第344話 目的が変わることもある

「ダンゴムシの王に会ったらどうする?」

「潰すわよ」

ディノッソの言葉に迷いなく答えるハウロン。


「ダンゴムシに何か個人的な恨みでも?」

レッツェの背中から様子を窺いながら問いかける俺。


「気づかれることなく、一体いくつの辺境の村が潰されたか。過去には人に寄生して、一国を支配したこともあるわ。潰しても潰してもいつの間にか増える、王を潰せば多少は違うんでしょうけれど」

ギリギリと歯を鳴らしそうな顔で握った拳を見ているハウロン。


「――何を見てるのよ?」

「いや、ダンゴムシへの熱い思いがあるんだなーと」

ちょっと今までになくダンゴムシへの憎しみの炎が。


「どうしよう?」

「なんか話し合いの前に殲滅一択っぽいな」

「長く生きますと考えが凝り固まりますからな」

相談する俺に答えるディノッソと執事。


「どうするも何も普通に事情を話しゃいいだろ。ハウロンも根絶やしが難しいことには気づいてるんだし。あと俺は物理的な盾としちゃ、全く役に立たないからな?」

レッツェが呆れたかんじ。


 ここが安全地帯なんです。


「どういうこと?」

「今、ダンゴムシの魔物は人を積極的に襲うことはしない。ただ、攻撃したり刺激を与えると襲ってくる。不用意に石をひっくり返しちまった場合とかに反撃食らわないように、面通しすんのが今回の主旨なんだよ」

レッツェが説明してくれる。


「は?」

「大丈夫、見慣れれば結構可愛いよ! コツは細部までは見ないことだね!」

口を開けたままのハウロンに、いい笑顔のクリス。


 ――レッツェ以外が正座させられました。執事はダンゴムシを探しておきます、と言い残して姿を消しました。逃げた!!!!


「何で先に説明しないの!」

本当にダンゴムシに操られていないか耳を覗かれ、説教を食らう。そういえば耳かきがちょっと欲しい。


「絶対その方がおも……説明が長くなるだろうが」

ディノッソが言う。


「百聞は一見にしかずなのだよ!」

「執事が探し出す前に探したい」


 じろりと俺たちを見るハウロン。


「ジーンはいつもこうなの?」

「まあ、だいたいこうだな」

レッツェの答えに額を抑えるハウロン。


「ちゃんと身内のこたぁ考えてくれてはいるが、興味の主点がずれてるからおかしなことになる。振り回されるのは受け手側のこっちの考えが、そう言うもんだと固定してるからなところもあるんだろ」

肩をすくめてレッツェが言う。


「はあ〜。ジーンとクリスは行って。ソワソワされると落ち着かないし、ダンゴムシは苦手だけど頑張るわ。アタシの為なのは理解したわ、ごめんなさい」

大きなため息をついて言うハウロン。


「おう! さっさと探そうぜ」

「バルモア、アンタは待ちなさい! 絶対、アタシの反応わかっててわざと黙ってたわよね!?」

立ち上がりかけたところでハウロンにとっ捕まったディノッソ。


 ディノッソ、あなたの犠牲は忘れない!


 野太い悲鳴を背に、木々の間に分け入る俺たち。雨が少ない場所だけど、森のちょっと奥に入るといい具合に湿気がある。


 いつも熊を狩る場所の明るい印象と違って、よじれねじれた木の根が地面から顔を出し、黒に近い緑の葉は空を覆って光を遮り昼間なのに暗い。枝にはコケが長く老人のヒゲのように垂れている。


「大賢者様にお説教を受けるとは貴重な経験だったよ! この石なんてどうかね?」

「その辺はノートが探した後だ、動かした跡がある。この方向からずれよう」

剣の先でクリスが石をひっくり返すのを見て、レッツェが言う。


 ハウロン以外はもう覚えて貰っているから、ひっくり返してびっくりさせても平気。


「わはははは! 出番だな!!」

俺はエクス棒で石をひっくり返す。


「あ、赤トカゲ」

コスっとエクス棒の先で押さえて、素早く袋に放り込む。


「草も焚いてねぇのに珍しいな。この辺で繁殖して増えてるのかね」

「赤毒隠れトカゲかい? 駆け出しのころ捕まえられなくって苦労したよ。ぬるっとしてつかめないんだよね。確か、ギルドに募集が出ていなかったかい?」

後半はレッツェに向けて。


「そう言えば、今朝見たら依頼料が上がってたな。エリチカで熱かぶれが流行ってるって話だ」

レッツェがクリスに答える。


「熱かぶれ?」

確かエリチカは岩塩坑がある国で、中原の戦争してる地域のきわにあるような国だ。


「赤い湿疹が出て、しばらくすると掻いてもいないのにかぶれたようにジュクジュクしてくる熱が続く病気だな。赤湿疹とか赤かぶれとかも言われる。感染うつるし厄介だが、赤トカゲの粘液から作る薬ですぐ治るんだよ」

「問題は赤トカゲが捕まえ辛い上に、手間の割に依頼料が安いってことさ」


「じゃあ、ダンゴムシはノートに任せて捕まえてこうか」

「ま、ちょうど草もあるみてぇだしな」

周囲を見回してレッツェが言う。


 レッツェの視線を追ってよく見ると、赤トカゲを誘き寄せるための草が生えている。雑草意識だったけど、ちゃんと観察して何の草か判別しながら森歩きするべきなんだろうなこれ。食える草しか見てなかった!


 俺は今回たくさん獲るためにズルして【探索】使用、エクス棒が大活躍。かゆいの嫌だし、小さい子の方が感染りやすいんだって。


 しばらくコスッとする作業を続け、草で寄せられなくなったところで戻る。【探索】にはかかるけど、根絶やしは良くない。


「きゃあああああっ! なんて量を連れてくるのよ!? そんなにいなきゃダメなのッ!? さすがに泣くわよ!!!!」

戻ったら、袋の中身をダンゴムシだと勘違いしたハウロンに盛大な悲鳴を上げられた。

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