第349話 神々の手伝い

 カヌムでの夕食は不参加で、リシュを抱き『家』に帰る。とりあえず見た感じ壊れていない。


「建物は先に修繕させていただきました」

タイに付いている魔石は茶色、地属性のノートか。


「ありがとう、『食料庫』も?」

「無事でございます」

よかった、建物と『食料庫』が無事ならなんとかなる。


「働かせておいて悪いが、ちょっと怠いんで風呂入って寝る」

そう告げると、地属性のノートは胸に手を当てる会釈をして消える。


 基本的にノート達はメモ帳の管理で出てくるだけで、他では姿を見ない。今回はこの『家』の精霊の取りまとめ的な感じで出てきたのだろうか。


 まあいい、寝よう。風呂は朝でいいや。


 顔を洗っただけで、ベッドに潜り込む。隣の籠のリシュが指先に鼻を押し当てて、おやすみなさいの挨拶。


 そして翌日。


 果樹園では枝が折れ、畑では野菜が萎れていた。特に『食料庫』から出した方に影響が顕著。


「こちらは通常の植物の成長の過程を経ている分、修復が難かしゅうございます」

いつの間にか斜め後ろに現れた地属性の――じゃない、緑だから植物属性系か。


「ああ。こっちは気長にやるよ」

幸いまだギリギリ木の剪定を行う季節。


 折れてしまっている枝を切り落としていると、カダルが現れる。交配用に植えていた、こっちのオレンジや桃などの果樹が枝を伸ばし始めた。


「ありがとう」

お礼を言ったら無言で目をそらされてしまった。照れているのか、それとも本来は司ってる秩序的にあんまり手出ししてはいけないことだったのか。


 『食料庫』のものから育てた植物には、新たに精霊が生まれない。それに気にして遊びにくる精霊はいても、宿る精霊はいなかった。まあ、元々俺の寿命と引き換えに作り出されたものだしな、ある意味自然のものではないのでしょうがない。『成長の粉』を使うのは勿体無いし、自力でなんとかしよう。


 果樹園の枝の手入れを終わらせて、畑に行くとパルがいた。大地と実りの精霊なので効果がすごい。こちらの野菜は昨日よりむしろぱつっとして瑞々しく、美しくなっている。


 こちらも被害に同情してくれたのか、いつもより大々的に手を貸してくれている。――そして目をそらされる。


 イシュ、ハラルファ、ミシュトにも会ったがなぜか挨拶すると目を逸らすか別な場所の回復を始める。


 何だ? やっぱり本当はここまで手を貸すのは不味くて、「居なかったこと」にしたいとかか?


 疑問に思いながら、せっせとダメな枝を切り落とし、野菜を引っこ抜く。リシュがいつになく真似をして、隣で同じ野菜を引っ張っている。お手伝いかな? 賢い、賢い。


 切り落とした枝は焚き付けにするから、適当にまとめて乾かす。痛んだ野菜は家畜小屋へ持ってゆき、家畜に食べてもらう。


 おやつ的な感じなのか、普通の餌より人気。特にブロッコリーの芯とか、鶏が群がっている。なかなか力強い突きで怖かったりもする。


 俺も休憩して昼にする。日当たりのいい場所に座り込み、リシュ用の水を出して自分の食事を出す。リシュの水は水路がその辺にもあるけど、気分的にだ。


 おにぎり、ウィンナー、卵焼き。ベタなメニューだが、美味しい。ちょっとリシュと戯れながら休憩して、あとは傷んだ枝に病気予防の薬を塗ったりかな? この山の結界内なら植物につく病気やウィルスも気にしなくていいはずだけど、壊れることが分かったので念のため。


「まあこんなものか」

神々に手伝ってもらったのでだいぶ早く終えられた。


 もう夕方だし、島の大地の民に差し入れでも持ってくか。夜目が利くらしいが、食事休憩は取るだろう。差し入れに酒と肉は確定だな。


 一旦、家に戻るとルゥーディルがいた。テラスから続く居間の床に何か描いている。座り込んで描いているわけではなく、立ったまま指先から魔力を床に垂らしている感じ。


「どうした?」

「リシュ様に」


 えー……。それだけ言い残して消えられても困るんですが……。それにとうとうリシュに「様」つけ始めたぞ?


 床を見ると、タイルの一枚に見覚えがあるような無いような魔法陣。しかも魔石――いや、精霊の力を分けた雫が嵌っている。


 リシュがその上に乗ると、描かれた模様が淡く光って冷気がぶわっと。あれか、冷え冷えプレートの強化版か! 暑がりなリシュのために夏に向けてってことか?


 だが俺が寒いんですけど!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る