第345話 謎が解ける

 しばらくすると執事が帰ってきた。


 赤トカゲの捕獲で時間を使っていたし、執事もそう差がなく戻ると思っていたので、俺たちはダンゴムシ探しをやめて焚き火を囲んでお茶をしつつ待っていた。


「アナタにしては、随分時間がかかったわね」

地面すれすれに浮かんでいる絨毯に寝そべり、水煙草の吸い口をつまんでいるハウロン。


 隣にはげっそりした表情のディノッソ。俺たちが釈放された後に何があったのか……。気になるけど、聞くと巻き添えを食いそうなので聞かない方向。


「前回と様子が違うようです。普通のダンゴムシはすぐ見つかるのですが、魔物の方はどうにも手が届かない岩の割れ目や、木の根の奥に逃げ込んでいて、無理に手を出せば潰してしまいそうな――安全に取り出せる個体を見つけるまで、少々かかりました」


 微笑を浮かべてハウロンと話す。執事はディノッソと目を合わせない! 見捨てて逃げた自覚があるんだな。


「ああ……。アタシがいるから、逃げたのかもしれないわね。天敵として魔力を覚えられるくらいには潰しているもの」

気だるげにハウロンが言う。


「魔力……」

「魔力も個々で違いがあるでしょ。そうじゃなければ精霊が好き嫌いしないわ」

俺のつぶやきを拾って、ハウロンが補足してくれる。


 そう言えば迷宮で会ったネフェル、眼鏡の魔力をやたら美味しそうにがぶがぶしてたな。味か、味があるのか。


「わははは! ご主人の魔力は心地いいんだぜ!」

魔力は口からだけじゃなく、毛穴からも吸ってる説。いや、精霊は普通に吸収か。吸ってるも吸収も同じだな、やはり毛穴か。


「それにしてもノートがダンゴムシに呼びかけができないってことは、ダンゴムシとの交渉はジーンかしら? レッツェは説明にわざと名前を出さなかったんだろうけれど」

面倒そうに言うハウロン。


「私たちがダンゴムシを探しに行った時点で、ハウロン殿に害意がないことはわかっているよ! でも、ダンゴムシって呼べるのかい?」

クリスが聞く。


 あ。もしかしてダンゴムシが人間を積極的に襲わない説明をした時って、まだハウロンが攻撃に回らないか警戒してたのか。そして気付いていなかったのが俺だけの予感!


「そりゃあ、たった一つの約束だとしても契約の類になるもの。精霊も精霊が憑いた魔物でも、そばにいるなら契約相手の魔力はわかるし、呼びかければ出てくるでしょ。出てくる理由が友好的なのか、契約を破棄させようとするためかは分からないけど」


「そうなのかい?」

「俺に聞かないでくれ。やってみようとしたことがない」

こっちを見てくるクリスに答える。石をひっくり返したりつついたりする主義です。


「呼びかけに応えて姿を見せるだけで、少し魔力を奪うことができるから普通は姿を見せるわね。眠りについているとか、何かに怯えているとか、そもそも魔力の及ぶ範囲が精霊に届いていないなんてことで出てこないこともあるけど」

ハウロンが説明してくれる。


「あ」

「どうした?」

「いや、何でもない。全く関係ないことで思い当たったことがあっただけだ」

レッツェに答える俺。


 あれだ、アウロセンサーこれか。契約してるから俺が島に行くとバレるんだな、さては? 魔力隠さないといけないのか。


「聞きたいことができたけど、ダンゴムシ可哀想だから先に覚えてもらおうか」

考えを戻して俺がそう言うと、執事が紐で口が結ばれた袋を差し出してきた。魔力の隠蔽方法とか、魔法の他にも聞きたいことが発生中。


「『ダンゴムシ、これから覚えてもらうハウロンは、今まで敵対してたかもしれないけど、これからは故意にダンゴムシ潰したりしないから、休戦協定ってことで頼む』」

とりあえず先に言い聞かせる。


「魔法言語で流暢に話されると困るんだけれど……。聞きたいことが山のようよ」

ハウロンがため息をつく。


「俺だけ聞きまくるってのもなんだから、全部は無理だと思うけど答えられるのは答えるぞ。はい、手を出して」

「ええ、お願い」


 手を出すハウロンが採血とか注射の時に目を背ける人になってるんだが。まあ、敵だと思ってたら油断なく目を離さないだろうし、これも歩み寄りか。


「バルモア、ダンゴムシが変な動きをしたら、脳に到達する前に私の腕ごと切り落とすのよ?」

「おう」


 歩み寄ってなかった!!!


 ダンゴムシにハウロンを覚えてもらうことは、腕を切り落とす騒ぎが起きることもなく粛々と終了。ダンゴムシが覚えたのは匂いなんだろうか、魔力なんだろうか。


「お疲れさん」

ダンゴムシに少し魔力を渡して森に帰す。


 あっという間に石の下に潜るダンゴムシ。その石、ひっくり返したい。


「よし、昼にしようか」


 バスケットを開けて、酒とコップを執事に託し、料理を広げる。本日はエクス棒が一緒なので、ハンバーガーとフライドチキン、フライドポテト――これはズルをして【収納】から揚げたてを。


「好きなのとってくれ。エクス棒、どれがいい?」

「目玉焼きの!」


 エクス棒が選んだのは、パティとチーズ、レタス、トマトの基本にベーコンと目玉焼きを挟んだもの。


「このかぶりつくのがいいんだよな!」

そう言ってがぶっと大きく一口。ハンバーガーに綺麗に口の跡。


 歯型ではなくって口の跡、空間を切り取るかなにかして口の中に収めてるんだろうか? ちっちゃい口で、どうやって体と同じくらいのバーガーを食えるのか不思議だ。


「……。王の枝って食事するのね……」

「ええ……」

どこかせつなそうなハウロンと執事。


 いつも暖炉の傍で酒飲んでる枝がいるだろうに。

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