第339話 『精霊の枝』の現状
斜め後ろにアウロを従えながら『精霊の枝』へ。いや、俺的には話しづらいし、隣に来てもらっていいんだが。
なんで下がるのか聞いたら、「私は騎士ではないので、曲者が現れた場合はこの位置の方が対処しやすいのです」という、答えも斜め後ろ。
物騒な想定をするアウロの追求を諦めて、おとなしく目的地へ。
「『精霊の枝』の鍵は、パウロル様に引き継いでおります。枝の公開は今のところ、明け方に行なっておられます」
アウロの話を聞きながら開け放たれている門を越えると、オルランド君が出てきた。
「ようこそおいで下さいました」
「こんにちは、様子を見に来た。不便なことはないか?」
オルランド君が丁寧だなあ、と思いつつ聞く。
「この町は快適すぎて怖いくらいです、不便なことなどございません。ただ――」
「うん?」
いいよどむオルランド君に、先を促すための相槌を打つ。
「精霊の枝を納めた部屋で、夜になると音がするのです。すぐに扉を開けて確かめても、ただ薄布が揺れているだけで……」
「……ああ」
目を逸らす俺。
不審な現象が起こっているんですね? でもそれ、原因がわかる気がするんで触れたくない。
オルランド君の先導で『精霊の枝』を歩く、庭は相変わらず綺麗だ。その辺に走っている水路でも精霊の影響を受けた水は汲めるけれど、ちゃんとお布施をして持っていくそうで、住民が少ないわりにお布施はあるという。
普通は『精霊の枝』を流れる水は循環させているか、外に流れ出すような時は、蓋をして石畳の下を流れる
そこから汲む人がいてもおかしくないんだが――とか思ったら、水路が塀を越える場所で青蛙がなんかぷりぷりしながら舌を伸ばして水面を弾いている。そしてその度に、水に散っていた
もしかしてタダで持っていかれるのを嫌がる精霊がいるの? 金カエルとかそういう……?
というか、青蛙は手のひら二つ揃えないと乗らないくらいの大きさなんだが、できたばかりの場所にいるにはでかくない? どこから来て住み着いたんだろう。
座布団がご機嫌でふわふわと飛んでゆく。こっちの精霊、あっちの精霊と挨拶を交わしているようだ。座布団が意外と社交的……っ!
それにしてもやたら動き回る精霊が多いんだが、このままでは落ち着きのない島に……! いや、新しい町はこんなもの?
塔の青トカゲ君とか落ち着いてたし、古参の精霊は落ち着くのかな? できたばかりで寄ってきたり生まれた精霊も元気なんだろう、多分。
いかん、精霊を見るとなんか悩ましいことが増える。
「ようこそ、ニイ様」
「お邪魔します。できたばかりの場所なんで、いろいろあると思いますが、上手く回りそうですか?」
出迎えてくれたお爺さんの胸に、座布団が喜び勇んで飛び込んでゆく。絵面的には枕投げの枕を失った時とかそういう……。
「ええ、順調です。ここまでお膳立ていただいた後ですので、問題もなく」
微笑むお爺さん。
物音はいいの?
「ところで楽器職人はいつ頃参りましょうや? 生憎この老人には楽の心得がなく、調音もままなりません」
お爺さん、ハニワの行状を知っている気配。
「職人は明日にでも到着予定でございます。ミニチュアの方も明日」
アウロを見ると、予定を教えてくれた。
「『精霊の枝』の警護はいかがいたしますか? 現在は城から派遣しておりますが、独立させる意向なればパウロル様に任命していただいた方がよろしいかと」
そういえばなんとなく権力分散で、お互いに独善強行を抑止するような体制を最初に説明したような? 仲良く建設的にやっていけるなら構わないとも思うけど、それでは人柄に左右されまくってしまう。
でも最初からガチガチでも上手くいかない気もする。というか、狭い島だし発展途中の今はソレイユたちに引っ張ってもらわないと。船頭が多くて山に登っちゃっても困るし。
「さて、私にツテはございません。最初はアウロ殿に何人か候補をお選びいただき、そこから私が何名か任命するという形ではいかがですかな?」
「うん。安定するまでそれでいいんじゃないか? まだ町自体が出来かけで落ち着かないし。で、パウロル様も――」
「ニイ様、どうぞパウロルと呼び捨てで」
そっと殿から様になってるし、オルランド君共々なんか丁寧語! あれか、雇用主、雇用主だから気を使われている?
「パウロル老も、町の造成について何かあればソレイユなりアウロに、遠慮なく意見を伝えて欲しい。あと話し方は楽な方でいいぞ」
「では、一つ。いや、二つですかな? 私は精霊は見えぬが、魔法陣については
笑って頭を下げるお爺さん。
魔法陣教室か〜。俺もちょっと見てみたい。
「……パウロル様の知識をこの島で?」
なんか愕然としたソレイユの声が入り口から聞こえてきた。
声の方を見る前に、視界に入ったオルランド君のドヤ顔!
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