第377話 プレゼント
「ただいま」
「お帰りなさい」
宿屋に戻ると、水煙草を咥えて寝そべったハウロン。
「お帰り」
カーンとレッツェはなんかゲーム中。
盤面から視線だけ俺によこしたカーンと、盤面に視線を釘付けにしたまま返事をするレッツェ。
「何のゲーム?」
「夕べ市場で見つけたの。
二人の勝負を見ていたらしいハウロンが教えてくれる。
どうやらカーンが知っているルールを使って、カーンにとって懐かしいゲームをしてるみたい。
カーンにベイリスが体をもたれて膝に顎をのせて眺めていて、周囲には似たような顔の数人が大きな団扇をゆっくりと扇いでいる。
レッツェはエスの服に着替えたらしい。こっちの服はあちこち締め上げずに風通しがよく、涼しい。なお、男も女もパンツを穿かない模様。
「ゲームが終わったら、カーンにお土産があるから声かけて」
「分かったわ」
ハウロンが答える。
「いや、待て。何を持ってきた?」
弾かれたようにレッツェが盤面に見入っていた顔をあげる。
「……」
カーンが無言で片手を上げると、扇いでいた召使いたちが部屋を出ていく。
「え? あの人たちって部屋から出せたの!?」
離れてって頼んだのについて来たのに!
「で? 何だ?」
カーンが聞いてくる。
「スルー反対!」
「この部屋の主人はティルドナイ王だもの。ほかが言っても仕事はやめないわよ」
ハウロンが言う。
ハウロンは、代表者カーンで予約したのか!
「拗ねるな。ほれ、カーンに何を持って来たんだ?」
レッツェが立ち上がりながら言い、自分の座っていた場所に俺を座らせる。
ハウロンが盤面を崩さないようテーブルごとどかして、俺とカーンの前を空ける。
「これ」
袋に詰めた柱を真ん中に置く。ちゃんとリボンをかけてみた、麻袋だがな。大体俺が座った目の高さくらいの大きさだけど、カーンにとっては少し低い。
不審感一杯の顔をしてリボンを解き、中を覗くカーン。
「……」
そして眉間に手を当てて顔を隠し、身を引いて背もたれに寄りかかる。
「何かしら?」
そう言うハウロンに、カーンが目を覆う手とは反対の指先を見ろというように動かす。
「……精霊。これはまた、変わった姿のを連れて来たわね……」
覗き込んだハウロンが言う。
一緒に覗いたベイリスがカーンの背中に張り付く。最後に覗いたレッツェは何とも言えない顔。
なお、麻袋の大きさの都合上、金太郎飴のように顔だけ柱から出ている模様。袋を開けたら顔のはず。
「俺にも見えるっつーことは、強い精霊か、もしくは見えるようにしてくれてるってことだよな? 精霊なんかほとんど見たことねぇけど、神殿なんかにある絵や彫り物とは随分違うもんだな」
レッツェが感想を口にする。
「……むしろ顔だけならば、神殿のレリーフで見慣れておる気がする」
膝に肘を置いてデコを乗せて下を向いているカーン。
「待って、待って、嘘よね?」
カーンの背中、肩口から袋をちらちら見るベイリス。
「神殿のレリーフ?」
カーンの言葉を捉えたハウロンが麺棒みたいな物を出した。巻物だったらしく、膝で転がして開くとなんか見たことのあるワニとかコブラとか。
「あ。この人、この人。アサス、豊穣の神だって」
ハウロンが急に自分の膝に突っ伏した。
「え」
困ってカーンを見るが、さっきの姿から動いていない。
「まず、何がどうして袋詰めの精霊を持ち帰ることになったか聞こうか?」
レッツェに助けを求めたら、ため息をついてそう言われた。
麻袋を前に、経緯の説明をすることになった。
「カーンが国の復興頑張る宣言したから、ちょっと前祝いというか、協力しようと思って」
「それで、これを捕まえて来たのか?」
レッツェが麻袋を見る。
「いや、ちょっとエス川の精霊を探して、建国予定地に蛇行してくれないか聞きに行こうと思って」
エス川の精霊という言葉に反応してか、ガタガタいう麻袋。
「気軽に神を探しに行くな」
ため息を漏らすように言うカーン。
「せめてそこは儀式を取り行って、降臨願うものじゃないの……? 何で自分が出向く前提なの?」
「何で? 用事があるの俺なのに」
ハウロンに逆に問い返す。
「……。やめて、アタシの常識を揺るがさないで」
片手で顔を覆い、もう片手で俺にストップをかけてくるハウロン。
「人間付き合いの常識を、神々に適用するのやめてやれ。普通は会いに行けないような場所にいるとか、居場所が分かんねぇとか、人間の行けない別の世界にいるもんなんだろ」
納得いかない顔をしてたらレッツェに諌められた。なお、ほっぺたはすでに人質にとられて、いつでも引っ張れる体勢。
「とりあえず俺のために、水を願ってくれたのは分かった。――取った方法がおかしいが」
カーンが言う。
「出来ちまうところがジーンだよな」
ため息混じりのレッツェ。
「いいのよ、神々を探す旅とか、ないわけじゃないわ。でも、ダイナミックすぎることに、日常の一般常識を適用しようとするのやめてちょうだい!」
ハウロンが涙目で叫ぶ。
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