第384話 お散歩

「話してる内容は、お邪魔します。エス川みんなで探訪記念6号、7号とか、そんな感じだぞ。【転移】『お邪魔します。エス川みんなで探訪記念8号、9号、10号、11号』【転移】」


「アナタの転移って魔力使わない――わけないわよね? 何よその探訪記念何号っていうのは?」


 ハウロンの言う通り、【転移】には魔力を使う。ただ、俺と精霊の【転移】では消費が微量。精霊でも本体のある物は【転移】自体が無理なものもいるし、絶対ではないけど。


「探訪記念は精霊の名前。『お邪魔します。エス川みんなで探訪記念12号』【転移】』」

「ちょっ! 雑! 雑すぎ! それにどんなスピードよ!」

ハウロンが何か言っているがスルー。


「よし、この辺までくれば近いかな? それにもうゆっくりで大丈夫」


 神殿にあったレリーフは、二つの壺から蛇の身体へ水が注がれる絵。多分二つの支流が流れ込んで、一本になったのがエス川かという予測。今、地図には二つの川の合流する地点が見えている。 


 あとであの辺りの精霊には改めて名付けに来よう。今はみんな一緒だから精霊ばかりに構っていられない。


 精霊は寄ってこなかったけど、がぼっとスマートなカバみたいなのが襲って来た。ディノッソが一匹を斬り倒し、俺がもう一匹蹴り飛ばしたのをカーンが叩き切る。


「ふん……」

絶命した魔物を一瞥いちべつして、カーンが鼻を鳴らす。


「この辺の魔物ってこんなのか」

ディノッソが魔物を切先で転がし、確認しながら言う。


「これがガッチリしたようなカバみたいな魔物は突進してくるけど、どちらかっていうと動かなくって、近くに行くとがぼっと来る系が多いかな。泥濘のあるとこだと、スッポンみたいなやつが隠れててちょっと嫌な感じ」


「ふーん」

ディノッソが辺りを見回しながら剣をしまう。


「帰っていいか?」

真顔でレッツェ。


「大丈夫よ、ちゃんと精霊をお守りにつけてるから。安心して?」

「見えねぇしなぁ……」

ハウロンの言葉に遠い目のレッツェ。


「確かにボディーガードは見える方が安心だよね。えーと、『わんわんいますか?』」

「呼んだか、人間」

真っ黒い犬が姿を現す。相変わらず大きな耳にしゅっとしたお顔。


「うん。ちょっと1日、レッツェのこと護衛してくれるか? 魔力は今と終わった後と渡す」

そう言って魔力を渡すと、わんわんが受け入れた。


「うむ。先日に続き人間の魔力は久方ぶりよ。特に貴様の魔力は歴代の中でも甘露、望みを聞いてくれよう」

わんわんがそう言って、レッツェの隣に。


 あ、ちょっと超大型犬のリードなし散歩みたいで羨ましい。


「おい。カーンとハウロンが撃沈してるぞ……」

「俺もどう反応していいか分かんねぇ」

ディノッソとレッツェ。


「ふはははは! 崇めよ、人間ッ!」

わんわんが遠吠えするような格好で言う。


「嵐と戦の神ステカーが……」

「レッツェの隣で……」

カーンとハウロン。


 喉を反らして、口をすぼめるよね、遠吠え。かわいい。


「たぶんみんなの話を総合すると、戦いに関してはこの辺で最強っぽいし安心だと思う」

断然エスの方が強い気がするけど、あれはまた戦いとかとは別の何かだ。


「帰っちゃだめか……?」

「待て。まだ四半刻と経っておらん……」

レッツェとカーン。


「この嵐と戦の神わんわんの護衛が不服か!」

わんわんが胸をそらせて言い放つ。


「ぐふっ」

ディノッソが吹き出すのを堪えた! いや、堪えきれていない!


「不服だなどとそんな、滅相もない……」

ハウロンは目を逸らしている。


「強すぎて、護衛にはオーバースペックなのが不服なんだよ……」

「おお、その様なことか! 安心しろ、このわんわんにとって、麗しきエス以外はどの対象とて矮小な存在よ!」

ぼやくように言うレッツェの隣で得意げなわんわん。


「進むなら進もうか。じゃねぇと、わんわん言うたびにカーンとハウロンが弱ってるぞ」

ディノッソが言う。


「ふはははは! 名を聞くのも怖れ多かろうが、今日は差し許そうぞ!」

わんわん何か楽しそうだな。


 微妙にふらふらしているカーンとハウロンを連れ、エス川を遡る。


「そろそろ見えてもいいかな?」

「何が?」

ディノッソが聞いてくる。


「二つの川が合流するとこ」

「む。黒エスと乳エスの目、誕生の渦か」

俺の言葉に反応したのはわんわん。


「黒、ちち……?」

黒は黒だろう、だがちちは何だ?


「うむ。聖なる乳白色の川」

偉そうに頷くわんわん。


 乳エス! ちょっと、言い方!!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る