第343話 ダンゴムシ再び
「お弁当よし、エクス棒よし、一応採取用の袋よし!」
机の上に並べた荷物を確認。
今日はつついてよしの日なので、いつもより気合が入る。リシュの散歩直後に地の民の送迎したりして、朝の眠気が飛んでるせいもあるけど。
結局昨日は地の民の何人かは泊まりで作業してたし、北の大地に戻った奴らも家に帰るというか、不足したものを取りに帰るとかだったが。そういうわけで、地の民は完成するまで塔に泊り込むそうです。
ああ、『精霊の枝』だけじゃなく、俺の塔も夜にうるさいって言われそう。
「元気ねぇ……」
出発前から疲れてそうなハウロン。
「行く先は魔の森なんだがな」
「浮ついているように見えて、今や私やディーンより移動中の行動は慎重なのだよ」
ディノッソの呟きに返すクリス。
「……」
「……」
黙るディノッソと、珍しく視線を泳がせる執事。
「戦い方、今から教えて間に合うだろうか……」
「……おそらく手遅れにございます」
目を合わせないまま会話をする二人。
「レッツェにできて何でアンタたちにできなかったか問い詰めたいとこだけど、アタシも魔法関係を矯正できる自信ないわ……」
ハウロンが会話に参加、何かの反省大会をしている。
本日のメンバーは主役のハウロン、ディノッソ、執事、クリス、レッツェ。レッツェが少し遅れているが、ギルドから呼び出しがあって、朝のうちに顔を出しに行ったのだそうだ。
なおディーンは真面目に仕事をしている模様。
アッシュも誘おうとしたら、いい笑顔のシヴァと少しぷんぷんしたティナから、ダンゴムシに女の子を誘うなと教育的指導が来て、誘い損ねた。
アッシュが嫌いなのはナメクジっぽいんで、ダンゴムシなら――いや、ひっくり返した石にナメクジがいる確率も高いしやっぱりやめて正解か。
「おう、すまねぇ」
遅れる予告があった割に、五分と待たずレッツェが来る。
もともとこの世界では一般人が時計を持っているわけもなく、教会や領主が持つ塔から流れてくる鐘の音だよりの大雑把な時間感覚。五分は遅れたうちに入らないと思う。電車が行ってしまうわけでもないし、問題ない。
そして森に出発。
ハウロンの【転移】――に、かこつけて、俺の【転移】で。
「おお! 一瞬で森に来てしまうとは……っ! これがおとぎ話にまでなった大魔導士殿の術なのだね!」
クリスがキラキラしながら、ハウロンを讃える。
これはあれです、ハウロンが側にいれば俺は何をやってもいいのではないだろうか……?
「また妙なことを考えてる顔になってるぞ?」
「この猫が何もないとこ見てるみたいな顔の時が危ないのね?」
レッツェにハウロンが確認を入れている!
「変なことを伝授するのやめてください」
「伝授するほどのことでもないだろうが。顔に出すぎだ」
出てない、出てないぞ。
「騎士さんも、今の【転移】はアタシじゃないわよ。でもそんなに褒めてくれるなら、そうねぇ、バカンスがてらエスに連れてってあげるわ」
ハウロンがクリスに向かってウィンク一つ。
「おお、ヤシと太陽の国エス! 行ったことがないけれど、国の守護精霊の本質と言われるエス川は雄大で美しいと聞くよ!」
満面の笑顔のクリス。
「今のハウロンの言葉で気づかれたでしょうに、踏み込んで来ないのがクリス様らしいですな」
執事が俺に小声で言う。
うん。普段は暑っ苦しいくらいフレンドリーだけど、人が隠していることや、人の心の柔らかいとこにいきなり切り込んで来たりはしない。それでいてそれがあることには気づいていて、いざという時は手助けできる位置にいる。
第一印象でドン引きしてたのが申し訳なくなる。
「ま、やることやっちまおう」
ディノッソが言う。
「そういえば今日の趣旨は結局何なのかしら? はっきり教えて貰ってないんだけれど」
一斉に目を逸らす面々。
「今日のメインはダンゴムシ探しだ」
「は?」
「ダンゴムシ探しです」
固まるハウロン。
「よし、各自手分けして見つけたらジーンに」
「了解したよ!」
仕切るディノッソに答えるクリス。
「ちょっ! 流さないでよ! 何なのよ、正気!?」
ディノッソの服を鷲掴んで物理で止めるハウロン。
「大切なことなのでございます」
微笑んでことさらゆっくり会釈する執事。
「そうだとも、私もダンゴムシとの交流で心の安寧を得たのだよ!」
ぱああああっと効果がつきそうなクリス。
「何の宗教よ!?」
「至極真っ当な反応だな……」
叫ぶハウロンにレッツェ。
「ハウロン、一度は経験することなんだ」
ハウロンの両肩に手を乗せて言うディノッソ。
「ダンゴムシなら突いたことあるわよ! 百と二十余年も前になるけどね! ついでにエスにいた頃、殲滅し損ねたこともあるわよ!!」
ハウロン、長生き!? って殲滅!?
シヴァより物騒な気配!
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