第373話 薬屋
この宿屋の何があれって、サービス係のマークがキツイところ。取り敢えずハウロンが一緒なんですいざとなったらハウロンのせいにする計画。
最初から俺がやらかす前提の部屋割り……っ! まあ、寝る時も扇ごうとするサービス係さんは、扉前待機でお願いした。
せめて腰巻きだけの格好をやめてくれないものか。
明け方『家』に【転移】する。
「リシュ」
リシュからいつもより念入りに嗅がれた後、もふりまくって癒される俺。
ころんとお腹を見せて、俺が手を伸ばすと前足で空を二、三度かきかき。舌をぺろんと出して笑顔。
うちのこ可愛い。
散歩とその延長で畑と果樹園の見回り。カルドという、大根の葉っぱを雄々しくしたような野菜を収穫。
そら豆は花が咲いた。ブロッコリーはもう少し――気になるところに手を入れながら、精霊たちに挨拶しながらぐるっと一周。
お茶漬けを食べたい誘惑を振りきりながら、エスの宿に【転移】。
宿の朝ごはんは、同じサイズに細かく刻まれた野菜が蒸されたり、焼かれたりなメニュー。
肉もハンバーグじゃないけど、一度刻んで挽肉にしたものを串につけて焼いたやつとか。どちらにもハーブが混ぜ込んである。
味的には美味しいんだけど、カヌムの肉の塊、野菜の丸焼き系の料理からこれは、振れ幅が激しい。ディーンがへこたれている。確かに歯応えが欲しくなる。せめてタクアン欲しいな。
明日の夜に観光して【転移】で帰る二泊三日、決まっている予定は明日の夕方の川下り。それまでフリー。
「ちょっと薬の在庫を確保するわ」
と言ったハウロンに、レッツェと一緒についてきた。
カーンは姿を消したベイリスと、昨日に引き続き町歩き。カーンにとって、馴染みのものが変わっていたり、変わっていなかったりで、見たいものがたくさんあるようだ。
店に並んでいるのは、ナツメヤシ、燈心草、ついてる名前が違うけどタマリンド、野生のエンドウ豆、コリアンダー、イチジク、そのほか色々なものが小引き出しに入れられ、袋に入れられ、吊るされ並ぶ。
美味しそうなのも混ざってるな。
「イチジクって何に効くんだ?」
「果実は滋養強壮、痔に効く、葉は殺虫効果かしら」
ハウロン。
葉っぱはチーズ包んだりするから、桑の葉的あれだろうか。滋養強荘は果実って栄養豊かだから分かる、【鑑定】にも上がってくる。痔は微妙。
「他には心臓を冷やす薬、イチジクにアニス、黄土、蜂蜜なんかを入れて煮込むわ」
エスの薬のレシピ、途中まで美味しそうって思ってると、何でか土を入れたがるんだよね。
あと恋人たちの木だそうで、イチジクの木下でいちゃつく文化。
この世界の医療の基本は、血液、粘液、胆汁、黒胆汁の4つの体液。この四つには熱と冷、湿と乾という、2組の対立する性質がある。
このバランスが取れてるのが健康だそうだ。バランスは住んでいる地域や個人で違う。
だから肝が熱を持ってるとか、心臓の熱を冷やしてとるとか、ハウロンからでたような言葉が薬師から出る。
そして精霊の悪戯やら、魔法による呪いやらが診断に混じってくるので、中々ファンタジー。医者がわからないからそういう診断を下すこともあるけど、本当にあるから困る。
知らないとこで割と高いのは、ヘメアユ・テと呼ばれるヤツ。マメ科の特徴の丸い葉、細く長い実。
主に腹の不調に効く。下痢から腹にかけられた魔法を解くまでという広範囲。
レッツェもいくつかお買い上げ。カヌムで高く売れるヤツと、自分の冒険用に効果が高くてかさばらないヤツ。
「普通の冒険者らしく、いくつか買っとけ」
「うん。どの辺りが使う?」
レッツェに言われて切り傷擦り傷に効くヤツを取り敢えず手に取る。
「そのへんはカヌムで扱ってるヤツの方が安くて効く。こっちの熱病やら腹下し、あとは魔法系の症状を治すヤツ」
「魔法系はアタシが調合したげるわよ。二人とも戻して」
ハウロンが口を挟む。
「大賢者の魔法薬、効きそうだな」
なんか凄そう。
「普通よ」
ハウロンはそう言うが、絶対凄そう。
「お言葉に甘えて――いや、せっかくだし、こっちは他の奴らに譲るか」
いったん戻しかけたレッツェは、繋いどきたい顔が浮かんだのか、むしろ買い足した。
片っ端から【鑑定】して、効能を見て覚えた。覚えたというか、次に【鑑定】したら結果に詳しく出る筈。薬屋の解説が怪しいのは、ハウロンに確認!
昼はケバブみたいなやつで簡単に済ませた。暑いんで二人は食欲がないみたい。
一番暑い時間帯は宿屋に戻って昼寝。また夕方出かける。
俺は眠くないんで、遡ってエス川の生まれる場所を見に行こう。そういうわけでまた観光にゆくフリして宿を出て【転移】。
生まれる場所って呼ばれるの、源流の水の湧く場所かと思ってたけどどうやら違う。水が二つの渦を巻く場所があるらしい。
この辺は来たことがないけど、魔物は見たことがあるのでスルー。砂漠の真ん中だけど、エス川周辺は緑豊か。
お高いことを学習した薬草というか、野菜というか、香辛料を見かけたら採取。
エス川に生まれる精霊たちは、眷属の長であるエス川からあまり離れない。水や風の精霊はともかく、他は動くのは好きではないようで、精霊に名付けても地図の広がる範囲が狭い。
水も風も移動が下流方向とか、川から陸にとかなんで、広がって欲しい上流方向がイマイチ。
今日中に着けないかもしれないけど、地図を広げておけばそこから再開できるし、せっせと進む。
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