第378話 出来事の咀嚼中
「今はベイリスの方が強くない?」
なんでそんな驚くのか。
「アサス様は少なくとも火の精霊の時代からいるの。私は、火から風の精霊の時代に変わった時に、砂が広がって大きくなったけれど――まだ周囲の環境で力が左右されるのよ。その点、古い神々の力は安定しているの。力の使い方も制御も知っていて、私の中に自身の力を送り込んで、変質させることだって出来てしまうわ」
ベイリスがカーンの後ろから顔を半分覗かせて言う。
「へえ?」
力は集まったけど、まだベイリスは安定してないってことかな?
「ベイリスはカヌムにいる時は小さかったでしょ? でもアサスは砂漠の真ん中に連れて行っても大きさは変わらないと思うわ」
ハウロンが付け加える。
「カヌムでもいたのか……」
レッツェが遠い目になってる。
「あ、見えてるんだ?」
「ゲームしてる間に出て来たんだよ。心臓に悪ぃ」
そういいつつも、自分のペースを崩さないレッツェは最強だと思う。
「で、このシュールな豊穣の神様を持ち帰ることになったのは何でだ? 最初はエスの女神を探しにいったんだろ?」
レッツェに続きを促される。
「そう。とりあえず女神を探すために、エス川の生まれる場所に行ってみようとして川を遡ってったんだ。で、途中で会った精霊に、エス川の生まれるシーンのレリーフがある神殿があるって聞いて――行ったら、この柱が出て来た」
エスの名前を出すたびにガタガタいう麻袋。それ以外は、なんか虚無みたいな顔して大人しいのに。
「場所は『湿った種子のふくらはぎ』か」
思い当たったらしいカーン。
「弟神、嵐と戦の神ステカーに、エリカと呼ばれる木に封じられた神話があるわね。エリカは今のイチジクって言われてるわ」
「え、柱にしたのって、エスじゃなくって、わ……ステカー?」
ハウロンの説明にひっかかる俺。
「何でそうなるのよ。エスの女神はアサスの妻よ?」
「うん。浮気が原因で封印くらったんだろ? あ、エスがステカーに頼んだのか」
柱を真っ二つにするのも頼んでたしな。
「純粋な顔して変な理由を信じないでちょうだい」
「……その理由は誰から聞いた?」
「エスから」
正しくはそのようなことを連想させる話を聞いただけだけど。
「……」
「……」
「……」
「……」
四人が黙って俺を見る。
「結局エスにも会ったのか……」
疲れたように言うレッツェ。
「ちゃんと俺は知らないフリした! 痴話喧嘩は聞くつもりはなかったんだけど、しょうがないだろう、囲まれて逃げられなかったんだから!」
俺は無実!
「……待て。囲まれた? エスと誰が居た?」
「ライムグリーンのワニと、ピンクのコブラ。あとステカー」
カーンに聞かれて答える。
「……」
聞いたカーンは、額に指を当ててまた下を向いた。
「エスの眷属で、河辺を彩る豊穣の神スコス、その妻で幸運と富の神ネネトとか言わないわよね――いえ、もうそうなんだろうなって分かるけど」
ハウロンが俺が口を開こうとするのを止める。
確かにワニとコブラはそんな名前でした。
「私だって、そんなに一度に古き神々にお会いしたことはないわ」
ベイリスが大袈裟にぶるぶる震えてみせる。
「それで、この倍あった柱をステカーが上下で両断して、下を俺が好きなところに置けって。下半身は柱に納まったままで、浮気は出来ないっぽい。置いとくと周りに草木を生やして豊穣をもたらすからって言われたんで、カーンに持って来た。ちなみに上はエスが持ち帰った」
だいたいこんな感じの出来事だったはず。麻袋に収まっているのは、上半身が人型なんでそっちが本体な気分になるが、実際は下の柱部分が本体だ。しかも、正しくはふくらはぎの半分。
「言葉も出んわ」
「……どこからどうしていいかわからないわ……」
カーンとハウロン。
「砂漠に国を造るカーンに最適なプレゼントってわけか」
レッツェの理解が早くて助かる。
「そう。置く場所は俺が選ぶんじゃなくってもいいって言ってたし。あ、最初の目的だったエス川の蛇行も頼んだら、アサス設置したら会いに蛇行するって」
「この大河の蛇行……」
言葉に詰まるレッツェ。
「お願いだから気軽に頼まないで。本当にもう勘弁して」
半泣きのハウロン。
「エス川の蛇行などと、国の興亡に関わるほどの事態だぞ?」
「うん、だから国を興すにはいいんだよね? 建材含めて物資輸送も楽になるし」
俺も町を作るため、島に色々運び込んだから分かる。
カーンが国を作ろうとしてる場所に、色々運び込むのはかなりの難行。でも川があれば断然楽になる。
「……有難いのだが、礼を言っていいものかどうか」
カーンの沈思黙考の構え。
「私、アサス様のそばにいていいのかしら? エスの女神は嫉妬深いと漏れ聞くわ」
「ああ。さっきも言ったけど、下半身封印されてるから。あと、お仕置きはアサスに行くみたいだから大丈夫」
切られたり封印されたり持ちかえられたり。
「ちょっとホッとしたわ」
カーンの肩に手を置き、もう片手で胸を押さえて小さな息を一つつくベイリス。
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