第354話 自分でも集めてみる
「お疲れ様、思った以上にすごい! ありがとう」
本日は塔の完成祝い。
「おう! 島のソレイユ! お前が集めたあの素材の数々、我ら地の民も幸せぞ!」
「あれらを扱えて我ら地の民幸せぞ!」
「我ら地の民幸せぞ!」
ざわざわと騒がしく、それでいて綺麗に声が揃う。
場所は塔の倉庫。棚を片付けて、地の民があっという間に作った低めのテーブルが並ぶ。酒樽どん! 肉がどん! 地に生る野菜の丸焼きどん!
その他はちょっとごわっとする固めのパン。どっちも肉を食って、他の肉に移る前に口の中の味をリセットするために食べている気配。地の民は肉も固めが好き。あとは酒を浴びるほど飲む。
一応、普段はほかの物も食べているそうだ。ただ、宴会だとぱーっといくのが普通で、そのぱーっとが、酒と肉なだけだ。北の地では、魔の森ほど肉が手に入らない。
酒は聞いたら蒸留器持ってた。俺が薬を作った時に使った、あの蒸留器よりかなり立派で効率がいいものだ。地の民は道具に関して――精霊の力を使わない普通の道具に限るが、かなり洗練されている。丈夫で頑健なデザインを好むんで、ぱっと見は素朴な印象なんだけど。
見慣れない物を見つけると興味を持って構造を調べずにはいられない、みたいな職人集団だ。俺の『家』の椅子机に始まって家全体、見たらきっと退屈しないだろう。
あの『家』は俺のイメージと神々の知識を混ぜて、引っ張りあって出来上がった物。
もちろん原油から作り出したプラスチックとか、電気分解で作り出したアルミとか、この世界にないものはない。それを作り出すとたくさん寿命使うらしくって、トイレと風呂に留めた。後悔はしていない。
中世よりは、近世に片足突っ込んだマナーハウスくらいにはなっているので、きっと興味津々になるに違いない。誰も入れる気ないし、基本予備はないので道具類を外へ持ち出すつもりもない。
ベッドマットは作ったからヘタれても大丈夫になったけど、他も壊れては困る物がたくさんなので、今のうちに予備を作りたい気持ちはあるんだけど。
そんなことを思いつつ、地の民との飲み比べを受けて立っている俺。酔わないって言ってるんだが、どうしても酔わせたいらしい。いや、飲み勝ちたい?
肉を引きちぎり、野菜を口に放り込み、酒で流して、がははと笑う。粗野で荒々しくはあるんだが、なんというか酒以外をこぼさず食べているので、あまり汚い印象はない。
酒はこぼれるほどなみなみと注ぐし、木でできた杯を誰彼構わず掲げてぶつけ合ってるので、こぼしまくり。これはそういう文化なんだと思って諦めた。だが、骨を床に捨てるの止めろ。
まあ、そのために地の民が薄いシートを持ち込んで、敷いてるんだが。そのシートに二人ばかりの挑戦者を沈め、三人目と飲み比べ対決。周囲は盛り上がっているが、俺は勝敗が分かっているので盛り上がれない。
倒れる前に【治癒】で酔いが覚めるんだよ!
宴会の準備を始める前に立ち寄った、ナルアディードの風の精霊がやって来た。なんか海鳥の姿をした精霊を連れている。
今日の午前中は、ナルアディードでレディローザの情報を精霊たちから集め、新しくわかったことがあったら次に会った時に教えてくれとお願いしたり、情報を集めていることを内緒にしてとお願いしたり。
精霊たち曰く、レディローザは胸がある。女。西の海で海賊。海鳥の精霊と契約している。頻繁に精霊を働かせている。過剰労働。でも月に一回か二回程度飛ばされるだけ。商業ギルドで通信用の精霊を時々借りている。
商業ギルドで俺も借りてみた。増えるタイプの精霊で、片割れがほかの場所にいるのだそうだ。1回目にはあちら側の商業ギルド経由で相手に伝言を、伝言で足りない場合は待ち合わせて直接話す。
精霊が見えないと、机の上の魔法陣に向かって話す状態だ。魔法陣の上に精霊がちょこんっと乗ってるんだけど。
増えるタイプは口がきけない精霊が多くて、商業ギルドに居たのも話せなかった。ただ、その部屋にいた他の精霊に聞いたら、普通の商売の話っぽい。何か符牒が混じっているのかもしれないが、それはわからん。
とりあえず商業ギルドの精霊通信は、魔石と使用がセット価格で、魔力はほぼ使わなくてもいいことは分かった。使用料は高い。
ついでにリプア領の噂も拾ったのだが、私財を投げうつタイプの領主っぽい噂がちらほらと。精霊の感覚を通して聞いた話なんで、違っている部分もあるだろうけど、概ねソレイユたちが言っていた通りの人物像だ。
今回の飢饉はなんとか持ちこたえたようだが、また不作だったら今度は船を手放すことになるだろう。もちろんお人好しなだけでなく、打算も少し見え隠れしている。
『どうした?』
三人目を沈め、四人目と俺の杯に酒が注がれるのを見ながら、精霊に話しかける。
もしかしてその海鳥、レディローザのとこのじゃないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます