第353話 情報収集
「じゃあディーンの仕事が終わったら、エス観光なんだ」
「そそ。参加するだろ?」
カヌムの家、いつものカードゲーム部屋。
今は執事とレッツェがチェスに似たゲームをやっている。俺とディノッソもやっていたんだが、早々に終わった。なぜなら二人とも長考しないから。
話しながらおやつを食べている俺とディノッソ。紙袋に入れたポテトチップを、それぞれ抱えてばりばりと。ワインを時々飲みながら、盤面を見つめている二人とは対照的だ。
ディーンは最近姿を見ないと思ったら、真面目に仕事をしていたらしい。ここ二、三日は帰ってもいないようだ。
帰ってきたらバカンス! ということで娼館ではなく、カーンの里帰りというか、添乗員ハウロンでエスに観光に行く話に纏まったようだ。
「行く。あとシナモンが取れるとこ行きたい」
「どこだよ」
「それを知りたい」
「無茶言うな」
シナモンが取れるのは崖か、はたまたエス川の生まれる場所か――普通にシナモンの木だと思うけど。
「丈夫な綱も欲しいんだけど、やっぱり船の
「綱? 糸なら『女王の紡ぎ手』っつー、蜘蛛の魔物のが丈夫なんじゃねぇの?」
「どこに出るんだ?」
「
「暑くなったら考える」
寒いよ! 北!
「静寂の
執事が駒を一つ動かしながら会話に混ざる。
「流星錘?」
「重りを付けて振り回す武器だ。普通は鎖が多いが、静寂が付くと結ばれてるのは『イラガム』の吐く糸で出来た、鉄鎖より丈夫で音が出ない紐だな」
レッツェが盤面を渋い顔で見ながら言う。
「暗器にもお詳しい」
執事が声を立てずに笑う。
暗器なのかよ!
「猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液……」
そう言いながら駒を進めるレッツェ。
「何だ?」
「神々が北の民に作らせたという紐、ですか」
「ああ、地の民のことか? 女性にもヒゲあるもんな」
ほかの意味がわからないけど。
「いや、材料にされて無くなったモノのことだからな? 変な納得しないで!?」
「え! 大福は確かに足音立てないけど……。岩の根は大岩のこと、熊の腱は普通にあるし、錦鯉のやつらは餌やると肺呼吸しそうな勢いだし、鳥の唾液もあるよね?」
鳥は乾き物を食う種類は普通に唾液線あったはず。海鳥はあんまり発達してないんだっけ?
「ニシキ……?」
「カラフルな鯉がいるんだよ」
不思議そうなレッツェに答える俺。こっちの鯉って、鱗がでかくて不揃いなんで日本の鯉のイメージを持って見ると、ちょっと違和感がですね……。
「大体なんでそんなもん欲しがるんだ? 縛るのか?」
レッツェ、亀甲縛りはもう忘れてください。
レッツェとかディーンが、他の冒険者に縛り方教えているのを見かけると居たたまれない。
「リシュのおもちゃにしようかと思って。艫綱はすぐ壊れるんだよね」
「ぶっ!」
隣でディノッソが噴き出した。
げほげほと咳き込んだ拍子に盤面に手をつき、ゲームが台無しに。
「まあ、それは壊れるでしょうな……」
微妙な顔で微笑む執事。
「地の民に作れるか聞いてみて、ダメだったら黒山行ってみる。ありがとう」
礼をいう俺。
「いや、どっちもそんなに気軽に話したり行けたりしないからな?」
ディノッソが口元を押さえ、小さく咳払いをして喉をならしている。変なところにポテトが入ったのか?
地の民とは明日の昼間に宴会予定だし、寒がりで音痴な地の民なら常駐している。結局仕上げは半日ほど長引いた模様。
「そういえばレディローザっていう商売人知ってるか? なんかどっかで聞いたことある気がする名前なんだけど」
決して歌劇のヒロインの名ではなく。
「ローザ一味の資金調達担当、でございますかな?」
執事が逆に聞いてくる。
そういえばそんな人もいましたね。ローザが被ってたから聞いたことあるような気がしてたのか。
「資金調達担当なんかいるんだ?」
「冒険者パーティーの資金ではなく、自国の復興のための資金でございますな。大っぴらに集める者から目的を告げずに巧妙に取り入る者、何人か活動しているようでございますが、その中でレディローザは商業の島ナルアディードで活動するローザ嬢の妹と噂される人物ですな」
「幼い頃にローザの影武者やらされてた従姉妹って聞いたな」
執事とレッツェが解説してくれる。ああ、影武者だからローザの名前を使ってるのか?
「よくナルアディードなんて遠いところの情報集められるな?」
「情報だけだったら回るのは早いんだよ。どんな顔かは聞かれても分かんねぇけどな。離れてた方が安全に収集できるってのもある。間に人がたくさん噛んでる上に匿名でいけるからな」
「何でもねぇみたいに言ってるこいつら二人とも、奴らが勇者が絡みそうな目的持って、こっちに近づいてきた時点で、積極的に情報集めってっからな?」
ディノッソがバラす。
二人ともちょっと目をそらした!
「いやでも、集めて集まるのすごいと思う」
いやもう本当に。
おかげで助かった。明日の宴会前に、ソレイユに必要以上に近づくなって釘を刺しとこ。
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