第350話 真実は

 『家』の手入れでできることをやった翌日は、森の家でリシュとだらだら。久しぶりに魔力切れに近いことになった上、その後もよく働いたと思う。


 食事は骨つきの鳥もも肉をどーんのスープカレー。焼いたパプリカ、アスパラガス、茄子、この辺は大きめに切って見栄えがいいように盛り付け。揚げたレンコンスライスを飾って完成。


 スープカレーはスパイスを利かせて少し辛め。鳥もも肉はスプーンで崩せるほど柔らかい。


 サラダは茹で卵とアボカドを塩とレモン汁少々、マヨネーズで和えた、辛くてぴりぴりする舌に優しい味。アボカドは洋ナシ型より丸いほうが寒暖差のある場所で作られ、甘みがあるそうだ。


 じんわり汗をかきつつスープカレーを食べ、寝室の窓を開けて少し冷たい空気にあたりつつ、シーツにくるまってごろごろする。リシュは隣でエクス棒をがじがじ。


 そんなふうに昨日はだらだらし尽くし、今日は島の塔の確認に来た。


 ルゥーディルがテラスに面した、居間のまん真ん中に設置した冷気プレートは、そのうち移動しようと思っている。リシュが気に入ったようなので、撤去するにはしのびないので、なるべく屋内で俺が寒くないところ。


 ――どこに設置しても無理な気がする。家の中にいるのは俺よりリシュの方が長いし、なるべくリシュが快適な方がいい。


 どうしようかな、幸い冷気は上に吹き上がるし、暖炉みたいな構造を作ってそこに設置しようかな? 


 いや、その前に冷えるだけにして、吹き上げ送風機能を解除してもらいたい俺がいる。まあ、下からの風にあたるリシュは加湿器とか空気清浄機の上に乗ってる猫みたいになってて可愛いんだけど。


 塔の一階倉庫に入ると酒臭い。今はすでにほかの階に作業に出ているので誰もいないが、この倉庫が地の民たちが寝泊まりする場所になっている。


 とりあえず扉を大きく開けて、風の精霊に適当に自由に出入りしてもらって、換気する。空の酒樽は回収して、新しい樽を設置。


 床には板が敷いてある。これは地の民が敷いたもの、どうも飲み食いするときに下にこぼす癖というか、そういう文化らしく、住処でも敷いてあり年に一度か二度、取り替えるのだそうだ。


 内装をいじっている場所については、靴も履き替える念の入れようなのに、不思議な文化だ。まあ地の民に限らず、こっちの人はゴミを床に捨てる。ナッツを剥いたらそのまま殻は床へ、みたいな。家の掃除もゴミを路地にぶちまけて終わりとかだし。


 この島では禁止です。ゴミ箱設置したし、ポイ捨てしたら罰金だとも。


 地の民の食事は1日2回、朝と夜。夜はたっぷりの酒で肉を流し込む。朝は小麦粉と塩をラードで練ったものを焼いたやつと、豆の煮込み、チーズ少々で済ませ、他のものはあまり食べないようだ。


 野菜を食えと言いたくなるが、民族とか種族で必要な栄養が違うかもしれないので放ってある。実際、その辺の人より頑健で長生きだからね。


 軽く片付けと、足りなそうなものの補充をして完了。塔の各階を見て回る。


 玄関ホールはゴージャスな感じ。派手ではないのだが、階段に日が差すように改良され、第一印象が明るく煌びやか。


 ダイニングは重厚だが使いやすく工夫されている。さすがに水周りは大きく変えられなかったのか、大きな変更はない。ここは作業を終えているのか、人がいない。上から歌声が聞こえてくるので静かではないけど。


 なんか鍋釜スキレットとか、俺が一式頼んだやつの改良版が並んでるのだが。すげえ、アルミホイルも作ってくれないかな?


 他は一ミリのズレも許さん! みたいな作業中なので遠慮。陽気に歌って、応援してと、声もでかいし、とても繊細な作業をしているようには見えないんだが。


 この島にいる寒がりの地の民のワシクは、混ざりたくないそうだ。何故なら音痴だから。地の民はすぐ輪唱みたいなことを始めるが、どうしても乱してしまい居た堪れなくなるらしい。


 手伝いに来た精霊も機嫌を損ねて消えてしまうのだが、何故か金細工師のアウスタニスとの怒鳴り合いで精霊が寄ってくることが判明、いきなり腕を上げ、今まで上手くいかなかった造形もできるようになったそうだ。


 ならばと現在ファスナーを作ってみてくれと駄目元でお願いしてみた。きっと今日も怒鳴りあいながら二人で試行錯誤しているはず。


 さて、あまりうろうろしても邪魔になる。ソレイユに収支を聞いたり、不足している物を聞こう。


「我が君」

ようやく働く気になって本館に向かうと、入り口にアウロ。


「島に問題はあるか?」

「数日前に精霊界が原因と思われる地震がございましたが、島に大きな影響はございません。ソレイユ様が卒倒しかけ、手続きに来ていた宿屋の亭主が悲鳴を上げてキールに抱きついたくらいです」

 

 宿屋の親父って筋骨隆々、髭面で引き結んだ口の強面じゃなかったっけ……? まあいいか。気にしないことにしよう。


「ああ。影響がないなら良かった。どこの精霊がやらかしたのか知らんが迷惑な話だな」

「だいぶ広範囲に揺れたようで、場所の特定は難しいですが、神クラスの精霊が複数関わっている可能性があります。関わった精霊によっては、今後の気候などへの影響が心配ではあります」


 爆心地って『家』のあるタリア半島だよな? アウロが分からないことを特定するとは、生まれたばかりの精霊にしてはかなり優秀な気がする。執事と同じ容姿のせいか、それともアウロはチェンジリングで精霊界への馴染みが薄いのか。


 いや、待て。複数の神々……? 爆心地?


「どうかされましたか?」

「いや、うん。迷惑な精霊ですよね……」

神々が視線を合わせてくれなかった理由がわかった気がして、俺もアウロから視線をそらす。

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