第383話 通常行動

「えーと。勇者の一人に【全魔法】がくっついてるのは話したよな?」

「ええ。知識もないのに使えるあれね?」

「うん。で、他に【支配】というのがついてる」


「……不穏な単語ね」

ハウロンが顔をしかめる。


「二人目は【全剣術】【能力強化】、三人目は【人形】。あと全員【若さ】と【美貌】もついてるっていってたっけかな? その二つは俺に関係ないからどうでもいいけど」

神々が一通り教えてくれたけど、心底やつらの容姿なんてどうでもいい。だって会う気ないし。


「いや、自分たちの上にいるものが美貌であるのは単純に民衆が喜ぶ。何か事を起こそうとするとき、民草の人気というのは侮れぬぞ」

なるほど、カーンが言うと重みがあるな。


「まあ、人間世界は置いといて。俺、神々に【支配】を嫌がって、逃げて来た精霊に名付けて保護するように頼まれてる」

「……あなたも勇者だから?」

「勇者というより、【支配】に対抗する【解放】を持ってるからかな」

後出しジャンケンで、【支配】を無効化する【解放】を貰ったのだ。


 【解放】は持っている俺にも効いていて、いろんなしがらみを考えない方向で、自由を謳歌している。たぶん。


「【転移】【収納】【解放】【言語】……? その性格に慣れると惑わされるが、【美貌】もついているか?」

「いや、つけてない。ただ、元の容姿を捨てるにあたって、こっちの容姿は神々のうちの何人かの中間になった」

カーンの問いに答える、俺は四つじゃないけどね。


 たぶん俺も姉達も、体は【人形】と同じもの。姉達は死ぬ予定だったってことで、連れてこられる時に同意なく作り替えられている可能性が高いと思っている。


 割と簡単に魔力量が上がるのは、精霊と契約した恩恵がダイレクトに来る体をしてるからじゃないかな――待て、性格に惑わされるってなんだ、惑わされるって!


「普段からせっせと名付けているから、豊穣の神や嵐と戦の神にと契約してもスルーなのね? ……でもお願いだから同列に扱わないで」

ため息をつくハウロン。


「ま、勇者の同士討ちを期待してるんで、精霊狩りというのが【人形】がやってることならいいんだけど。契約とかしてるんなら【支配】の方だろうなって」

姉が精霊を集めることにしたのは少々厄介な気がする。極まって自壊してくれるといいんだけど。


「あら、【人形】が食うのはいいの?」

ハウロンがちょっと意外そうな顔で俺を見てくる。


「だって俺はそこまで万能じゃないし。逃げ出してきた精霊に名付けて、あとは俺が出会った精霊に聞いてみるくらいなもんだよ」

それだけでも精霊ノートがいなかったら破綻していたと思う。


 黙って聞いているディノッソ、執事の顔が微妙に引き攣っている。レッツェは通常運転。そういえば、俺の精霊の契約数教えたことあったな。今はもっと増えてるんですよ!


「せっかく縁ができたことだし、会えたらエスには聞いてみる。カーンの国ができるとこだしな」

「心中複雑どころの話ではないが、礼を言う」

カーンから大真面目に微妙な感謝を告げられた!



 翌日、早朝。

 昨夜はリシュに臭いをたっぷり嗅がれたんだけど、わんわんのこと気になったのかな?


「さて、じゃあ行くか。俺が普段やってることでいいんだよね?」

「ああ。もちろん」

ディノッソ。


「俺、死ぬんだけど?」

「アタシが責任持つわよ」

「いざとなればベイリスもいる」

不安そうなレッツェにハウロンとカーンが言う。

 

 もう人気のないとこまで来ちゃったし、今更だ。そういうわけで【転移】。


「本当、転移先も自在なのよねぇ……」

ハウロンがどこか諦めの混じった声で言う。


 今いるのはアサスがいた神殿に近い、川辺。ここで一つ発覚、俺の持っている地図は他人には見えない、らしい。チェンジリングに見えるかどうか、後で試そう。カーンにも見えないってことは、見えない確率が高いけど。


「『お邪魔します。エス川みんなで探訪記念1号、2号、3号』。【転移】」

三体の精霊に名付けたところで、地図が結構広がったので、広がった地図の端まで移動。


「おお??」

風景が変わって――同じ川辺なんで実際は大きな変化ないけど、ディノッソが声を上げる。


「『お邪魔します。エス川みんなで探訪記念4号、5号、6号、7号』。【転移】」

再び移動。


 この辺は風景も変わり映えしないので、ふわふわ寄ってきてくれた精霊に名前を付けて、さっと移動。直近で来たことのある場所の周辺は、精霊たちの噂がめぐるらしく、集まってきてしまうので足止めされることがしばしばある。


「って、自在すぎよ! そしてなんで刻むのよ!」

「一応、知らないところの精霊に挨拶はしてる」

お邪魔します、だけだけど。


「挨拶!? 番号読み上げてるだけじゃないの!?」


 ハウロンは精霊語の理解が部分的すぎると思います。


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