第374話 エス川探訪
ふんふんと【転移】を繰り返し、精霊に名付け話を聴きながらエス川を遡る。
川辺に近づきすぎるとワニと巨大なスッポンもいる。ワニはともかく、スッポンは何度か戦ってみたが、泥にハマって『家』に【転移】して着替える羽目になった。
今はカバや牛みたいな陸地で戦える魔物に限定して戦っている。
牛の魔物、角が四本なんですが……いや、一対は普通の角なのか? 顔よりでかいツノが隆々とある。
カバはカバでワニの魔物を襲うくらい強い。あの体型で瞬発力はあるわ、足が結構早いわ、がぼっと開けた喉の奥に鋭い牙が円を描いて並んでいるわ、斬ってもないのに血が吹き出してると思ったら毒だし、集団暴走はするしでとても厄介。
というか、ここの魔物って魔物同士も食い合うんだ? 人の姿――俺が視界に入った途端、争いをやめて一緒に襲ってくるけどな。同系統の動物を襲うか襲わないかは、種類によるみたい。
エクス棒はスッポンとの戦いの後、洗ったら気持ちよかったらしくって昼寝中。今は『斬全剣』でさっくりと。川に近い地面は滑りやすいけど、ぬかるみの精霊とか、水の精霊が足を支えてくれるので問題なし。
いや、ちゃんと慣れるまでは精霊の助力なしで戦っているし、今も【転移】で移動した先は精霊の活動範囲外になるから、自力で戦ってるし。
うっかり勇者に会ってしまったら、自力でなんとか逃げるくらいの鍛錬積んでおかないと。
それはそれとして、斬った感じ、カバの魔物皮は靴底に良さそうだな。今のところ砂漠に潜っているエイみたいな魔物の皮が一番なんだけど、帰ったら試作してみよう。
そんな感じでカバの魔物を重点的に倒しつつ進むと、今まで穏やかだったエス川がちょっとだけ流れを見せる場所に出た。今までたゆたう感じで流れてるのか、風で水面が波立っているだけなのか分からないくらいだったのだけど、ここは流れがわかる。
今までと違って、両岸に岩の姿も見えている。その流れの中に島がいくつか。その中で一番大きくて長っぽそい島に精霊が誘う。精霊の話だと、『湿った種子』の神……の、ふくらはぎの島だそうだ。
ずいぶん昔にこの辺りに存在した、強大な精霊たち。『湿った種子』の神は、兄弟喧嘩で弟に十四に切り分けられて、ばら撒かれたらしい。で、この島は『ふくらはぎ』らしい。
あれだ、神様がバラバラにされて穀物がそこから生えてくる神話、多いよね……。
で、この島に『椅子の女神』の神殿がある。精霊たちの話では、神殿にあるレリーフにエス川の水源のモチーフがあるそうだ。
……椅子。微妙な気持ちになりつつ、話を聞いてお誘いに乗ることにした。きゃっと嬉しそうに案内してくれる精霊たち。
この辺りの精霊は、人型と動物が混じったような精霊が多い。今案内してくれている精霊は、色や形はそれぞれ違うけど、腕の下に羽根が大きな袖のように生えている。
起き出したエクス棒を片手に、島に上陸。何度か水をかぶったのか、建物の跡が土に埋もれ、白い土を貼り付けた姿を晒す場所を通り、進む。川の中の島としては大きい印象、まあエス川がドーンと大きいと言うか、対岸見えないし。
精霊たちの案内はあるけど、要領を得ないことも多いし、情報が偏るので自分で確認しながら進む。
石造の廃棄された神殿を発見。建物の前にはだいぶ乾いた土が溜まっているが、ちゃんと入り口が口を開けている。
魔法でソフトボールより少し大きなライトを出し、エクス棒の葉の先にくっつける。
『エス川誕生のレリーフまで、案内をお願い』
先渡しで少し魔力を与え、ここまで案内してくれた精霊に釣られて集まってきた精霊にお願いする。
何匹か集まって審議中。エス川の誕生っていうのが上手く伝わらないのかな? でも他にどう言っていいかわからない。羽根のある精霊も話に加わってくれてるし、大丈夫だと思うけど。
よし、というような具合にうなずいて、精霊たちが進み始める。ここで、羽根のある子たちはお別れ。魔力をちょっと渡してお礼を言う。
ふよふよと先を行く精霊に、やっぱりふよふよと集まってくる精霊。後ろを歩きながら、名付ける。
歩いてゆくとだんだん土が少なくなり、石畳が見えた。足に感じる感触が硬くなる。
壁には人や精霊をエンボス加工したような、少しだけ立体的に掘り出した彫刻が並ぶ。真っ黒い石に、金で彩色してあるようだ。もうだいぶ金色は弱くなってるけど、きっと昔は灯りに照らされ輝いていたのだろう。
ライトの魔法と俺の前を行く精霊たちの淡い光に映し出される、壁のレリーフを眺めながら進む。どうやら昔の精霊たちの話が描かれているらしい。
文字でも書いてあれば、【言語】で一発なのだが、絵で表されると感覚的な理解をするしかない。これはこれで面白いけど。
精霊たちが壁の一角で止まった。精霊の前に出て、壁を確認する。
二つの壺から蛇の身体へ水が注がれる絵が描かれている。うーん? エス川の源流が二つあるってことかな?
レリーフを眺めていたら、その壁がぼわっと盛り上がって大きな丸太――いや、装飾が施されているし、柱? ――が出てきた。
『俺をここから出せ』
えーと。柱の精霊さん?
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