第379話 食べ歩き許可

「そういうことで、そろそろいい具合に暮れて来たと思うんだけど」

食べ歩き、食べ歩き。


「いや、待て。このまま置いてゆく気か?」

「え?」

カーンが額から手を退けて俺を見ている。見られても困るんだけど。


 隣でハウロンも信じられないものを見る目で見てくるが、プレゼントを返されても困る。


「慌てるな、エスは日が暮れてから長いから店は開いてる」

レッツェに言われて、もぞもぞと座り直す俺。


「まあ、この神様? については、ハウロンかジーンの転移で設置することになるんだろうが、豊穣の神をあの砂漠の真ん中にただ置くだけでいいのか?」

「俺もわからないし、本人の希望を聞くのが早いと思う」

直接お願いします。


「……」

俺を見て、何故か不本意そうに麻袋に目をやるカーン。


「『豊穣の神アサスよ。このような状況、直問直答を許されよ。御身を必要とする場は、未だ砂の中。果たして、太陽照りつける砂の地上におわして頂くか、涼しいが陽光届かぬ地下に座し頂くか。もしくは、環境整うまで、他の大地でお待ち頂くか――いずれが良きか?』」


 カーンが長文話してる。


「……火の時代でも古い言葉よ」

レッツェに囁くハウロン。


 ああ、【言語】さん!


「砂漠の真ん中設置でいいか、暗いけど涼しい地下がいいか、いい感じになるまで他で待つか聞いてる」

通訳する俺。


「ありがとう。身も蓋もないが、分かりやすい」

微妙な礼を告げてくるレッツェ。


『湿った場所に納めよ、陽光あふるる事が芽吹くには必要だ。我はチシャ、ニンジン、セロリ、ジギタリス、ダリアなどを与えよう。湿った場所に納めよ、陽光は芽吹くには必要がない。我はネギ、ニラ、ウリ、スイトピー、アネモネなどを与えよう』


 麻袋から声が聞こえてくる。


 その声に片眉をあげるカーン。どうやら火の時代の古い言葉とやらで会話する方向らしい。でもなんか、前半と後半違うこと言ってるよな?


「どっちか欲しい方で決めろってことね」

ハウロンが言う。なるほど。


 レッツェにつつかれる俺。


「湿った明るいとこ置いとくと、チシャとかニンジン、湿った暗いとこだとネギとかニラあげるだって」

「あー。暗くしないと芽が出ねぇのと、光がないと芽が出ねぇの違いか。なるほど」

レッツェ先生、理由まで! ハウロンもわかってたのかな?


「『途中で移動もあり?』」

『無論』

質問に参加してみる俺。


「途中で移動ありだって」

最初は地下神殿で、地上が整ったら地上に移動でいいんじゃないかな? 居れば緑になるはずだし。そこにエスが来れば一気に広がる感じ?


「ジーンはちょっと伝え方を考えような。やんごとなき方々がダメージ負ってるから」

ため息をついてレッツェが言う。


 周りを見ると、目を泳がせているハウロン、眉間の皺を立派にして俯いているカーン、その後ろでオロオロしているベイリス。


 体裁気にするタイプか!


「……ジーン。あんまり刺激すると、呪われるわよ? 古い精霊は、精霊を変質させるだけでなく、人間にも、ね? それは一般的な精霊の力と違って、落とすのが困難な場合が多いの」

ハウロンが小声で俺に耳打ち。


「『控えよ人間、それは故あって我のあるじ。我は場を読むが、我が愚弟嵐と戦の神わんわんは、有無を言わさずその剣を振るう』」


「主……?」

「わん……?」

カーンとハウロンが不審な顔で固まる。


「なんだ?」

またレッツェにつつかれる俺。


「俺は空気読んで融通利かせるからいいけど、弟は乱暴者だから言葉には気をつけろって」

「うん? ――絶対何か端折ったよな?」

カーンとハウロンの様子に目をやって、また俺の顔に視線を戻すレッツェ。


「豊穣の神アサスの主、主人って……! 契約したの!? 無事なの!?!」

ベイリスが悲鳴をあげる。


「……は?」

レッツェが気の抜けた声をあげて、ベイリスを見る。


「おい、あの言葉の流れ。もしや、ステカーとも契約したのではあるまいな?」

カーンが腕組みをして俺を見る。


「わんわん……?」

ハウロンはなんかわんわんに引っかかっている模様。流していいのよ? むしろ流そう?


「ちょっとジーンは、もう少しわかるように説明をしようか? むしろ白状しろ」

軽くほっぺたを引っ張られる俺。


「俺の食い歩き!」

これ絶対長くなるやつ!


「レッツェ、むしろ少し連れ出してくれ。おそれながら豊穣の神アサスに直接事情をうかがった方がダメージが少ない。それからジーンの補足を求めるべきだ」

眉間を指で軽く押さえた状態で、カーンが言う。


 めでたく食べ歩きの許可が出た!

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