をもたらすのよ〜」

ちろちろと赤い舌を出しながらネネトが言う。


「おお、すごそう。よろしくお願いします」

だんだん見慣れてきたぞ、ライムグリーンのワニと真っピンクのコブラ。


「ではな」

「じゃ〜ねぇ〜」

二人が消える。せっかく慣れたのに。


「ふむ。俺はもう少しいてやろう」

わんわんがレッツェの隣に座り込む――というか伏せる。


 とりあえずエス川周辺で倒した、雄牛の魔物の骨を出してみると、そのままがじがじとかじり始めた。大腿骨なんでかじりがいがあるだろう。


「わんわんは、もう少し肉がこびりついている感じが好みぞ」

「ああ、次回はそうする」

リシュは綺麗に洗って煮沸して乾かしたヤツの方が好きなのだ。好きと言っても味ではなくってかじる感触が楽しいっぽい。噛みごこちはエクス棒がダントツらしくて、今はもう骨はかじらないんだけど。


「お前、それでいいのか?」

レッツェの眼差しが、わんわんに向く。そして俺にも向いて、ため息一つ。そのまま無言で頭をわしわしと乱暴に撫でられる。なんですか?


「嵐と戦の神、ステカー……」

ぐったりした感じのハウロン。


「エスと契約して多少よろめくだけ、だと? 貴様、シャヒラと契約後、どれだけ魔力をあげたのだ?」

「今、俺だけじゃなく精霊のノートもせっせと契約とってるからな。ノート増えてるし」

最初一人だったのが、火・水・地・光・闇・風・木・花、あと黒精霊用――黒精霊はさすがに俺が直接名付けてるけど、他は俺が寝てても契約しまくってるからな……。


「それはいったいどういう状況よ……。アナタのあの・・ノートっていったい……」

ハウロンが脱力している。


「多分、エス用ノートもそろそろかな?」

懐に入れていたノートを取り出す。


 かさばるけど、【収納】から出して持ち歩いていると、小さな精霊ならば、名付けた名が書き込まれるくらいまでにはなっている。もう少しでノートの姿をとると思うんだけど。


「ああ、四人分書き込むの忘れてた」

アサス、わんわん、スコス、ネネト、そしてS。アサスは昨夜書いたし、さっきの四人。


「旦那様、初めまして。あるいは再びお会いいたしました」

俺に向かって優雅というかうやうやしくお辞儀をしてくるノート。


「おお、よろしくお願いする」

さすが神々四人。現れたノートは、生まれたばかりだというのに、そこそこ大きな精霊。


 まあ、全部のノートが繋がっているんだけど。何人かは人と同じくらいの大きさになってるけど。


「よろしくお願いいたします」

そう挨拶すると、もやとなってノートに吸い込まれるように消えた。


「……お前」

ディノッソが掠れた声をあげる。


「うん?」

「いつもこんなんなの?」

どこか泣きそうな顔でディノッソ。


「うん」


答えたら、ディノッソが目頭を押さえた!

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