第368話 適任の説明者
「一度に言いなさいよ、一度に。王のことなら知っておきたいわ」
若干腰が引け気味ながらも断言するハウロン。
「その前にハウロン、今カーンってどういう状態だと認識してるか聞いていい?」
もしかしたら正しい認識をしつつも感傷に浸っているのかもしれない。
「第一に、この地から解放されている。それはきっとアナタがしてくれたことなのでしょう? 王としては最愛の精霊を手に掛けたのはせつなかったでしょうけれど。でも、私からもお礼を言うわ。最初の提示通り、望むのであれば魔道書、溜め込んだ財宝、秘技、全て譲る。今はアナタが欲しがるかどうかわからなくなったけれど」
後半、ハウロンがため息をつきながら言う。
「見せてもらえるだけでいいかな?」
今特に金には困っていない、魔道書も精霊図書館がある。だけど、ハウロンの持ち物は面白そうなので見てみたい。
「そして第二に――王は魔物化が進むことを意思の力で抑えてらっしゃる。長くは保たないかもしれないけれど、この砂の流れる朽ちた神殿から出て、空を眺められたのなら良かったわ。王は雲ひとつない空も、雨をもたらす雲のある空も、両方お好きだとおっしゃっていたから」
認識のズレがこの辺に! やたらカーンに向けて切ないムーブするのはそのせいか!
「王はもしかしたらすぐに意識を食われ、強大な魔物が生まれるかもしれない。その時はアタシが側にいてなんとかするわ」
低いが強い声で言い切るハウロン。
「勝手におかしな決意をするな」
憮然とした顔のカーン登場。
「おかえり」
ハウロンの中でカーンがまだ悲劇の王様なので、なんとかしてくれ。目で訴える俺。
「……」
ちょっとの間、視線が合う。
「……かつてハウロンの父が見せた光景を、お前たちにも見せよう」
カーンがため息をつき、王の椅子の隣にあるひび割れた水盆に触れる。
アイコンタクト失敗! 過去の光景は見てみたいが、今のオーダーは違う!
「王が魔法を?」
「魔法ではない。今の俺に使えるのは、もっと原初的なものだ」
ハウロンの問いに答えたカーンの手から、王の枝が芽吹くように広がる。
片手は黒、片手は白。
どこか金属質なヤドリギの繊細な枝が、水盆に延びて包みその姿を元に戻す。なみなみと水をたたえた丸い盆。台座ごと元の姿に戻ったその水盆から、水が空に溢れ、薄い膜を作り出す。
映し出されるのは、地上の都市のかつての賑わい。乾いた白っぽい街並みには噴水があちこちに作られ、背の高い椰子が葉を茂らせている。エス川が大きく弧を描き、宮殿の側をゆったりと流れる。
街は活気づき、人々は笑顔を浮かべる。地下神殿の真っ白な王の枝の前で、王と神官が執り行う静かな儀式。外で行われている騒がしい祭り――
「いつか我が民を集め、エス川のほとりに国を」
そう紡がれた言葉に、薄膜の水が揺れ映像が消えた。
中原に解き放ったら、世紀末覇王みたいになるんじゃないかと思っていたが、建国できればいいってものじゃなかった。そうだな、ここが故郷だもんな。
以前、ベイリスにそっと聞いたところによると、主神となった風の精霊とドラゴン、勇者の戦いが砂漠でもあった――というか、それで荒廃して砂漠が広がったそうだ。
点在していた都市や村々は焼け、あるいは建物ごと吹き飛ばされ、生き残った火の民は少ない。大部分はエスの国民になっているので、この場所で国を作るのは難易度高い。
だけど、確か転送円でこの神殿にはたまに戻っているはずだ。転送クリスタルとかいう消耗品を使うので、気軽にってわけじゃなさそうだけど。でも、カーンにハウロンがいれば【転移】もあるしなんとかしそうだな。
「王の枝……。片方が白いまま……?」
「狂い始めた王の枝は俺に憑き、一緒にゆっくり黒化していった。王の枝の本体を壊すしかないと思い定めておったが、ジーンは枝を白と黒に切り分け、契約し安定させた。俺の
カーンの腕の左右から、白いシャヒラと黒いシャヒラが姿を見せ俺に微笑み、そのままカーンを見上げて花が咲いたかのように満面の笑みを浮かべる。
ベイリスが上空背中からカーンの首に腕を回して、モテ男完成の図。
「ついでに言うなら、俺は王の枝本体とも同化している。契約者はジーンだ」
軽く言うカーン。
「……」
ずるずるとその場にうずくまるハウロン。
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