第346話 エクス棒についての確認

 俺は小さな胡瓜のピクルスを入れたタルタルソースをたっぷりかけたフィッシュバーガーをもぐっと。


 うん、エクス棒みたいに綺麗に丸くかじり取れないな。食べている時の仕組みが謎すぎる。あと他の精霊とかより好き嫌いがないのだが、好きなものがジャンクなせいでエクス棒の健康を心配している俺がいる。


 塩を飲み始めるイシュよりは遥かに健康的だけど、どれと比べればいいんだ。


「相変わらず美味いな」

「全部出来立てなのは気にしないことにするよ!」

ディノッソとクリス。


 まあ、熱々だしな。バレない方がおかしい。料理については、他人の目を欺く体裁を整えていれば特に注意はされない。


 さらに浮いてる絨毯に乗ってる人がいるからいいだろうとジャッジしたのか、俺も座布団に乗せられてちょっと浮いている。レッツェとクリスからは空気椅子に見えてるんじゃなかろうか。


 とりあえずハウロンがいれば、俺が何をやっていてもいい訳はつく気がするので平和だ。


「出来立てがいいんだぜ! 特にこのイモ!」

がぼっとフライドポテトを食べるエクス棒。


「本当に、どうやって食べてるのかしら? 絶対、胃どころか体の二倍は食べてるわよね?」

「一つ気になってることがあるんだが――」

エクス棒を見る俺。


「なあに?」

ハウロンが水煙草をふかしながら目を細める。


「エクス棒の体ってのはどこからどこまでだ?」

「ぶっ!」

ディノッソが吹き出すが、幸い空気のみで抑えたようだ。


「いや、精霊の体ってこの棒にくっついてる部分まで? 棒も体の一部?」

棒が本体なのはわかっているが、精霊としての体ってどこまでだ?


「棒が本体で、人型の部分は精霊体ねぇ。棒の部分は物質と精霊体が融合してるのね、年を経るとだんだん分離して物質と重なった状態の精霊体になるはずよ。そうなったら短い時間だけれど、本体から離れて活動できるようになるわね」


「なるほど」

そういえばアッシュに腕輪を渡した時も、精霊が腕輪から離れてて驚かれたんだった。エクス棒の本体については、なんとなく思っていたもので合ってた。


「なにか本体を持つ精霊は人に見えたり、強い精霊が多いわ。でも同時に、本体を損なわれると自分を保っていられなくなるの。扱いには気をつけなさい」


「……すでにシヴァ様が斬りつけた後にございます。精霊剣で」

皆んなに食後のお茶を配っていた執事が、後ろを向いて言う。


「あれは心臓に悪かった……」

ディノッソが顔を逸らす。


「……。王の枝は願いと理想が叶えられている間は、何者にも壊せないほど強固なんだったわね……」

ハウロンが一度息を飲み込んで、吐き出すように言う。


「おう! 今日も赤トカゲいっぱい捕まえて、充実してるぜぇ!」

エクス棒がケタケタと笑う。


「そう、良かったわね……。だからってもうちょっと使い方考えて!!!! お願いだから!!!!」

泣きそうだったハウロンが突然キレる。


「諦めろ、そもそもエクス棒はそう望まれた枝だ。王の枝の機能がオマケなんだから」

レッツェがお茶を飲みながら言い放つ。


「ううう。王の枝、王の枝がぁ」

絨毯の上で横倒しに身をよじって泣くハウロン。筋骨たくましい爺さんがしくしく泣いている。


「ハウロンは王の枝に夢を見過ぎだと思う」

「いや、普通は夢見るし、夢を見せるだけの力を持ってるからな?」

今度は俺の方にレッツェの否定が入る。


「ジーン、人は誰しも一度は王の枝を自分が手にすることを夢にみるものだよ! 子供のおぼろな夢想から、冒険者の願いまで本気度はそれぞれだけどね!」

クリスが熱弁。


「わははは! 照れるぜぇ! だから食ったし寝る!」

そう言って姿を消すエクス棒。消すっていっても、先端にぽこんと出ていた人型の部分のことで、手の中に棒はあるけど。


「気を取り直してだな、ジーンが聞きたいことってそれだったのか?」

ディノッソが手に持ったかじりかけのチキンを軽く振りながら、話題を元に戻す。


「ああ。それも気になったけど、魔力を抑えたり隠蔽したりする方法があったら教えて欲しい」

「あるわよ。それにアナタ、初対面の時は話すまで完璧に消してたじゃない」

あっさりあると告げて、俺に向けて首をかしげる。


「それは丸っと俺が認識されないだけで、俺が何かしてたわけじゃないから」

「意味が分からないわよ。それも大地と静寂のルゥーディルの守護効果なのかしら?」

「まあそんな感じ」


 外野から「また随分とおはしょりになりました」「相変わらず雑な説明だな」とか「間違ってはねぇけどな」とか「理解するのが大変なのだよ」とか声が漏れるたび、ハウロンの顔に出る憂が濃くなる。


 気のせい、気のせいです!


「分かったわ。できたらでいいから、アナタの使役できる一番強い精霊を見せてもらえるかしら?」

ハウロンがため息とともに聞いてきた。


「一番……」


 我こそは一番という精霊さん、カモン!

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