第370話 砂漠体験終了
砂漠を進む。外に出た途端、暑いと思っていた神殿は涼しい安息の地だったんだなと考えを改める。
「ジーンの格好が怪しすぎねぇ?」
「あらあら」
ディノッソの言葉に、俺を見たシヴァが片手を頬に当てて困ったように微笑む。
シヴァのローブの胸のあたりに小さくなった氷の精霊が顔を覗かせている。ベイリスがカヌムで小さかった様に、かんかん照りの昼の砂漠で氷の精霊は弱くなる。多分シヴァの魔力で養っている状態なのかな? でもローブの中は涼しくなってるんだと思う。
「砂が入らなくって快適だぞ」
手袋、膝下と足首でキュッと縛ったレッグカバー、同じくアームガード、ストールで平頭巾――忍者のあれだ――にして、フード付きローブ装備。あとはゴーグルが欲しいところ。
「中の格好はローブかぶっちまえば一緒だろうとは思うが、怪しいっちゃ怪しいな。だが、風が吹く前に俺も真似をする」
レッツェがそう言って、口から首にかけて巻きつけていた布を解いて、頭巾の仕方を聞いてくる。
フードの中まで砂が吹き込んで、髪がジャリジャリになる前に全員忍者になるべきだと思うぞ。
「あら、天候や気温で巻き方を変えた方がいいわよ?」
カーンとハウロンはターバンを一瞬で巻き直す。立派な砂漠の民と比べないでください。
ハウロンとカーンに教えてもらって色々学習する。掘ると水が出る場所がけっこうあることも初めて知った。時々掘って、頭に巻いた布を濡らして進む。
なお、 一番の無駄知識は小便をする時に、小便が風に乗らないように片膝をついて身を低くするので、後ろ姿が無駄に格好いいこと。
ベイリスが憑いているからか、王の枝と同化してるからなのか、カーンは灼熱の砂漠でも全く平気そう。火の精霊が憑いているディノッソも涼しい顔だし、火蜥蜴くんが憑いているディーンも、汗はかいているものの平気そう。
まあ、火蜥蜴くんが汗を舐めているのは絶賛見ないふりをしよう。カヌムにいる時よりなんかでかいし。
「頭が痛くなったり、気持ち悪くなったりしたら言うのよ?」
そしてハウロンも涼しい顔。
王様に歩かせて自分は絨毯に乗ってるっていうのはどうなんだ? あと、布を浮かせて、自分とカーンの上に影を作っている。
「布は絨毯と一緒?」
「そうよ。人を乗せるほどの力はないけれど、同じ魔法陣よ。普・通・は・描いたものの素材や大きさによって能力が左右されるのよ!」
「頑張りました」
「頑張ったって普通はできないの!」
ハウロンが無駄に力んでいる。
ぷりぷりしているハウロンが、俺の作った冷え冷えプレートをちゃっかり懐に入れていることを知っている。
「元気だなお前ら……」
「うむ」
懐に冷え冷えプレートを入れてなお汗だくのレッツェと、割と余裕なアッシュ。
アズがアッシュのローブの中で風を循環させてるっぽい? 執事は闇の精霊に何か頼んだのか、謎の執事のスキルなのか、汗もかかずに涼しい顔。
クリスが静かなので様子を窺うと、ちょっと辛そうだ。顎スキー精霊は健在だが、光の精霊はどうやら清潔というか、キラキラ担当? 無駄にクリスの汗が輝いてる。
体力的にまずそうなのは子供たち、レッツェ、クリスかな? 俺も暑いけど、やばくなったら【治癒】が自動でかかってしまうので……。暑いのは変わらないんだけどね!
魔物はカーンとディノッソ、時々ディーンが始末してくれている。最初は子供たちに砂の中を近づく魔物の気配や、対処の仕方を教えながら進んでいたのだが、今はそれはない。
「ティナ、肌を出すと火傷するぞ」
「ちょっと息が苦しい」
ぱたぱたと手で扇いで、一息ついたティナの布を巻き直す俺。
子供たちはもう歩くだけで精一杯。
「砂って踏ん張れない」
「歩くのに力が倍かかるみたいだね」
エンとバクが言い合う。
「さ、そろそろ終わりにしましょうか。これ以上は、二、三日寝込むコースだわ。砂漠の怖さはよくわかったでしょう? カヌムと違って、日差しも敵なのよ」
「おう。砂漠体験終了! 頑張ったな」
ディノッソがハウロンの言葉を受けて、手を叩いて子供たちに終了を宣言する。
「基本は涼しくなった夕方に出発して、夜に月や星を目印に歩くのがオススメよ。歩き慣れれば、形の変わらない砂丘の位置も覚えられるわ」
ハウロンの解説。
俺も知らなかったというか、今も見分けがつかないけど、ここの地面は平らではなくって、もともと丘になっているところに砂がある場所は、風に吹かれて造られる砂丘と違って動かない。
「涼みながら反省会をしようか。【転移】」
了承を取る前に、全員を転移させてエス川の川辺、ナツメヤシの木陰に出る。
「わ〜! 涼しい!」
「お水!」
「川!」
「ストップ、ワニがいるわよ」
ハウロンの言葉に子供たちが固まる。ついでに大人も数名固まる。
俺? 俺は固まらなかったよ? だって前回もうワニにばくっとやられかけたからね!
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