第376話 足が生えた方が上半身です

 ズバンッと柱が真っ二つ。


「愚弟! 貴様ッ!!」


 半分にされた柱に、上半身が生えた! 

 半分にされた柱に、下半身が生えた!


 上半身はまだいい、まだいいが、柱に下半身が生えてるのシュールすぎるんですが、俺はどうしたら……?


 アサスが下半身の柱をガタガタいわせながら、ステカーに詰め寄る。そしてもう片方の足が生えた柱は、蹴りを入れている。


「ふはははっ! いい様だな、愚兄!」

とても嬉しそうなステカー。


 カオスうわ増しするのやめてください。


「古き強大な神とはいえ、今のアサスは十五に分たれた一つ。さ、早く契約して縛っておしまいなさい。――アナタはこっち」

そう言ってエスが足の生えた柱を抱き込む。


「なっ! 離せ!」

じたばたする足。


 そっち!? いやでも、柱の上下で考えたら合ってるのか? 


「あああああっ! やめろ! 持ってゆくな俺の半身!」

アサスがガタガタいう。


 だめだ、混乱する。


「残りの十三もほぼ砂に飲まれて失われた。この愚兄も環境がよければ元にもどるであろうよ」

面白くなさそうにステカーが言う。


 ちょっと、不貞腐れたわんわん。俺、わんわんのほうがいいな。きっとリシュは多頭飼いには向いてないから、言わないけど。


「アサス、諦めよ。ここから出られるチャンスはそうそうない」

「エスに抱かれた土地だからねぇ」

スコスとネネト。


 そういえば、ここは川中島ですね……。


「く……っ!」

ぎりぎりと奥歯を噛み締めていたアサスが項垂うなだれる。


 俺はまだ「うん」って言ってませんよ!


「これ、他にプレゼントしてもいい?」

「必要とする男にならかまわぬぞ」

「――エス、お前は微妙な言い回しやめろ!」


「贈る相手は男だけど、恋人の精霊が周囲にいるけどいい?」

ガタガタいっているアサスをスルーして、エスにさらに確認。


「かまわぬ。封印してあるでな」

あ、柱部分は封印だったのか。


 封印が消えたらあの下半身とこの上半身が一緒になった姿なのか。ステカーの人型をちょっと優しくした感じか。


 よし、エスの言質は取った。


「アサス、どうする? 俺と契約すると現在砂漠の真ん中になってる、火の時代の王国跡に連れてかれることになるけど」

「枯れるだろうが!」

アサスが怒鳴る。


 ちらりとエスを見る俺。


「火の時代の王国跡か、西かの? 東かの? どちらにしても過去、我が流れたことのある場所。川の流れは変わるが、戻ることもある。アサスが据えられたころ我が顔を見に参ろうぞ。我がおらねば育つことができぬからな。ふふ……」


 よし、当初の目的ほぼ達成!!!


「アサスに文句がなければ――いや、妥協できるなら契約しよう」


 ぐぬぬぬガタガタしてたけど、契約しました。


「おぬし、川筋の精霊を名付けた数といい、それなりの魔力があるとは思うていたが、びくともせぬか」

え? ちょっと、枯渇するの前提だったの? 


「あらぁ〜、無事なだけじゃないだなんて」

ネネトが感心したような声を出す。


「十五分の一とはいえ、我ら古き精霊の中でもさらに古いアサスとの契約を行ってゆるぎもせんとは……」

スコスの相変わらず重低音が下から。


「お前ら! もしかして契約失敗して、俺がどうにかなったらなったで放置するつもりだったな!?」

「ほほっ。神との契約はそういうことよ」

Sの女神が妖艶に笑う。


 なお、アサスは拗ねて、上半身も柱に収納して床に立っている。柱にしては短くなったな。


「まあ、こんなものでも我が兄だ。よろしく頼む」

ステカーが視線を逸らしながら言う。


 あれ? 割と兄思い?


「わんわんも時々来ていいぞ」

心の声が漏れた。


「わんわん……? って、な、何い!?」


 あ。


「――ごめん」

事故りました。


「愚弟の名を上書きしただと!?」

アサスが真面目な顔をして驚いているが、柱から出るなら出るで顔だけ出すのやめてください。


「契約が起こった……? 確かに我らの名は忘れられて久しいが、ただの人間如きに!? おかしかろう!?」

目に刺さる黄緑色のワニが騒ぐ。


「あらぁ? 魔力の引き合いで屈服した後ならともかく、いくら契約を支える魔力があっても双方望まない限り難しいのではなくって?」

ピンクのコブラが不思議だと言うように身をくねらせる。


「ほほ、ステカーは昔と変わらずアサスについて歩くか」

「違う!」

エスの言葉を否定するステカー。


 ブラコン疑惑! まあ、合意ならいいか。


「ごっそり魔力を持ってかれたな」

ベイリスとシャヒラの時よりマシだし、とりあえず戻って食べ歩きできる体力があればいい。


「それで済ますな! ステカーだぞ!? 嵐と戦を司る古き神だ!」

アサスがガタガタいってくる。こっちも実はブラコン……?


 生き物が少なくって戦がないオチか。存在ちからが半減してそう……。ああでも、砂漠になったせいで砂嵐とか嵐は多そうだな。


「とりあえず俺は用事があるから帰るけど、これは普通に持って帰ればいいの?」

アサスを見て言う俺。


「うむ、好きな場所に据えるがいい。愉快な人間よ、すぐにまた会おうぞ」

エスがぱしゃんと水になり、床に吸い込まれて消えた。濡れた気配は全くない。


「くそっ! 住まいが定まったら呼べ!」

ステカーがさっさと姿を消す。


「長い付き合いになりそうだ……。またな、人間」

「神々に囲まれて、ここまで動じない人間はめずらしいわぁ〜。また会う時まで息災でねぇ」

いや、動揺しまくりというか、混乱しまくったぞ?


 スコスとネネトが姿を消した。


 ようやくカオスが終了のお知らせ。

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