第371話 やることリストに追加

 ワニに気をつけつつ、休憩。


 反省会ではハウロンに、いくら訓練だからと言ってぎりぎりまで頑張らない、水を掘った時にもうそこで夕方まで休む選択もあったのだと言われた。


 そういえば水を掘る時、南側に砂を積み上げて日陰を作れと言われたような……。あれはあそこで夕方まで休んでろってことだったのかな?


 まあでも砂漠を行く訓練だと言われたら、歩いちゃうよな。


 で、今は本当に休憩中。水を飲んで、木陰で風に吹かれ、体温を下げながらごろごろ。砂漠はやっぱりきつかったようで、ディーン、クリス、レッツェは寝ている。


 ディノッソとシヴァはナツメヤシに寄りかかって、子供たちを膝に抱いている。大人二人は起きているが、子供たちは爆睡中。


 アッシュも木に半身を預けて目を閉じている。執事はその隣でさっき使った茶器の手入れ。


 俺とカーン、ハウロンでワニと魔物の警戒。カーンは目を閉じて置物のようだけど。


「ジーンの秘密は、ここにいる人たちにはオープンなの?」

「うん。積極的に話してるわけじゃないけど」

はっきりした話というか、相談をするのはカヌムの家のカードゲーム部屋で、レッツェ、ディノッソ、執事の三人へが多い。


「子供たちも?」

ナツメヤシの木陰で、シヴァとディノッソの膝にくっついて仮眠している子供たちに目をやるハウロン。


「ああ。家族でカヌムに来た時から、俺の移動の仕方がおかしいのは知ってるよ」

むしろそれ以前から? 子供らしい奔放さもあるのに聡いし、びっくりするくらいいい子供たち。姉弟仲もいいし、本当にいい家族。


「カヌムでは、ここにいる人たちで全部だよ」

「カヌム、では?」

聞き逃さないハウロン。


「商売を手伝ってもらってる人がいる。そっちは、秘密をバラさない契約をしてるよ」

「なるほど」

ハウロンが少し遠い目になる。


 そういえばハウロンとは誓文を交わしている。この中でハウロンだけ。


「ハウロンのこと、信頼してないわけじゃないぞ?」

「何の話よ」

「誓文」

「ああ、気にしてないわよ。あれはノートやレッツェが気をまわしたんでしょ、貴方はむしろバラしすぎだったわ」

む……。


「ジーンとの契約で、いったいどんな精霊が立ち会ったのかと思ったら、相手が気の毒になったのよ」

そういえばハウロンの時は、ルゥーディルが出て来たんだったな。


 金銀をはじめ、チェンジリングとの契約では、神々が律儀に立ち会ってくれている。


「商売って何してるの?」

「生活雑貨と美味しい野菜を広げることだな」

「思ったより地味ね。てっきり魔法陣や魔道具を売りに出してるのかと思ったわ」

最近、精霊灯は限定販売はじめました。生活雑貨、生活雑貨ですよ。


「どうした?」

ハウロンからすっと目をそらした先、カーンが目を開けて砂漠を眺めているのが視界に入った。


「この辺りも、夏が終われば今でも麦に覆われるのかと思ってな」

「ああ、氾濫後には麦を蒔くらしいな」


 カーンの見ている乾き、ひび割れている場所は、後数ヶ月で訪れる夏にエス川の氾濫で水に覆われる。その水が引いた肥沃な土地に大麦やエンマーと呼ばれる麦を植える。


 なお、ばら撒いた後にぬかるんだ土地に羊を投入して、蹄で踏ませて地中に種を埋めるという効率的なのか雑なのかよくわからない農法。脱穀も牛やロバに踏ませるという、踏ませるのが好きなエスの人々。


 そういえばカヌムや他で見た小麦もライ麦畑も、俺の想像と違って麦の穂が同じ方向に立っておらず、あっちこっち好きな方を向いて斜めに寝ている感じでびっくりした。


 あの麦の穂が綺麗に並んでなびく黄金の原は、たぶん品種改良で頑張った成果なんだなって。刈りやすいだろうしね。


 カーンが感じているのは、郷愁というやつだろうか。それともこれから作る国のことを思っているのだろうか。


 過去はどうしようもないけれど、先のことなら協力ができる。さしあたって、エス川の女神を探して、蛇行してもらえないものか聞いてみよう。


 今のエスの川辺に国を作ったら、利害や権利の主張がうるさそうだけど、国を作った後に、そこにエス川が蛇行して川辺になる分には、どこからも文句は言えないと思うんだよね。


 あ、でも川がないと国を作る物資の輸送が大変か。俺の島も、建材の輸送が大変だったし。なかなか難しいところだな。


 休憩を終えて川辺を移動。もうエスの町はすぐそこ、見えているので子供たちの足取りも軽い。


 とりあえず宿屋に入って、再び休憩。夕方涼しくなってくるまでは部屋の中でおとなしく。


「これ化粧水ね。肌がピリピリしてるようならつけない方がいいけど、そうじゃなかったらつけて。あと、これは桃のシロップ漬け」

四人に配給です。


「む、礼を言う」

お礼を言ってくるアッシュの額が、ちょっと赤くなってるのが気になった。色白だけど、日焼けしやすいというか、実は肌が弱いんだろうか?


「ふふ、ありがとう。桃のシロップ漬けは前に貰ったものよね?」

「うん」

シヴァに聞かれて頷く。美尻効果と美肌効果なあれです。


「あら、ありがと」

とりあえず女性カウントをしてみるハウロン。


「ジーン、ありがとう」

最後のティナはほっぺにチュウつき。

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