第340話 今後のこと
「私はいつ死んでもおかしくない老骨、オルランドには全てを伝えましたが――」
「自分には、魔力がほとんどありません。人の助けを得ても最初の円を描き切ることさえ難しいでしょう」
お爺さんの説明をオルランド君が続けながら、ソレイユを招き入れる。
後ろにはキールがいる、何か用があるのかな?
「才ある子供に魔法陣を教えつつ、この『精霊の枝』を管理する者を育てられればと。ニイ様さえよろしければ、オルランドが次代として、三代後にはこの島出身の者を据えられるように」
やばい、お爺さんが未来の話をしている。ソレイユの心の友要員でしか考えてなかったって言ったら凄く怒られそう。
「アスモミイの姪を推してくるのかと思った」
枝スキーなあの子と、それなりに親しいみたいだったし。
「アリーナのあれは、アスモミイ殿を真似ているだけでしょう。神官になりたいわけでも、本当に枝様を欲しい訳でもございますまい。真似ているのには何か理由がありそうですが……」
「そうなのですか?」
「おそらくですが」
お爺さん、よく見てるな。俺はもう完全にアスモミイ2号かと思ってたぞ。
「後進の育成はお任せします。俺も魔法陣講座、顔を出していいですか?」
「もちろんでございます。ニイ様は教える方ですかな?」
微笑みかけてくるお爺さん。
金銀ソレイユの表情がちょっと固まった。俺が魔法陣を描けることをお爺さんは知らないはず、ってことかな?
「いや、人が描いているところを見たことがないので。ちょっと見てみたい」
「やはりお出来になりますか。ここの精霊灯はニイ様が?」
笑みを深めるお爺さん。
「ああ。俺が描けるのは偏ってるけどな」
必要な物を調べて作る方向なので、系統だってない。
特に隠す気もなく話を続ける。すでに『精霊の枝』の精霊灯とか目にしているわけだし、契約のお陰で俺について人に話せることは限られている。
まあ、話したところで被害は全部ソレイユに行くんだが。
「よろしければアウロ殿やキール殿も――光以外もお教えできますので。警備との通信手段になる魔法陣など便利ではないですかな」
「ぜひお願いいたします」
笑顔で受けるアウロ。
キールは目を逸らしてるんだが、あれか、脳筋だから勉強嫌いか? 細かい作業結構丁寧なんでいけると思うけどな。
「そういえばソレイユは何か用があったのか?」
「そうよ、聞きたいことがあったの。ここの精霊灯は観光客に見せてもいいの!? 今は
静かなのはハニワのことなのか朝のことなのか。
「あー。流しの地の民に売ってもらったとでも言いくるめといてくれ」
「流しの地の民って何!?」
地の民が地下に財宝を溜め込むというのは有名な話だ。実際に会ったらただの職人集団だったけど。
精霊銀とか金とか、確かに高いけど地の民にとっては物を作る素材に過ぎない。そして彼らは色々な道具を大事に扱う。
自分たちで魔法陣を描いたりはできないけれど、北の大地の割れ目には精霊を利用する古い道具であふれていた。特にガラスを使う精霊灯は、慎重に扱われたらしく魔法陣が残ったものが多い。まさに宝の山。
地の民自体は光よりも火の方が好みらしく、精霊灯は使ってなかったけどね。手仕事が好きなんで、蝋燭に火を入れることに小さな満足感を得ている感じなのかな? 取ってあるのは先達のデザインやら何やらの勉強用っぽい。
俺の塔の冷え冷えプレートとか精霊灯に、あまり反応がないのは見慣れたものだから。便利なものをたくさん持っているのに、使わない地の民はなんか潔くって好きだ。
「あと今日、貴方の塔から変な声が漏れてくるって苦情来てるわよ!?」
「あの塔に近づくのは禁じてあるからな。自分たちで様子を見にゆかず、こっちに報告が来る。あの野太い声はなんだ?」
ソレイユと様子を見に行ったっぽいキールが責めてくる。
ソウネ、防音してないもんね。塔の石壁は分厚いけど、通気口とか丸空きだもんね! 二日後には
「ああ、連れてきた職人さんたちに、塔の中をコーディネイトして貰ってる。十日ほどうるさいと思うけど我慢してくれ」
「あの塔はあれで完成じゃなかったの? 夢のように美しかったんだけれど……」
ソレイユが腑に落ちないような、困惑した様な顔で言う。
褒めてくれてるようだが、日本にいた頃映像で見た城の記憶を頼りに、それらしく作っていただけなのだ。
「そんなに凄い塔があるのですか?」
「俺の家」
不思議そうに聞いてきたオルランド君に答える。
「この『精霊の家』も素晴らしいものですが……」
「出来上がったらお披露目するから」
お爺さんもちょっと不思議そう。
「楽しみなような、怖い様な……。私の血圧大丈夫かしら……」
ソレイユが眉間に手を当てて呟く。
高血圧なの? 若いのに!
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